六話
ふと夜更かしの最中に、バニラは慌てて布団を抜け出した。
不思議そうな二人の方を振り返り、バニラはチョコだけをぶんぶんと手招きする。
「えー、なにー」
半分は寝てるような間延びした声に、バニラはなにかコソコソと怒った。
ハッとして、チョコも棚の方へ駆け出す。
「どうした?」
取り残されたジャンボは、二人が突然ソワソワし出すので、ただその姿を見守っていた。
すると、二人は綺麗なリボンが巻かれた箱を取り出す。
「な、なんかさ……ここまでするの派手かなって思ったけど……」
「誕生日プレゼント……」
二人はなんとなく気が引けて、寝台まで戻らずに、その箱を抱えて立ち尽くした。
ジャンボは自然と立ち上がって、二人の方に歩み寄る。
チョコは帽子で顔を隠して、バニラは目を宙に泳がせて、二人ともかなり緊張したようだった。
そんな二人を突然ジャンボはガバッと抱きしめる。
「な、なんだよ!受け取ってからにしろよ!」
「まだ中身も見てないだろ!気に入らないかもしれないし!」
二人は必死になって訴えたが、ジャンボは泣き笑いしながら二人から離れる。
「ごめん。嬉しさが限界越えた」
「なんだそれ」
照れる二人から箱を受け取り、ジャンボはテーブルに置きながら、包装を取っていった。
「……ん?なんだこれ。ユニコーンみたいなの描いてないか?」
「それしか包装紙がないって言われた……」
「なんでむしろユニコーンがあるのか分かんねぇんだけど……」
確かにな、とジャンボは笑う。どう見ても子供向けの包装紙だが、中から出てきたのは質のいい紙の箱だった。
その時点でジャンボの顔色が変わる。
「……なんか、物凄くいい物じゃないか?」
「盗んだわけじゃねーぞ!」
「いや、そんなことは全く思ってなかった。でも、小遣いで買ったのか……?これ……」
「うーん……あとちょっと、友達の家の手伝いとかした」
「そうか、そういう手が……」
単純に感心しながら、ジャンボは箱を開けた。
すると、中から綺麗な藍色の万年筆が現れる。
思わずジャンボは口を抑えて、感動したように声をあげた。
「これは……凄いな。高かっただろ?」
「実はそうでもない。だから、買えそうだから選んだんだ。綺麗だろ?」
「本当に凄いな……」
万年筆はバニラから受けとった箱に入っていた。
「これで字の練習とかしたら、すげー上達しそうじゃない?」
バニラは笑って適当なことを言う。しかし、ジャンボは頷いた。
「ありがとうな……大事にする」
そして、いったん万年筆を箱に戻し、ジャンボはチョコの方の箱を手にとろうとしたのだが。
「あ、あー、あー、待って」
チョコはかなり戸惑ったように、変な慌て方をしている。
バニラは笑った。
「なんだよお前、変なの選んだのかよ」
「い、いや、あー、いや、その」
ジャンボはなんとなく察しがついた。
二人とも同じ包装紙なのだ。きっと同じ店で買ったのだろう。
だとすれば。
「チョコ。お前、万年筆買ったな?」
ジャンボは悪い顔で笑った。バニラは少し固まって、色々合点がいって、ああー!とか叫ぶ。
チョコはオロオロが止まらず「別のと替えてくるからぁ!」と叫んだ。
ジャンボはその様子がおかしくて仕方がない。
「なんでプレゼントの内容、お前らで話し合ってないんだよ」
「だって、人にプレゼントあげるの初めてで……」
「友達とかにはあげたりしないのか?」
「一緒にお菓子食べて終わっちゃう」
「あー、そりゃそうだよな……」
ジャンボは全く同じ万年筆が出てくるのだろうと思いつつ、なんだかそれすらも嬉しくて笑っていた。
あげる方は一喜一憂しているが、ジャンボはずっと嬉しさで笑ってばかりだ。
しかし、箱を開けてみると、中から出てきたのは深い赤色の万年筆だった。
「えっ。赤って凄いな。カッコイイ」
ジャンボの反応にチョコはほっとした。
さっきの箱から、バニラの方の藍色の万年筆を取り出して、二つを見比べながら、明かりにかざしてみる。
ツヤを抑えた高級感のある藍色と赤色の軸が、電気の光を鈍く反射し、そっと煌めいた。
「綺麗だな……」
みとれるようにいつまでも万年筆を見ているので、それはそれで二人は照れた。
「も、もういいから。しまお。ね」
「使う時に出せばいいしさ」
ジャンボは二人の方を振り返り、にかっと笑った。
「ありがとう。大切にする」
からっとした優しい笑顔に、二人は驚きつつも、一緒に笑った。
偶然が重なって今日があって、たまたまこの三人で暮らしている。
血も繋がってない。
でも、こんなにも素敵な日もあるもんだ。
それからは毎年、ジャンボの誕生日も、チョコとバニラの誕生日もお祝いするようになった。
バニラは誕生日を1月の終わりあたりにしようかな、なんて言うと、チョコが俺も一緒がいいな、なんて言い出して、バニラはえーとか言いつつまんざらでもなく。
彼らの誕生日は1/30になった。
そうして時は過ぎ、互いに贈った誕生日プレゼントも増えてゆき、いつしか住居も移り、それぞれの生活を過ごすようになる。
けれど、ジャンボの机の上にはいつも、深い赤色と藍色の万年筆が必ずあった。
今年も、きっと来年も、ずっと。
終わり