第4話 夕日
ステージは、前回と同じ荒野だ。しかし、時刻は夕暮れで。地平線の向こうに沈んでいくオレンジ色の夕日が見える。
夕日で赤く染められたJKキングの機体が見える。前回と同じ人型のようだが。あちこちのパーツが改造されていた。10勝しているだけあって、多少は強化されていると思われる。
『FIGHT!』
画面にそう表示され、戦闘開始の合図が流れる。
「ひゃーッひゃッひゃッひゃッ! 同じ手は喰わないぜぇッ! ナックルウォーカー!」
JKキングの機体は、地面を滑るように横に移動している。足回りをホバーにカスタマイズしているようだ。スピードは、かなり速い。
「ひゃひゃひゃ! これでも喰らいやがれ!」
移動しながらアサルトライフルを連射するJKキング。僕のナックルウォーカーは、両腕でガードした。
キンキンキン!
太い両腕が盾となって弾丸を弾く。この両腕は、パンチだけではない。こういう使い方もできるのだ。
「ちぃッ! だったら、背後に回り込んでやるぜぇーッ!」
地面を滑るように移動して、ナックルウォーカーの背後に回り込むJKキング。そして、背後からアサルトライフルを連射するが。
ナックルウォーカーは、素早く振り返って両腕でガードする。またしても銃弾は弾かれた。
「そんな武器じゃ、僕のナックルウォーカーは倒せませんよ!」
「くッ! うるせえッ! だったら、望みどおり叩き斬ってやるよぉーッ!」
痺れを切らしたJKキングは、アサルトライフルを地面に投げ捨てた。そして、腰から剣を抜く。電磁ブレードと呼ばれる接近戦用の武器だ。電磁力で切断する剣。さすがのナックルウォーカーもこの武器を両腕でガードするのは不可能だ。
「行くぜぇーッ! ナックルウォーカー! ぶった斬ってやるぜぇーッ!!」
JKキングは、一直線に向かって来る。だが、接近戦なら負ける訳にはいかない。
ギリギリまで引きつけると、ナックルウォーカーは両腕を地面に叩きつける。そして、その反動で空中に舞い上がった。腕をバネにして飛んだのだ。
「な、何ィッ!? 飛びやがった!?」
思わず驚愕の声を上げるJKキング。ナックルウォーカーは空中で体勢を立て直し、そして両こぶしをJKキングに叩きつけた。
空中からの攻撃は、想定外だったのだろう。JKキングは避ける事もできず。ナックルウォーカーの一撃でペシャンコにされる。
『勝者! ナックルウォーカー!』
僕の勝利が決まった。JKキングは、悔しそうに歯ぎしりをする。
「ギギギ…… くそぉッ! ちくしょうッ! 次だ! 次に会った時は、絶対に負けねえからなッ! 覚えていやがれッ! ナックルウォーカー!」
「はいはい。お疲れさまでした。JKキングさん」
僕は、淡々と返事をする。できれば、次回は会いたくないものだ。
結局、あっけなく勝負はつき。僕は、携帯用パソコンの電源を落とす。
エリカは、まだゴリラの檻にかじりつくようにしてゴリラを眺めていた。僕は、小さくため息をついて携帯用パソコンをポケットにしまった。その時だった。
「今のゲーム『ギア・ウォーズ』だよね?」
突然、話しかけられる。男性の声だ。振り向くと、動物園の飼育員と思われる男性が立っていた。手にはバケツを持っている。年齢は20代くらいだろうか。若い飼育員さんだ。
「え、ええ。そうです」
僕が答えると、飼育員さんはニコっと笑った。
「そうか。実は、僕もやってるんだよ。面白いよね。あのゲーム」
「ええ、そうですね……」
突然、話しかけられても何と返したらいいか分からない。適当に相槌を打って返す。
「ごめんね。邪魔して。じゃあ、ごゆっくり」
結局、飼育員さんはそう言い残して去って行った。特に用事があった訳でも無さそうだ。たまたま知ってるゲームをやってたから、話しかけてきただけのようだ。
せっかくフレンドリーに話しかけてくれたのに。もう少し気の利いた返事をすればよかった。少し後悔が残る。
それから、2時間後――――
すっかり夕方になった。僕は、ようやくゴリラに夢中のエリカに話しかける。
「エリカ。そろそろ帰らないと…… 遅くなるよ」
帰りも徒歩で帰らないといけない。片道1時間以上はかかる道のりだ。
エリカは、不機嫌そうな顔で振り向く。
「ええー? もうかよ。もっと、ゴリラを見ていてーな」
「また、次来ればいいじゃないか」
「ちッ。仕方ねえな……」
渋々、了承したエリカを連れて動物園を出る。周囲は、すっかり夕暮れになっていた。暑さがだいぶ和らいでいるのが助かる。
帰り道のエリカは、テンションが低い。無言で歩いている。僕は、話題を作ろうとエリカに話しかけた。
「なあ、エリカ。夏休みが終わったら、学校には来るよな?」
「いや、行かねーよ。ゴリラは、学校になんか行かないからな」
せっかく話しかけたのに、会話は1ターンで終了した。
今の彼女は義務教育すら受ける気はないようだ。だからといって「学校には行こうよ!」と説教めいたことを言う気にもなれなかった。
あの日から、彼女はすっかり変わってしまった。
だが、僕の思いは変わっていない。僕は、ただ彼女の側にいられれば、それでいいと思った。