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地下

 落下。落下。更に落下。

重力に引かれ落ちる。頭の中で最近よく落ちるな、なんて思いながらも体を動かす。


 隣を落ちているソフィアは瞳に涙を溜めながら下を見ている。

僕は手を伸ばしてソフィアの手を掴む。

ソフィアが驚いた目でこちらを見る。


 そのまま引っ張り。ソフィアを腕の中に抱える

落下体勢を修正。足から落ちるにようにする。あとは覚悟するだけだ。


 すぐに地面がやってきた。膝を折り曲げ落下の衝撃を吸収。

じぃん、と足が痺れ痛むが骨は大丈夫なようだ。


「ソフィア、大丈夫か?」

「ワ、ワタクシは大丈夫です、はい。それよりあなたは……」

「体が丈夫なのが自慢でね。降ろすよ」


 ソフィアを降ろすと両足でしっかり立つ。うん、怪我は無いようだ。


「おーい!」


 頭上からオリヴァの声がする。

見上げると落ちてきた穴からオリヴァとミアが顔を覗かせていた。


「二人とも大丈夫ー!?」


 続けてミアの声がする。こちらの身を案じているようなので安心させるとしよう。


「二人とも無事だ!」

「そりゃ良かった!悪いが引き上げる方法が無い!奥に向かってくれ!その先で合流できるはずだ!俺達もこれから向かう!」

「分かった!後で会おう!」

「ソフィー!気を付けなさいよ!」


 ミアがソフィアに呼びかける。


「ユウヒに!」

「子供に手を出すか!」


 いや大人だったら手を出すというわけでもないが。

ミアとオリヴァは笑いながら行ってしまった。

変な空気が残る。


 ソフィアは先ほどから沈黙している。まさか本当に襲われると思ってるのだろうか。


「そ、ソフィア。僕、別に君のこと襲ったりしないから」


 この言い方だと余計怪しいだろうか。しかし他にどうすればいいのか……。


「……なぜ、何も言わないのです」


 神妙な口調でソフィアが言った。

やはり先ほどの言い草では分かってくれなかったか。


「あの、僕紳士だから。合意を得たうえで事に及びたいというか」

「そっちじゃありません変態、はい!」


 赤い顔で声を張り上げるソフィア。マセてるなぁ。


「ゴブリンの時も!さっきのことも!ワタクシは役に立たないどころか、足を引っ張って!それなのになぜワタクシを責めないのですか!?」


 悲痛な声を上げるソフィアに圧倒される。言ってる内容は分かる。だが、僕からすると責める理由がない。


「なんでソフィアが責められるんだ?」

「ゴブリンの時はただ見ていただけ。先ほどは罠を起動させてあなたを巻き込みました、はい……」


 ゴブリンの時は隠れた敵を真っ先に見つけて、むしろ仲間のピンチを救ったと思うのだが。

それに罠が起動したのだって僕達が罠の周りでわちゃわちゃしていたからだ。

おまけにソフィアが転んだのは僕がスケルトンを砕きまくって骨を散乱させていたせいである。


「それでも、ワタクシは何も出来なかったです、はい」


 説明してみせても落ち込んだ様子のソフィア。


「調査はちゃんと出来ていただろう?本来の目的は遺跡の調査なんだからソフィアは一番役に立っているじゃないか」

「……アサヒ様は今のワタクシと同じ歳で勇者になったと聞きました、はい。誰でも出来る仕事ではダメなのです。それではアサヒ様の隣に立てません、はい」


 ソフィアは帽子をぐしぐしと手荒に引っ張り顔を隠す。

 

 目標が高すぎる……。小さい体に比べて何と志の大きいことか。

こうして聞いてみると僕達は似た者同士のような気がする。


 僕もソフィアも自分の力で姉さんの隣に立ちたいのだ。


「笑わないですか……?」

「うん。僕も目指してる人が居るから」


 ソフィアの目を見つめる。


「僕には姉が居るんだけど、姉さんはすごい人でね。出来ないことは無いんじゃないかってくらい」

「あなたよりですか?」

「そうだよ。姉さんは僕より早く走れるし力も強い。行動力もあるし何より人に好かれる才能があるんだ。それで、僕が知らないうちに結構な数の人達を救ったりしてたみたいでね。いつの間にか天上の人さ」

「すごいです。まるでアサヒ様です、はい」


 まさにその人なんだけど、そのことは黙っておくことにした。


「でも姉さんは別にすごい人になろうとして行動したんじゃないんだ。ただ必要に駆られて自分に出来ることをした。その結果、多くの人に認められるようになった」

「自分に出来ること……。ですが……ワタクシは何も出来ません、はい」

「さっきも言ったろ。ソフィアは遺跡の調査が出来る。それに弓だって使えるじゃないか。それは、僕はおろか僕の姉さんにだって出来ないことだ」

「……はい」


 ソフィアは悩んでいるようだ。簡単に納得できることじゃないだろう。


「謝らなければならないことがあります、はい」

「ん?さっきのことならいいけど」

「違います。出会った時から嫌な態度を取っていたことです、はい」

「別に無理に仲良くしろとは言えないよ」

「ワタクシ八つ当たりをしていました、はい」

「何で?山登りに疲れたとか森の虫がキモイとか?」

「いいえ、初めてあなたを見た時、あなたがアサヒ様に見えたんです。その、それで、実際は違ったので勝手に期待して勝手に失望したのです、はい」


 ごめんなさい、と頭を下げるソフィア。

何とも子供みたいな理由だった。


「子供です、はい」


 子供だった。


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