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マシロとハプスブルク家  作者: kazfel
ハプスブルクの女帝
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豊潤なシュレージェン!

 ウィーンのホーフブルク王宮に訪れたボルケ公使はフランツ・シュテファンに申し上げた。


「フリードリヒ王は12月16日、3万人の兵士を従えてシュレージェンの国境を越え、ブレスラウへ進軍されております。しかしこれは決して王の敵意を意味するものではありません。その反対なのです! シュレージェンを占領するのは、ただ敵の攻撃を防衛するために過ぎません。王は女王に200万グルデンさえを、その上さらに相手国に関係なく軍事援助をも提供いたします。しかも(神聖ローマ帝国)皇帝選挙にさいしては女王のご主人に投票いたしますし、バイエルン票とザクセン票も手に入れられることをお約束いたします。

オーストリア家にご奉仕する労苦と危険の代償として王はシュレージェンの完全な譲渡しか要求されません! もしもこれが無条件で譲渡されない場合、その責任は王にはありません」


 フランツは無言を貫いたところ公使は陽気な声で加えた。


「オーストリア家のためを思えばこそ、王はあえてこのような大胆な行動を取られるのです」


 謁見が終わり大公はテレーゼに伝えた。


「豊潤なシュレージェン! 工場と運送の町ブレスラウ、教会と宮殿で美しく装飾されたあの町! あれを無理やり奪い取るとは! 平和のさなかに!」


 金切り声を上げたテレーゼは大股で部屋を行き来した。


 フランツは臨月に近い彼女をなだめたが腕を振りきられ、射るような眼差しで見つめられた。


「まさかあなたは、この意地悪で恐喝的な申し出を受け入れるつもりではないでしょうね?」


「フリードリヒは昔の契約のことを、引き合いに出しているのだよ」


「でもオーストリア家にご奉仕する労苦と危険の代償としてシュレージェンをもらいたい、と言っているのではありませんか。そうとは言っていなくって? シュレージェンとは! よりによって私のシュレージェンとは」


 後にプロイセンのゴッター伯爵がフランツに招かれた。


「私は一方の手にオーストリア家の安全を、他方の手には閣下のためにドイツ帝国の冠を携えて参上いたしました。我が主君の軍隊と資金は女王にご用立ていたします。これが必要な暁にはお役に立つことでこざいましょう」


「そうか。王はシュレージェンから撤退したか?」


「いいえ」


「なら1兵たりともプロイセンの兵隊がシュレージェンにいる限り、こちらには何一つ言うことがない」


 大公は伯爵を用済みにした。


「プロイセン王は誰よりも断固とした決意で臨んでおられます。王は必ずシュレージェンをお取りになることでしょう! もしこの州が譲渡されないならば、王はバイエルンとザクセンの選帝侯に武器を資金を提供して、両侯が王を援助されることになさるでしょう!」


 1741年になると会議につぐ会議が開かれた。

 若く美しい女王を囲んだ6人の重臣たちは老人だらけだ。皆かつらを被っている。


「どうしてそのような顔をしているのです。もうこれ以上、哀れな女王を失望させたりしないで助言し支援してください」 


 事なかれ主義の宰相ツィンツェンドルフは「交渉に応じようではないか。もう約束の20万ターラーをもらったらどうか?」


 ケーニッヒスエックもうなずきフランツが「プロイセン王の要望に従おう」と表明した。


「バイエルンはプロイセンと同盟するだろう」


 ケーニッヒスエックは警告した。


「ザクセンは当てにはできない。ケーフェンヒラーがドレスデンに行って談判しようとした時には手遅れだった」


「そうだ、そうだ。我々はいつだって無気力病がついてまわるのだ! いつも遅すぎる」


 タロウカが発した。


「スペインが口実が見つかり次第……」


「トルコ人が……」


「サルディーニャはいつだって油断できない。ヴィクトル・アマデウスが言ってたでないか。アザミの葉っぱを1枚1枚、食ってゆくように、ミラノをちょうだいするつもりだって」


「すべてはフランスの出方次第だ」


「フランスのことなら私が保証する」


 ツィンツェンドルフが口を挟んだ。



 テレーゼは真向かいの壁を見上げた。

 祖父レオポルド1世の絵画が掛かっている。

 しわくちゃの好々爺でテレーゼに微笑んでいた。


(私の子孫の中で1番才能に恵まれたお前。お前は自分で決断すればいいのだよ)


 テレーゼは立ち上がった。


「私たちが1つの州を割譲することによって、相続順位法に明記された王朝の不可分性の原則を自ら放棄することは、許されないことです。そのようなことをすれば、すべての者にフリードリヒの真似をしなさいと勧めるようなものです! 協議はこれで終わりとします!」


 テレーゼは長い廊下を下り、宮廷礼拝堂へ籠もり、2時間祈り続けた。

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