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12歳の現時点は美少年。

いずれイケメンになるだろう約束されし容貌をしており,

両親祖父母を見れば血筋的にスタイルも良さそうだ。


我がゲイルバード家は現在,高位貴族の筆頭で一番の権力ちから持ちだ。


攻略対象が複数いる乙女ゲームだとしたら,『宰相の息子』として紹介され

TL小説だとしたら『公爵家の跡取り』あるいは『公爵』として,

ヒロインを溺愛とかしてそう。夜も眠れません!!とかタイトルで。


そして,そんな完璧な弟にして最低最悪な,行きおくれ『令嬢』の姉。


設定的には十分あり得る。


しかし,この見た目に恵まれ設定の宝庫な弟は

何を間違ったのか,とんでもないシスコンになってしまっていた…。



どうやらゲイルバード家は愛情深く表現方法も激しい血筋らしい。

父方の親戚からは会えば必ず揉みくちゃにされる。

身なりは立派な貴族様なのに,やってることは田舎の親戚だ。


そんな血筋の相手が務まるくらいだから,伴侶の条件はかなり特殊で

この貴族社会では一般向けでない過剰表現に同じ熱量で答えられるタイプの人か,

あらあらウフフかおやおやと笑って受け流すタイプでないとしんどい事になる。


ちなみに母は,毎度過剰に反応する人だが,

貴族にあるまじき行動だ,恥ずかしいと言いながら顔を背けたり

扇で隠すが満更でもなさそうで嬉しそうだ。

典型的なツンデレですね。


表向き不機嫌にしながらも,父の全ての愛情表現を真正面から受け止めてるんだから母も相当に愛情深いと言うか…激しい人なのだろう。


普段は,宰相仕事で忙しい父に代わりゲイルバードの領主代行をしている母は,

見た目の儚さに反して鋼の女だ。


そんな女の頬を染めさせ,心乱こころみださせるのだから父は偉大なのだ。


リュカス弟はちょうど良く両親のミックスで

ツンと言うかクールと言うか,興味なさそうにしてるのに

スイッチ入ると詩的な表現で褒める褒める。

それも陶然とした顔で,歌うように囁くように顔を近づけてと言うもんだから…


12歳にしてこのテクニック!!と,恐ろしいものを感じた。


好感度高くなったら甘いセリフとシチュエーションで糖度高めてくる。

懐入れたら溺愛系のCERO上げ要員になりそうで,お姉ちゃん心配。


そして,姉を口説くのをやめてほしい。

『事実を述べてるだけです』とか本当,お世辞でも嬉しいけれど

そんなに絶賛されるほどの美貌ではないし,偉業もなしてないから。



前世のわたしは末っ子で,上に兄と姉が1人づつ。

両親それぞれの親戚の子供たちの中でもわたしが一番下で

親戚総出の末っ子扱いだった。


大人になり甥姪が生まれてはいたが,

その頃には社会人になっていて絶賛搾り取られていて

親戚の集まりに顔を出せるような長期休暇なんてもらえていなかったし,

何より帰省する為のお金がなかった。


だから,下の子をどう扱えば良いのかはわからなかったけど

『お兄さんお姉さんにはどうあって欲しかったか』の

末っ子心はわかっていたから

『令嬢仕草』に合わせて『理想の姉ムーヴ』も確かにしていた。


それだけに留まらず,幼少期のお世話人が

流行病で死にかけていた際の,隔離されていた事や1人耐えていた事を

英雄譚並みに美談にされ,寝物語代わりに聞かされていたらしい。


そんなフィルターが何重にも積み重ねられて,

こんな悪役ちっくな見た目の姉を『夜を統べる女王のように気高く美しい』と

褒める様な審美眼になってしまったのだとしたら…申し訳なさで土下座したい。


彼のシスコンフィルターを通すと,

重く硬質的な黒髪と血濡れた様な赤眼がそう見えるらしい。

初めて聞いた時は3回は聞き直した。


今回の冬の領地行きも姉とは別だと知ると,泣いて嫌がった。


貴族の子供の義務であると母に引きずられていったが,

走り去っていく馬車の後部窓にへばりついて泣いていた。


貴族なので魔力量も多く,姉のわたしに倣ならって早くから家庭教師に学んでいたので

同じ歳の子達よりも相当優秀で聡明そうめいなのに,

『シスコン』と言う一点でとても残念になってしまっている。


今も,街道が使えるようになったと知った次の日の朝一で出発したと聞いて

夜通し荷造りした侍女たちや,

護衛や馬車の手配をした領邸の人たちに申し訳なくなる。


しかもその理由が『父危篤チチキトクスグ帰カエレ』ではなく,ただ姉に会いたいから。


1人で冬の領地にいるのがどれだけ退屈だったか,

いつもは,一緒に本を読み,カードゲームに興じ,雪の丘を歩いて過ごしていたが

同じことをしてるのに退屈で,静寂が耐え難くて孤独で死んでしまうかと思った,と熱く語る弟には不安しかない。


こんなのが次期領主で不安!!とか思われてないかしら??


わたしにとってはどうしようもない弟だが,そこが可愛い。

しかし,領民にしてみれば知ったこっちゃないだろう。


あるいは,設定的に『魔女の様な姉に堕落させられた公爵』を救済するストーリーだったりするのかな??

それとも『心酔する姉が不慮の事故で死んで,病んだ公爵』とかって??


R-18系の病デレ監禁キャラの素養がありすぎる!!


もし弟が実際に攻略対象であった場合は,

ヒロインには速やかに逃げていただきたい。


キャッチフレーズは,病デレな公爵に愛され過ぎて夜も寝られない!!だ。

…R-18的な意味か,実際に怖すぎてなのか。



姉わたしが春からは別邸に移り住み,向こう何年間は顔も見れないから

『自分も別邸に移り住む』とベショベショ泣き出した弟にハンカチを渡しつつ

まだ見ぬヒロインに…あるいは,いずれは必ず迎えるであろう義理の妹に激しく同情した。


シスコンの旦那と,愛が重すぎて息苦しい男とどっちがマシなのか…。


わたしはどっちも嫌だ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 会話よりも説明をメインに置いてる物語なの?
2022/04/30 19:57 退会済み
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