【一〇】サイコの伝授するデートの心得には命がけの項目がある
修学旅行は十一月頭で、北海道だった。
三泊四日間の行程をつつがなく終え、六年生たちはくたびれはてて家路についた。
シイナは参加しなかった。
滑川セラからカンヂに電話がかかってきたのは、年末さしせまったころだ。
「バツゲーム思いついたの。明日買い物にいくんだけど、その荷物もちしてよ」
「よしわかった」
正直そんなのわすれていたカンヂだったが、二つ返事でひきうけた。
約束はかならず守れ、は実吉家の家訓であった。
それで買い物のはなしだが、それをサイコにいったところ、
「おいおいそれはデートじゃないか。カンヂ、もしや初デートか?」
大いに食いついてきた。
「デートじゃない。荷物もちだ」
「そんな低脳な言い訳を信じるのはお前ぐらいだ。それで場所はどこだ?」
「堂が丘駅前のマクロビジョンでまちあわせ」
「完全にデートだ。あんな繁華街にどうでもいい男といくはずがない。本当に荷物もちさせるなら、ホームセンターに行って本棚買う。予言しよう。あの子は服やらアクセサリーやら色々と身をかざるものを買うはずだ。お前はその都度似合うかどうかきかれる」
「こまる。おれ女の服なんてわからん」
「そんなもん感覚で適当に答えとけ。どっちか選べといわれた場合はより速やかに選択しろ。理由を聞かれたらそっちが好きだからと言え。右利きだから右、みたいなのはそれが本当でも絶対に口にするな」
「なんでそんなことを、よりによっておれにきくんだ?」
「男子の好みをしりたいと見せかけて、お前の好みをしりたいのだ。ただしあの子がお前がすすめた方を買わなくても、不満げにはするな」
「なるほど」
「あの子は保守派だから、飯を食ったらおごっとけ。後で小づかいをやろう」
「わかった」
「その前に衣装だな。髪型もだ。服かき集めて部屋にこい。コーディネートしてやる」
「この格好でいいだろう」
「たわけ。そんな服装でいってみろ。滑川って子に殺されて埋められるぞ」
「それはこまる。たのむサイコ」
「まかせろ」
それから二人は部屋にこもって一時間と四十四分をすごした。
扉が開いてでてきたとき、カンヂは頭からつま先までかつてないほどファッショナブルだった。
そして当人はげっそりクタビれていた。
翌朝カンヂの出発を、家族全員が見まもった。
みながみやげ話に目をかがやかせていたが、サナだけはブスったれふくれっツラでいた。
カンヂがよその女とデートにいくと聞いて、癇癪をおこしたのだ。
これはずっと前からの約束で、実吉家の人間なら約束はかならず守らなければならないということがわかるはずだと説きふせて、ようやく見おくりにでてきた。
「じゃあいってくる。サナ。おみやげ買ってきてやるからな」
カンヂが頭をなでても、サナは顔をあげなかった。
バスと電車を乗りついでまちあわせ場所にたどりつくと、滑川セラはもういた。
「おそーい実吉君。十分遅刻」
「すまん」
「当ててあげましょっか。その服、サイコさんがえらんでくれたんでしょ」
「よくわかったな。すごいぞ滑川」
「だれでもわかるよー」
滑川セラが、ひらりと舞った。




