【一四】中学生のシイナの胸はひとあじちがった
「カンヂ。なあ来てくれよ」
放課後シイナがカンヂを呼びとめた。
「どうした。今日は部活がある日だぞ。お前もときどき出といたほうがいい」
「そんなんいいしちょっと、ちょっとこっち来てくれよ」
せっぱつまったようすでシイナにせまられ、カンヂはしかたなしにつきあう。
カンヂをたまたま空いていたLL教室に引きずりこみ、
「どうしようどうしようカンヂ助けて」
シイナがどうしようもなく泣きつく。
「なんだ? なにかあったのか?」
「なにかって、もうすぐプールじゃん!」
「ああ」
「俺、どうすりゃいーんだよお!」
「教師には言ってあるんだろう? なら水着を着ないですむんじゃないのか?」
「んなことゆって去年ひでー目にあったじゃん、学級会で! もうあんなんヤだよ! あのあと中村のバカ、俺まちぶせしてたんだぜ? 逃げたけど、ほんっとキモチわりーのアイツ」
「中村が? 本当か! なぜ俺に言わなかった!」
カンヂの剣幕にシイナはこわがって体をすくめる。
「だって、だって、そういうのやっぱ恥ずかしくて言えねーし、お前怒るし、かーさんにも、しられたくねーし」
きつく言いすぎた。
しんどいのはシイナである。
カンヂは反省して声のトーンをやや下げ、
「怒ってすまんかった。それで? 教師はしってるんだな?」
「ああ、うん、しってるはず。けど去年より胸おっきいし、たぶん衣がえになったらごまかせないと思う」
「去年より? 本当か?」
「ああ。見てみるか?」
「うん」
シイナはあたりを見まわし、人の気配がないのをたしかめてから制服のボタンをしたまま、おそるおそる上着とシャツをまくりあげた。
「これは、ごまかせない、のか?」
去年はもうしわけ程度だったシイナの胸は、今年りっぱに育っていた。
「薄物は、なに着てもダメだった。前からならごまかせるけど、横から見られるとキツい。腕くんでたらわかんねーくできっけど、ずっとそうしてんの不自然すぎっし」
シイナは半泣きだ。
「そうか……去年とどれぐらいちがうかよくわからんな。さわっていいか?」
シイナは少し迷って、ちいさくうなずいた。
カンヂはそっと手をのばし、ふくらみにふれる。
それから自分のふところにも手をつっこみ、もう一回シイナにふれた。
「ん……」
シイナが息をもらす。
「む」
カンヂもうなる。
明らかに、去年とはちがう。
重みがすごい。
「ううん、大きくなったな」
カンヂは例の場ちがいにマジメな顔で吟味している。
「ん、なあカンヂ、あんまさわるなって」
「ううん」
カンヂが真剣に胸をさわる。
「な、カンヂ……こわいよ……」
「ううーん」
手のひらでおしたり横によけたりして、どうにか隠せないものかとあれこれ試行錯誤する。
「カンジぃ……」
シイナの顔がみるみる赤くなる。
そのとき、教室のドアがパーンと開いた。
二人はドアのま近にいた。
シイナがそこからはなれようとしなかったからだ。
せっかく教室にもぐりこんだのにどうしてそんな所にいたのかというと、追いつめられた人間は出口の一つしかない空間に入ると、逃げ道確保のため入り口ちかくからはなれたがらないそうで、この場合のシイナがまさしくこれで、そのほうが足音も聞こえるだろうーとか、色々考えてそうしていた。
そしてそれが裏目った。
「わー!」
そこにイサナが立っていた。
「うわー!」
イサナは叫んだ。
「キャー!」
イサナは悲鳴をあげた。
「あはははははははは!」
イサナは笑ってドアを閉じ、笑い声を引きずって走りさる。
「これはやばいな」
シイナの胸をさわったまま、カンヂの太い一本眉がキュッとしかめられた。
翌日には二人のうわさが全校に広まっていた。
曰く、二人はホモ。
曰く、実はシイナはオンナ。
曰く、すっ裸で熱いキスしていた、云々。




