【二三】ツボウチのせいでシイナが傷ついたのでカンヂは提案する
「うけるのか?」
「そうしたほうがいいんだろ?」
カンヂはなにか言いたそうにしたが、すこしだまり、それから気をとりなおし、
「俺が決めたみたいに言うな。決めるのはお前なんだぞ」
「いいよもう。うけるって決めたから。どーせオンナで生きなきゃいけねーんだから、いっぺんオトコとつきあってみる。いいだろそれで。お前がすすめたんだぞ」
「そりゃあ、まあ、そうだが」
こんな感じで、シイナはケンカ腰に男子の告白をうけた。
シイナが仲よさげに男と下校する姿をみて、カンヂはなんとも言いがたいさびしさをおぼえた。
サナがスズキ君とやらに入れこむようになったときも、似たような気分になった。
かわいがっていた野良猫が姿をみせなくなったときも。
つまりそういうことか。
カンヂはそう納得した。
時おりシイナは男といるときにも、カンヂに目配せして助けをこうような顔をみせたが、それもやがてなくなるんだろう。
シイナ以外にも、カンヂには世話しなければならないやつらがいっぱいいた。
サイコが大学入学とともに家をでて、実吉家長子としての責任はふたたびカンヂの背にのっかかった。
さらに新たな男児の誕生。
カンヂはわが父親を省みて、よくもまあこのオッサンはポロポロと子供をこさえるもんだなと感心せずにはいられなかった。
とはいっても実吉家は根っからの人好きだから、家族がふえることに関しては文句をつける者などいない。
九月吉日、男児は無事誕生し、ケンゴという強そうな名をあたえられた。
産後の肥立ちもよく、母親が赤子をつれ家にもどり、実吉家は新たな生命誕生のよろこびにひたっていた。
その同時期、シイナはサッカー部のキャプテンと別れた。
理由はカンヂにも言わなかった。
シイナはまたふさぎこむようになり、カンヂとつるむこともなくなった。
そんな時だった、滑川セラから電話がかかってきたのは。
「シイナ君がツボウチ君とつきあってたって聞いて」
ツボウチは、例のサッカー部キャプテンだ。
「ああ」
「でももう別れたのよね」
「うん」
「見かけたらなんか、すごく元気なかったみたいだけど」
「そうだな、よそよそしくて、誰も近よれない。声をかけても返事ない」
「理由、わかると思う」
「何だ?」
「ツボウチ君」
それはわかってる、と言いそうになった。
「あの人、二人っきりになると、しつこいのよ」
「なにが?」
「体さわってくるの。いやらしい手つきで」
ツボウチとかいうよく知らないやつがシイナに手をのばす場面が頭にうかんで、カンヂはむかつきをおぼえる。
「それは、よく知らないけど、そういうこともするもんじゃないのか?」
子だくさんの実吉家において、男女のいとなみは寛容にうけとめられている。
「そういう人もいるかもしれないけど、私たちまだ中学生よ。それにあの人、女の子を物みたいにあつかおうとするの。どれだけの女子とつきあったかとか、そういうことにしか興味ないみたい」
えらい言われようだが、滑川セラは男を取られてくやしがっている様子でもないし、そういう性格でもない。
彼女の言葉を信用すべきなのだろうか。
「だからシイナ君、それで傷ついたんじゃないのかなって」
カンヂの心の奥深くがじくじくする。
相手の男のことをもっとよく調べるべきだった。
そして、シイナのことをもっとよく考えてやるべきだった。
「わかった。ありがとう。明日にも話をきいておく」
「うん。ねえ実吉君。私とシイナ君はうまくいかなかったけど、でも私、シイナ君のこと、きらいになったわけじゃないから」
「ああ。わかってる」
「じゃあ、おやすみ」
カンヂは受話器を置いて、しばらく今の話を吟味した。
翌日、カンヂはシイナを教室から連れだし、人気のないところでゆっくりと話を聞いた。
シイナはカンヂに体をさわらせなかった。
「なんか、あいつの家に言ったら、急にのしかかってきて、そん時俺、キモチわりいって思った。あ、ダメだって。オトコとキスとかできねー、ありえねーって」
女子のあつかいがぞんざいってのは本当らしい。
「それでホンキで拒否ったら、お前みたいなオトコオンナ、キモイからだれもさわらねーとか言われて、ムカついたけど涙でて。ごめん、ごめんな、せっかくお前が心配してくれたのに」
「いいんだ。俺もわるかった。いそぎすぎた。忘れろ。お前はぜんぜん気持ちわるくなんかない」
シイナはかぶりをふる。
「ダメだ。俺今みんなに笑われてる気がする。学生服見ただけでこわい。それがお前でも、なんかおびえちまう」
「ふうむ」
「ごめん」
「いや、いいんだ」
カンヂは思案し、
「じゃあ、相手が女子の制服ならどうだ?」
「………………はあ?」




