【一三】都筑イサナは気分上々
その先輩、都筑イサナはカンヂに負けないぐらいヘンだった。
まず好きな画家はエッシャーだという。
普通女子はドガやルノワールやゴッホなどの印象派とか人物画なんかを好むのに、都筑イサナは主にエッシャー、次にダリなぞの模写をしてばかりいた。
「ピカソはきらいなんだよねー。グダグダだし、商売うまいから」
といってけらけら笑った。
常からニコニコしてて話しかければケタケタ笑って、いつだって気分上々で生きてた。
「なにがそんなに面白いんですか?」
最初話しかけるたびに笑いだすイサナをふしぎに思ってカンヂがきくと、
「なんかおもろい。カンヂ君ヘンし」
といってまた笑った。
イサナは自分を苗字で呼ばせなかった。
「都筑ってなんか、“つづき”みたいなカンジでキモチわるいじゃん?」
「そう言われてみるとそんな気がするから奇妙です」
「そうそう。キミョーだキミョー。カンヂ君っていろんな言葉しってるね」
それでまた笑うので
「イサナ先輩は本当にヘンな人ですね」
と言うと
「ぶにゃー! カンヂ君にヘンって言われたー! ショーック! これはショックだぞおー!」
で、また笑う。
親しくなってこんな会話をするころには、シイナはほとんど部活に顔をださなくなっていた。
滑川セラがはいった女子バレー部の見学にいそがしいという話だった。
「サネヨシって苗字、いいよね。最初ミヨシって読んじゃったけど」
「そうですか? 家族みんな実吉だから、いいとかわるいとか思ったことないです」
「家族が苗字いっしょなのは当たり前ー。やっぱカンヂ君ヘンー」
あんまし二人仲がいいので一時カンヂとイサナはつきあってるんじゃないかってウワサも流れた。
朴念仁のカンヂと天然のイサナでは、そのウワサってのも長つづきしなかったが。
苗字の話が頭にのこっていたので、家でカンヂはサイコにたずねた。
「母さんが再婚して苗字が変わったとき、奇妙じゃなかったか?」
「そんなもんすぐに慣れた」
それでおしまい。
そもそもそういうことを気にする人間ではないってこと。
カンヂたちが中学校の空気にやっとなじんだころ、夏はそこまできていた。




