表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/11

第8話 もう1人のエリカ

 空間ディスプレイに表示されたニュースの続報を見守っている。その時だった。


 カランカラン……


 入口の鐘が鳴る。他にお客さんが来たようだ。その時、マスターの顔が目に入る。無口なマスターが、口をあんぐりと開けて驚いた表情をしていた。


 何事だろう? そう思って、入口の方に目を向けると。


「あッ……!?」


 思わず驚きの声が口から漏れる。


「どうした? トオル…… えッ!? お、俺が…… もう1人?」


 僕の様子に気づいたエリカも店の入口の方を見て驚愕する。


 入口に立っていたのは、金髪にショートカットの髪。黒いTシャツにボロボロのジーパン姿。それは、目の前にいるエリカそのものだった。


 エリカが2人いる!? そう思った時。入口に立っているエリカにノイズのようなものが入り、その姿がパッと消えた。そして、代わりに現れたのは、黒い毛むくじゃらに太い腕。


 そう、1匹のゴリラが立っていた。


 パリンッ!


 食器の割れる音がする。マスターが手に持っていた食器を驚きのあまり落としてしまったようだ。


 突然、店の入口にもう1人のエリカが現れたと思ったら、それが今度はゴリラの姿に変わった。


 よく見ると、ゴリラは右手に何か持っている。それは石鹸せっけんみたいな形の携帯用パソコンだと気づく。


「……ま、まさか!? 空間ディスプレイの技術を応用したのか……?」


 とても信じ難いことだが。ゴリラは、携帯用パソコンを使って、自分の周りに空間ディスプレイを外向きに表示していたのだ。そして、空間ディスプレイにエリカの姿を映し出し。周囲からは、人間のエリカに見えるように偽装していたのだ。そうとしか考えられない。


「……ゴリラだ! 本物のゴリラが目の前にいる!!」


 エリカは、興奮した様子だった。そして、ゴリラの方に向かって駆け寄ろうとした。


「待て! エリカ! 危ない!」


 僕は、慌ててエリカを止めようとするが間に合わない。エリカは、ゴリラに抱きつこうとした。その時だった。


 パシィーンッ!


 ゴリラは、左手で駆け寄ってくるエリカを払いのけた。そして、空間ディスプレイで表示されたキーボードをカタカタと器用に叩く。


「君ニ用ハ無イ! 僕ハ、東山ひがしやまトオル君…… 君ニ会イニ来タ……」


 無機質な人工音声が、ゴリラの持っている携帯用パソコンから響く。


「ぼ、僕に会いに来ただって……?」


「ソウダ…… 君ト勝負ガシタイ。イヤ、正確ニ言エバ…… 君ノ『ナックルウォーカー』ト勝負ガシタイ……」


 思わず聞き返すと、信じられない返事が来た。ゴリラは、キーボードを操作して空間ディスプレイを表示させる。そこには『ギア・ウォーズ』のゲーム画面が表示されていた。


「僕とゲームで勝負するために、わざわざ動物園を脱走してやって来たって言うのか?」


「ソウダ…… ソノタメニココニ来タ……」


 僕は立ち上がって、ゴリラと対峙する。ゴリラは、真っすぐな目で僕を見ている。


 チラっと視線をエリカに移す。エリカは、ゴリラに払いのけられて転倒していたが、マスターが側について立ち上がっていた。怪我は無さそうだ。


「分かった…… そこまで言うなら勝負しよう!」


 エリカの目の前だ。ゴリラに勝負を挑まれて逃げる訳にはいかない。殴り合いならともかく。得意なゲームでの勝負なら、こちらに分がある。


 僕は、自分の携帯用パソコンから『ギア・ウォーズ』を起動させる。そして、対戦画面を表示させた。


「対戦ルームニ君ノ『ナックルウォーカー』ヲ招待スル」


「OK! 勝負開始だ!」


 目の前のゲーム画面が変化する。戦いの舞台となるステージは草原だった。青い空の下、どこまでも緑の草原が広がっている。風で草が波のように揺れていた。


 目の前に、ゴリラの操る機体が表示される。機体名は『ERIKA』。戦績は0勝0敗。細身の人間の女性のような姿を思わせる機体だ。銃火器は持っておらず、代わりに電磁ブレードの刀を装備していた。


「サア、始メヨウ! トオル君…… イヤ、『ナックルウォーカー』!」


「ああ。いつでも来いよ! 叩きのめしてやる!」


 いつも対戦マナーを心がけている僕だったが。今回ばかりは、冷静さを失っていた。いつもの見えない相手じゃない。ネットの知らない誰かじゃない。今回の対戦相手は、目の前にいるゴリラなのだ。


 負けられない…… エリカのためにもこの勝負。絶対に負けられない。


 いつになく気合が入る。たかがゲームではない。これは、真剣勝負だ。


『FIGHT!』


 試合開始の合図が表示される。


「行けッ! ナックルウォーカー!」


 先手必勝だ。僕は、ナックルウォーカーを突撃させる。太い両腕で地面を蹴り、四足歩行で一気に距離を詰める。


 人間の僕が、ゴリラのような機体『ナックルウォーカー』を操り。ゴリラの方は、人間の姿をした機体『ERIKA』を操る。仮想空間でお互いの姿を取り替えたような戦いとなった。


「行クゾ!」


 ゴリラの操る機体は、電磁ブレードの刀で斬りつけようしてきた。それを待っていたかのように僕は叫ぶ。


「今だッ! 飛べッ! ナックルウォーカー!」


 ナックルウォーカーは、2本の腕を大地に叩きつける。その反動で空へと舞い上がった。ERIKAの電磁ブレードを直前で避ける。


 そして、空中で体勢を整えて拳を相手に叩きつける。以前、JKキングとの対戦でも見せたアクロバットな技だ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