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カクヨムにて同時に投稿中。そちらの方が数話先行投稿しています。


→https://kakuyomu.jp/works/16816927860273874320


こちらはコピペになりますので,ルビや傍点など崩れてしまっています。

読みやすさや先の話が気になる方は,カクヨムがオススメです

森深い山奥から王都に引っ越してきたヒロインは,

さほど裕福でもなく伝手つてもなかったので

学園内の『寮』で寝起きする事になったと言う設定だった。


シェアハウスに近い作りになっていて,

最低限のベッドと机,備え付けのクローゼットがある程度の6畳一間。

水回りは共用になっていて,大体10人ほどが想定されている『寮』だ。


かつては使う者が一定数以上はいたのだろう。


このボロ屋敷だが,実は好きにカスタムできる仕様になっていて

インテリアコーデはお楽しみ要素の1つだった。


庭の花壇では,花や薬草や野菜などが育成可能で

自家製で調薬もできるし,ステータスアップのための料理の材料にもなる。


買った食材より,女神の加護のあるヒロイン産の方が上昇率が高い。

もちろん,野菜や薬草はそのまま売って資金にもなる。


学園管理のダンジョンで冒険するのも楽しかったが,

寮での生産部分も面白かった記憶がある。


下手に『乙女ゲーム』なんて看板文句にしなければ,もっと売れただろうに

…勿体無い。


しかし,ステータス育成にダンジョン攻略,生産に寮のカスタマイズ…

ゲームでならともかく,実際にそれらを全てこなすのは厳しいのだろう。


ヒロインは日に日にやつれくたびれ,見窄みすぼらしくなっていった。



ダンジョン潜って傷つき帰ってきても,

ゲームなら一晩眠れば全回復だが,現実の傷が一晩で治るはずもない。


治癒魔法はあるが,精も根も尽き果てて帰宅するので

そんな余裕は残っていないのだろう。


植物だって生きている以上,毎日の世話が必要だし

収穫したものも早めに調理・調薬加工しないと鮮度が落ちていく。


作った料理や薬は,ゲームなら消費期限なんてないが

現実には賞味にも消費にも期限があって無限には保たない。



実はこれらの問題を解決する方法がある。


1瓶飲んだだけで,体力も傷も回復する薬や癒しの効果のあるアイテム。

畑に生えている状態なら,最上のまま保てる結界。

入れた時点で時間が固定されるので,超長期の保管が可能な収納ボックス。


公爵邸では見慣れたそのアイテムや薬の数々だが,めちゃくちゃにお値段が高い!!


実はゲームでは,

難易度次第ですでに手持ちである状態で遊べるモードがあったが,

しかし,現実には難易度設定などはない。


おそらくヒロインサラの今の状況は

究極のやり込みモードとして難易度設定画面に君臨し,

しかしこのモードをクリアして入手できるスチルがあると言われた


『悠久の詩うた』を鬼畜クソゲーと言わしめた難易度『アルティメット』


このモードでのみ入手できる1枚絵スチルがあり,

それを入手してやっと,フルコンプのお祝い絵が解禁される仕様。


参考にしたレビューサイトの人は

あまりの尊さに死んだ…と報告の記事だけを書いていた。


鬼畜やり込みはしたくないがスチルは見たい人たちがコメ欄を荒らし

そのせいで,その人のブログの更新は途絶えてしまったのだ。


と,相変わらず,ゲームの内容に関係ない部分ばかりを思い出しているが

今の彼女がその難易度アルティメット状態なのは一目瞭然だろう。


寝不足と栄養不足。お金が足りず,満足に食べられない。

時間が足りなくて,宿題もやってこれず,授業はうたた寝ばかりで怒られてばかり。


入学式の一件で貴族に目をつけられ,授業態度で教授に目をつけられ…

見た目にも気を使わない(本当は使う余裕のない)ヒロインは

教室内だけでなく,学園内で孤立してしまっていた。


2人組では意図的にあぶれさせられ,グループの時には誰も見向きもせず,

仕方なしに教師がどこかに組み込ませる。


『悠久の詩うた』にいじめ問題のようなダークなイベントはなく,

底ステータスの時に冷たいのは攻略対象からの一言評価だけだったはず…


好感度の低いときには塩対応なのは乙女ゲームのあるあるだからそこは良い。


しかし,周囲からこんなに浮いた描写はなかったはずだ!!




入学式から約2ヶ月。教養の授業,マナーの時間。


このお茶会マナーの時間は,平民向けのマナー講習で

貴族出身の生徒にとってはただ座っているだけの退屈な時間だ。


男女比を偏らさないために,各テーブルは組み分けされているはずなのに,

このテーブルは,わたしとヒロインサラのマンツーマンになってしまっていた。


例によってポツンと1人にされてしまった彼女の姿が,

ブラック勤務時の辛うじて『生きていた』だけの自分と重なって

思わず声をかけてしまったのだ。


お茶菓子を前にソワソワする彼女に,

認識阻害の魔法をかけたからお好きにどうぞと言ったら

途端に貪り始めたので,お茶を冷気魔法で覚まして準備しておく。


案の定,喉に詰まらせたので差し出すと一息で呷り,

またお菓子を咀嚼そしゃくする作業に戻る。


とにかくカロリーを摂取する『作業』

腹にたまり燃料に変換されればなんでも良い時の食べ方。


その姿に乙女ゲームのヒロインとしての面影はない。


ゲーム中での育成シーンは,ミニキャラ化したヒロインが

テーブルに座って優雅にティーカップを傾けて終わっていたけれど


現実に,それも鬼畜モードver.で見るとこうなるのか…。


こんなに疲労困憊の状態では好感度云々うんぬんの前に,

ステータス育成もままならないだろう。


シナリオの進行上,一定以上の好感度で回収しなきゃ詰むイベントもあるが,

定期テストや通知表で成績が悪いと,それはそれで退学でバッドエンドだ。


理由は奨学金生だから。

見込みがない生徒は通わせる価値がないと判断されるのだ。


ゲームとはいえ,鬼すぎる設定だ。



渡された2杯目のお茶を流し込みながら,ヒロインサラは,ついに泣き出してしまった。

それでも,目の前の食べ物に手を伸ばす。

今食べなければ,次いつ食べられるか分からないからだ。


変更のできない現実こそがルナティックとは…現実のなんと残酷なことか。


いつかは効率化できて改善するかもしれない。

しかし,いつかとはいつのことなのか??


そうやって『見守り』続けて出勤しなくなった人間がどれだけいたのか??


何より『ある日奇声をあげ飛び出し行方不明になった同僚』寸前の様な

このヒロインをどうにかしなければ

攻略対象の攻略もままならず,そのまま世界は終わってしまう。


ステータス育成も重要だが,今の幽鬼ゆうきのような彼女に恋する男はいないだろう。


憐れみや同情は恋になることもあるが,恐怖や嫌悪は拒絶しか生まない。



涙に鼻水まで流し始めたヒロインサラの姿に,ため息を吐き

わたしは3杯目のお茶の準備を始めた。


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