三話
「おーい、いい加減起きろよ。今日が終わっちゃよ」
そんな声と共に揺さぶられ、ジャンボは目を開く。
「チョコ……?」
「そうだよ。どんだけ寝てるんだよ、ジャンボ」
ぼんやりとジャンボは、台所から響く調理の音も聞いた。
ハッとして、体を起こして、残ったアルコールが頭痛を呼んで、うーんと頭を抱える。
「あんなに酒飲むからだよ、全く」
「あ、ジャンボ起きた?じゃあこれ飲ませて」
「なにこれ。お粥じゃねぇの?」
「しじみ汁。オルニチンが二日酔いに効くのだよ」
「うぜぇ。ちょっと料理できるからって……」
ブツブツ言いながらチョコはバニラの方に歩き、スープの器を手に取った。
そしてジャンボの元へ戻る。
「なんかバニラがよくわかんないの作ったよ」
「しじみ汁だってば!」
バニラは調理の手をとめず叫んだ。
ジャンボはそのスープを受け取って、まだぼんやりと口に含んだ。
鸡粉【※1】ベースのスープに、溶き卵、塌菜【※2】、そして何故かしじみが入っている。
貝の旨味というのはすごい。
それに酒は脱水症状も伴うもので、スープは本当に深く沁みていった。
―――――――
【※1】鶏がらスープの素。
【※2】小松菜のような葉物。
―――――――
「どう?」
「……めちゃくちゃうまいな」
えー、なんてチョコは半信半疑に見つめていたが、バニラは得意げに台所から振り返っていた。
チョコはまたなんとなく、口をとがらせてテーブルの方に歩いていく。
それを目で追って、ジャンボはやっと、室内がガラリと華やかになっていることに気がつく。
「あれ……なんかパーティみたいだな」
「気がつくのおっそ!パーティなんだよ。だから今日は休んでって言ったのに」
「なんのパーティなんだ?」
キョトンとするジャンボに、バニラもチョコも、肩をガックリ落とす。
テーブルの上はもう、バニラ渾身の作の料理がずらっと並んでいる。
それに、チョコ渾身の作のパネルも飾ってあるのに。
仕方なくチョコは、そのパネルをべりっと剥がして、戸惑うジャンボの目の前に突き出した。
「10月1日だろ、今日は。ジャンボの誕生日」
ジャンボは言葉を失った。
差し出されたパネルに手を伸ばして、じっと見る。
『誕生日おめでとう、ジャンボ』と書かれたパネルにも、部屋の飾り付け同様、華やかな飾りが添えられていた。
「……俺。話したっけ。お前らに。誕生日のこと」
なんとなくボソボソと喋るジャンボに、チョコは頷いた。
「やっと去年、とっくに過ぎてから聞いたよ」
ジャンボはボケっとして、反応も鈍く、そうかとだけ呟いた。
チョコはどうしたものかと悩み、パネルをただ見つめるジャンボから離れて、台所のバニラの腕を引いた。
バニラは慌てて火を消して、その呼びかけに答えた。
今日はジャンボの誕生日だ。でも、ジャンボ自身が喜べないのなら、お祝いの意味などないから。
「国慶節のこと。少し話した時に、ジャンボがぽろっと言ってたの、俺たち覚えてたんだ」
昨年の12月頃に、彼らは国慶節の話をなんとなくしていた。