【一五】説得と柏手と男の約束
二人が担任教師に呼びだされたのは、同性愛さわぎのまっただなかであった。
場所は体育準備室。
「うん、事情はわかった。俺も、何もないとは思ってた」
カンヂのねばり強い説明のすえ、男子バスケ部のコーチでもある体育教師はなんとか納得してくれた。
ものはついでとカンヂはシイナの今後についてきいてみる。
「シイナのあつかい、どうするんですか?」
「どうするもないだろう。みんなには、そのまま受けとめてもらうしかあるまい」
「理解してくれますか?」
「それは、大変だが浅木のガマンしだいだ。大部分がそこにかかってる」
シイナはずっとうなだれていた。
「浅木、聞け。お前がつらいのはわかるが、いつまでも避けて通れる問題じゃない。どこかでお前は現実とぶつかりあわなきゃならんのだ。何かあったら、俺にいえば力になってやる」
シイナはだまったまま教師の顔もみない。
「これはもう五年前になるが、受けもちのクラスに白血病の女子がいて、その子は抗ガン剤治療で髪の毛がほとんどなくてな。心ないいじめも受けたが、友達もつくって、最後は笑って卒業したよ。俺みたいなのが気楽に言うなと思うかもしれんが、その子はお前よりもつらい立場だった。体のこと理不尽に思うだろうけど、とにかく我慢づよくみんなと接して受けいれてもらうしかないんだよ」
シイナはうなだれ、横目でカンヂをみる。
「さいわいお前には、お前のことをよく知る友達がいるじゃないか。実吉、浅木の力になってやってくれ」
「そのつもりです」
二人は職員室をでた。
「シイナ。俺は全力でお前の力になる。だからお前も何かあったらかくさずに言え。いいな?」
シイナは力なくうなずいた。
教室にもどるとお調子者の男子が二人に口笛をふいたが、カンヂは取りあわなかった。
シイナは机につっぷして、ひたすらチャイムをまった。
放課後、美術室にゆくと、
「ごめんねー。あたしカクシゴトとかできないのー。浅木君、傷ついてた?」
イサナがカンヂに手をあわせた。
拍手を打つもんだから、謝るというより拝んでる。
ごていねいに二礼、二拍、一礼。
神社か。
「ええすごく傷ついてました。イサナ先輩のせいで」
「ギャー、ごめーんわるいのはぜんぶあたしよー」
「まったくです。ぜんぶイサナ先輩がわるい」
カンヂがバカマジメに怒った。
衣がえする少し前、担任教師が教壇でシイナの体のことをかんたんに説明した。
好奇心で色々きいてくるクラスメイトに、シイナはタルそうに自分の体のことを語った。
それ以降、カゲでなにか言われることはあれどシイナのことを表だっててバカにするものはいなくなった。
結果から言うと、その夏もシイナはプールに入らなかった。
ものほしそうに生徒たちを見るシイナを、カンヂはなんとか元気づけてやりたかった。
「シイナ。おまえ最近きちんとご飯食べられてるか?」
「んー、コンビニとかだけど」
「また弁当をつめてってやろうか?」
「いらねー。へんなハナシ広げられるとこまる」
中学一年の夏休み、カンヂはシイナと一度も顔をあわせなかった。




