ブダの第1号店
1686年7月にオーストリア軍はオスマン軍を追撃してエルトリアのブダを包囲した。
ドナウ川が町の中央を北から南に貫流し、西に小高い丘がいくつかある。
丘にはルネサンス様式のブダ王宮が建ち屋根に細い赤竜がいた。丘の対面が平野のペシュト町でモスクが建ち並ぶ。
「町が壊れるのは嫌だぜぃ」
橙色のサラマンダーマシロは赤竜の頭にちょこんと乗った。
「とっとと荷物まとめて逃げやがれ!」
口が大きく手足が短い涙型の、でぶトカゲは赤竜を邸宅に寄せた。
大砲隊やすべてのオスマン軍は震え逃げ出した。州軍政官やムスリムたちは大荷物をラクダに積んで逃亡した。
「デカイ狼3頭、熊とあれは何だ?」
城壁を壊させた軍団長は茶色のパンダを指差した。
「君たちが襲わない限りパンダたちは無害です。オーストリアの皇帝でもブダ王宮に来てください」
竜馬に乗った赤毛の青年が要求した。
オーストリア軍は北と南東へ進軍した。トランシルヴァニアは翌年に解放された。
1699年1月中にはオスマン帝国軍はエルトリアから完全撤退した。
代わりにセルビア人の移民が町に増えて来たのだ。
2月にハプスブルク皇帝レオポルド1世はブダ王宮にやって来た。
壮年で豊かな髪と口ひげ、唇が厚い皇帝は、白狼と頭に乗るマシロを凝視した。
「旧時代の王とはかわいいものですな。竜まで見られるとは来たかいがありましたぞ! でもこの短い足では大貴族衆をまとめられないでしょう」
皇帝は仰々しくかしこまった。
「じゃあ、あんたがエルトリア王を代行していいぜぃ。その代わりコーヒー店をブダにくれ」
垂れた糸目のマシロはひどく短い右足を上げた。
「ほぉ! そなたもコーヒーの誘惑に絡め取られましたか。ブダでの出店は認めますが、豆は我が国からも仕入れてくれますかな。格安でお譲りしますぞ」
「ん? 出店?」
2週間後、残されたコーヒー店でマシロが長い舌を駆使してイブリックでコーヒーを入れる姿があった。
コーヒーの珍しさとマシロの愛らしい姿目当てで、店は繁盛した。