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第6話 飛行

 それから、1時間後――――


 動物園に到着すると、すぐにゴリラのいる檻に向かう。エリカは、フェンスにかじりつくようにしてゴリラを眺める。僕も隣に立って一緒に見ていた。


「やっぱ、いいなー! 本物のゴリラは。自由だぜ! 野生の息吹を感じるぜ!」


「そうか……?」


 檻の隅で座っているゴリラの目は虚ろだ。僕たちに反応することもなく。ただ、空虚な目でどこかを見つめていた。とても自由だと思えないし、野生の息吹も感じられない。


 そのまま、エリカは黙ってゴリラウォッチングモードになった。こうなると彼女は、数時間は動かない。僕は近くにあるベンチに腰掛けた。


「やれやれ。ゲームでもして時間を潰すか……」


 ポケットの中から携帯用パソコンを取り出した。電源を入れると空間ディスプレイでメニュー画面とキーボードが目の前に現れる。そして、いつものゲーム『ギア・ウォーズ』を起動させる。


 対戦画面を開くと、待ってましたと言わんばかりに『挑戦者が現れました』と表示された。


 嫌な予感がする……


 表示された対戦相手の名前は『JKキング』だった。


「ひゃっはー! ここで会ったが百年目ってね! 待ってたぜぇー! ナックルウォーカー!」


「はぁー。また、あなたですか。しつこいですね」


 ボイスチャットで聞こえる下品な笑い声。僕は、うんざりした顔でため息をついた。


「ひゃッひゃッひゃッ! 今日の俺様はひと味違うぜぇ! 今日こそてめえをボコボコにしてやんよ!」


 妙に自信あり気なJKキング。戦績を見ると、20勝2敗になっている。この2敗は、僕に負けたものだとして、それ以外の相手には無敗の20連勝をしていることになる。


『FIGHT!』


 戦闘開始の合図が表示された。戦いの舞台となるのは、いつもの荒野のステージ。青い空が広がり、遠くに岩山が見える。


 目の前に現れたJKキングの機体を見て、僕は思わず驚きの声を上げた。


「おお!? 飛行ユニットをつけているのか!?」


 人型の機体の背中には、ジェット機みたいな翼がついていた。これは『飛行ユニット』といって、文字通り空を飛べるようになるパーツだ。


 しかし、このゲームで空を飛ぶことは非常に難しい。ちょっと操作を誤っただけで、姿勢を制御できなくなり墜落してしまう。別名『墜落自殺ユニット』と揶揄されるほどだ。


 だから、対戦で使用する者はほとんどいない。めったにお目にかかることはなかった。


「ひゃっはー! 行くぜぇー! ナックルウォーカー!」


 背中のロケットエンジンを噴射させて、JKキングの機体は大空へと舞い上がった。そして、空中で安定した飛行を見せる。僕は、素直に感心した。


「へぇー。大したもんだな。飛行ユニットを使いこなしているじゃないか」


「ひゃーッひゃッひゃッひゃッ! それだけじゃないぜぇーッ!」


 空中を飛行しながらJKキングは武器をかまえる。大型のスナイパーライフルだ。さすがに、この銃弾はナックルウォーカーの腕でガードできない。貫通してしまう。


「けけけ! 空から狙い撃ちにしてやんよ! 行くぞー! ナックルウォーカー!」


 空中から狙撃してくるJKキング。僕のナックルウォーカーは、慌てて回避行動に移る。


 キュンッ!


 近くの地面に着弾して、砂ぼこりが上がった。


「空中を飛行しながら狙撃だと!? しかも射撃の精度が高い!」


「ひゃーッひゃッひゃッひゃッ! どうだぁー? ナックルウォーカー! 空を飛ぶ相手には手も足も出ないだろぉ! 悔しかったらお前も飛んでみろよ! ひゃーッひゃッひゃッひゃッ!」


 JKキングは勝ち誇ったように笑う。


 僕のナックルウォーカーは、銃器を所持していない。武器は2本の腕から繰り出されるメガトンパンチのみ。さすがに、空を飛ぶ相手には届かない。


「なるほど…… 安全圏から一方的に射撃して攻撃する。戦略的には理にかなっている。大したものですね。JKキングさん」


「ひゃーッひゃッひゃッひゃッ! どうした? 負けを認めるのか? ナックルウォーカー! 降参してもいいんだぞ!?」


「まさか? 降参なんてしませんよ。攻撃手段ならありますから」


「何だとッ!?」


 僕のナックルウォーカーは、足元にある大きめの石を拾った。手のひらサイズの丁度いい石だ。


「おいッ! 石なんて拾ってどうする気だ? まさか、それを投げて攻撃しようってんじゃあねえよなー!? ひゃーッひゃッひゃッひゃッ! そんなもの当たりっこないぜ?」


「そのまさかですよ! 行きますよ。JKキングさん!」


 ナックルウォーカーは、野球のピッチャーのように投球フォームをかまえる。そして、空にいるJKキング目がけて石を投げつけた。


 ゴリラのように太い腕から投げられた石は、時速160キロを超えてJKキングの機体に命中した。


「な、何ィ―ッ!?」


 JKキングは叫び声を上げる。そして、機体は衝撃で飛行状態を保てず墜落していく。数秒後に、地面に激突して爆発した。


『勝者! ナックルウォーカー!』


 僕の勝利が告げられる。JKキングの声は、わなわなと震えていた。


「ば、馬鹿なッ!? 俺様が3度も負けるだと……? くそッ! 許さねえ! 絶対に許さねえ! 次こそは、絶対に勝ってやる! 覚えていやがれ! ナックルウォーカー!」


 捨て台詞を残していくJKキング。


「まだ、やる気なのか……」


 僕は、ちょっと呆れた顔でつぶやいた。



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