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友達

 僕の土下座の美しさに心打たれのか、はたまた急に慈愛の心に目覚めたのか、話し合いの場を設けてくれた。

おまけにパンと飲み水を僕に与えてくれた。

憐みの目で見られているとは思いたくない。


「それでユウヒ、お前どこから来たんだ?」

「そうそう、遭難って言ったって、山に居るような恰好じゃないわよ」


 この二人は、オリヴァとミア。警戒心は大分解けているようだ。


「シュッシュッ」


 僕に向けてシャドーボクシングしている修道女はソフィア。警戒心は全然解けてないようだ。


 僕は『空船』でワイバーンの群れの襲撃を受けたことを話した。

一部始終を話すとオリヴァとミアは疑惑の目を向けてきた。


「こんな所にワイバーン?そんなの見たことも聞いたこともないぜ」

「それに『空船』がそんなのに襲われたら簡単に落ちちゃうわよ。流石に『空船』が落ちたら気付きそうなものだけど」

「いや、襲撃自体は姉さん……勇者が対応したので船は大丈夫だったと思います」

「アサヒ様が乗ってたんですか!」


 急にソフィアが興奮した様子で話に入ってきた。


「それでアサヒ様はどんな風に戦ってたのですか?」

「いや、僕はよく見られなかったんだけど、バッタバッタ倒してたよ」

「流石アサヒ様です、はい!」


 キラキラした目でこの場に居ない姉さんを褒めたたえるソフィア。

この調子で僕への警戒心も無くしてくれると助かるのだが。


「勇者様がねぇ……そんなら、大丈夫か」

「アサヒ様はすごいです、はい!」

「ソフィー、うるさい。それにしてもユウヒってもしかしてお貴族様?『空船』なんて金持ち連中しか乗れないわよ」


 乗船手続きなんかはロベルトさんとエレンさんがやってくれたので、僕は料金は知らない。

そういえば、乗客は品の良い人が多かった気がする。


「あのー、僕も一応勇者です。って言ったら信じます?」

「「アーハッハッハッハ!!」」


 爆笑する二人。

全然信じてませんね、はい。


「シッ!シッ!」


 僕にローキックを当ててくるソフィア。

座ってる僕をわざわざ立たせてまですることだろうか。


「ソフィーは勇者様の大ファンだから。怒ってるのよ」

「勇者様を騙る愚か者は死刑です。はい」


 ローキックで死ぬのは嫌なので謝ることにした。


「ごめんなさい」

「分かればいいんです、はい」


 意外と素直に引いたソフィア。フンスフンスと鼻を鳴らしている。


「そんで結局ユウヒはお貴族様ってことでいいのか?」

「もうそれでいいです……」

「フーン……よく『空船』から落ちて無事だったな。ワイバーンに噛まれたとかいう腕も無傷だし」

「勇者だから……って嘘嘘!ホント、奇跡ですよねー!」


 弓を構えたソフィアが視界の端に映ったので慌てて訂正する。


「僕のことは、ただの遭難者ってことでいいです。出来れば『空船』の船着き場、もしくは最寄りの町か村まで案内していただけると嬉しいんですけど」

「うーん、近くの村まで案内してやるのは問題無いんだけどな」


 歯切れ悪く答えるオリヴァさん。

それに同調するようにミアさんが話す。


「私達は冒険者やっててね。ギルドの依頼でこの先の遺跡の調査に来てるの」


 『冒険者』に『ギルド』おまけに『遺跡』。なるほど異世界っぽい。


「調査ですか?それにしては小規模というか、少人数過ぎません?」


 僕だって詳しい訳じゃないが、遺跡の調査っていうと、もっと大人数で機材とかも持ってくるものじゃないだろうか。

三人以外に人は居ないし、見たところそれっぽい機材も持っていない。


「昔、発見された遺跡でな。発掘調査はすでに済んでるんだが、最近、新しい魔王が出たってことで遺跡に変化が無いか調べに来たってわけよ」

「私とオリヴァは護衛。ソフィーが調査員ね」

「魔族(ゆかり)の遺跡なので油断できません、はい」


 あの魔王が与える影響なんて甚だ疑問だが、ワイバーンの件もある。

些細な変化を見逃さないことが、重大な事件を未然に防ぐことに繋がるのだろう。

