メッテルニヒ登場!
オーストリアのフランス大使だったメッテルニヒは1809年の10月8日に外相になった。
エレオノーレ夫人をパリに残してウィーンへ帰って行った。
夫人はカウニッツの孫娘でフランス側の信頼が厚く上層部に人脈を築いていた。
11月の初めに高官の邸宅で仮面舞踏会が開かれた。メッテルニヒ夫人も招かれ、仮面をつけたナポレオンが夫人に近づいて話しかけながら、奥の無人部屋に誘った。
「貴国の皇女様はナポレオンが結婚を申し込んだら受けてくれるだろうか」
「その質問にはお答えできません」
「もしあなたがオーストリア皇女だったら、どうされますか」
「もちろんお断りします」
ナポレオンは思わず笑い出し「ご主人はこの話をどう思われるか尋ねて頂きたい。ご主人に一筆書いて下さい」
「そのような話は大使を通して下さい。オーストリア宮廷に取り次いでくれめすから」
夫人は部屋を出ていった。
た
11月21日。パリのシュワルツェンベルク大使からメッテルニヒ外相にナポレオンが皇女に興味があることを伝えた。
12月ごろ。
「ナポレオンはロシアから花嫁候補の返事が来ないので第1候補をルイーゼ皇女様に切り替えたそうです。そろそろ決心されてはいかがですか亅
フランツ帝はメッテルニヒに再度催促されて怒りがこみ上げた。
「何であんな人食い鬼に娘をやらねばならんのか? 国が滅ぶから? ああ、誰もナポレオン軍には屈服できないよ。奴がどうしても欲しいなら仕方ない。どうせ誰にも逆らえないのだろうし。さぁ、大使に伝えてやれ」
「パリにいる妻にも聞かせてやりたいですね。ただ向こうにはロシア皇女の返事を聞いていないというので交渉は少し長引きますが」
「この際ロシアのことはどうでもいい。気が変わらないうちに知らせでくれ」
「はい。分かりました」
外相は部屋を出た。
せっかく何日も寝ずに考え抜いたのだから、早めに式をあげてやりたいものだとフランツは涙を流した。
1810年1月28日。チュイルリー宮での会議で皇妃候補者が正式に決まり、メッテルニヒはロシアとフランスの対立と戦争への発展と予見して、安堵した。
オーストリアは数年間は再建にあてられるのだ。2月に皇女に正式に伝えておこうと決めた。
2月10日。ウィーンのカフェではナポレオン縁談の相手が誰なのか盛り上がった。
「ロシア皇女はとびっきりの美人だというぞ」
「ザクセンも中々いいらしいな」
「そっちのトカゲはどれにする?」
「ルイーゼだぜぃ」
「我が皇女様? とびっきりの美人との話は聞かないが」
「コルシカの悪魔は野心家だから、ルイーゼ皇女様もあり得る。さすが帝国の子守トカゲ!」
別のテーブルの客たちはマシロを撫で廻した。
2月15日。ナポレオンから送られた結婚誓約書で、外部の者にも公になった。
ウィーン駐在のロシア大使とフランス大使館の使節らは驚きで呆然となった。
ウィーンの上流階級の間では「売られた花嫁」としてナポレオンを非難した。
3月12日。ウィーン王宮内の城塞はフランス占領軍によって爆破された後に王宮前広場と公園、王宮庭園に整備された。
フランツ帝は温室で多肉植物にふれていた。
喜望峰で採取した植物や希少な植物などが栽培されている。
「結婚式の費用もばかにならないか、ならず者を喜ばして賠償金を減らす作戦だから仕方ない。ロシアの縁談を断ったというから、険悪な関係になれば願ったり叶ったりだ」
「なんかセコいぜぃ。うまく引っかかるといいな」
白狼頭上のマシロは王宮の中庭でうろついているとルイーゼに呼び止められた。
「今日はカフェに行かないのね」
「マシロ後でフランスに行きたいぜぃ」
「あなたは好きに飛び回れていいわね」
ルイーゼはマシロを抱き上げた。
「ナポちゃん、おテブになって早飯だぜぃ」
「マシロの話聞いていると案外、人間くさいのね」
マシロはナポレオンのだらしない食事様子も話した。
3月13日。ホーフブルク宮から小降りの雨の中、ルイーゼは涙を流しながらカール大公に手を引かれて馬車に乗った。
63台の馬車が出てきた。
ラッパが鳴り響き、市民は旗を振って見送った。フランスへの経路はマリー・アントワネットが来たときと同じようにとナポレオンからの命令だった。
宮廷人も市民も第2のマリア・アントーニアになるのではないかと感じ、ルイーゼな涙の別れになった。
4月1日には29日付けのナポレオンとルイーゼの手紙がフランツ帝宛に届いた。
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