そう考えるとソフィアなんかまだ小さい子なのに大きな仕事を任されてすごいことだ。


「そうなると案内は無理そうですね……」

「調査の後でよければ案内してやるぜ。一緒に来るか?お前らもいいだろ?」

「私はいいけど……ソフィーはどう?」

「……戦力は多いに越したことはないです、はい」


 願ってもない申し出である。一人で彷徨ったところで餓死するのが関の山だ。


「よろしくお願いします」

「よし、決まりだな。早速出発だ。着いてきな!」


 歩き出すオリヴァさんに慌てて着いて行く。

姉さん達と合流できるのはいつになるだろうか。

早く会いたいものだ。


◇ ◇ ◇


「静かに」


 森の中を歩いていると先頭を行くオリヴァさんがみんなを止めた。

視線の先には、緑色の小人がいた。


「ゴブリンだ」


 背丈は子供のソフィアより尚小さい。全身が緑色で、顔にはぎょろぎょろした目に鷲の嘴のような鼻がついている。

薄っすら開かれた口からは牙が見え隠れしている。


「1、2……5匹ね。私とオリヴァで十分やれるわ」


 ミアさんは獰猛に笑う。


「そうだな。ソフィアはここで待機、ユウヒはソフィアを守ってくれ」

「変態と二人きりは嫌です、はい」

「そう言うな。ユウヒは悪い奴じゃねえよ」


 変態の部分を否定してほしい。

ソフィアが渋々了承するとオリヴァさんとミアさんは二手に分かれる。

ワイバーンの時と同じように挟み撃ちにするようだ。


 僕とソフィアは二人きりになる。しばし沈黙。

嫌ってる奴と嫌われている奴。気まずい雰囲気。


「……始まりました、はい」


 オリヴァさんとミアさんはゴブリンの一団に奇襲をしかけると瞬く間に2匹を仕留めた。

残りの3匹は臨戦態勢をとるが、浮足立ち統制が取れていない。


「すぐ終わりそうだな」


 オリヴァさんが次の1匹を仕留めた。あと2匹。

オリヴァさんが止めを刺す間は、ミアさんが残りのゴブリンを牽制している。

ワイバーンの時と同じで見事な連携だ。以心伝心というやつである。


「あっ」


 ソフィアが声をあげる。何かを見つけたようだ。

視線を追いかけるとオリヴァさんの頭上、木の上にゴブリンが居た。

6匹目だ。戦闘中の二人は気付いていない。このままではヤバい。


 ソフィアは慌てて弓を構えようとするが、木の上のゴブリンは既に飛び降りようとしていた。

間に合わないだろう。


 僕は足元にあった拳ほどの大きさの石を拾い、オーバースローで投てきする。

石はゴブリンの胴に命中しそのまま吹っ飛ばした。


 突如降ってきて即吹っ飛んだゴブリンにオリヴァさんとミアさんは一瞬硬直したが、すぐに持ち直し戦闘を継続した。


 ソフィアは、その光景をぽかんとした様子で見ていた。

僕は上手くいったことに安心する。

ほどなくして、ゴブリンを全て片付けた二人が戻ってきた。


「終わったぜ」

「おつかれ~、っと」


 怪我も無さそうでなによりである。


「二人とも凄いですね。楽勝って感じで」

「まあ、慣れてるからな。でも、上にいたゴブリンはユウヒがやってくれたんだろ?正直助かったぜ」

「そうそう!驚いたわよ。助けてくれてありがと!」


 そう感謝されると照れる。が、顔には出ないので「もっと喜べよ」とオリヴァさんに小突かれた。


「ソフィアが気付いてくれたからですよ」

「……ワタクシは何もしてないです、はい」


 ソフィアは沈んだ声でそう言った。

危険な敵を誰よりも早く察知したのだから、もっと偉ぶってもいいと思うのだが。


 話もそこそこに僕達は移動を始めた。

遺跡はもう近いらしく、今夜は遺跡前で野宿をするらしい。

じき夜になる。夜の森を歩くなんてこと、したくはない。


◇ ◇ ◇


 「これは……思ったよりしっかりしてますね」


 僕達は遺跡の入り口前に居た。

遺跡というくらいだからボロボロの建造物を想像していたのだが、存外綺麗な見た目をしている。


 石造りの建物だが入り口から覗く限り、欠けたり歪んでいるような部分もないようだ。


 遺跡前に陣取り野宿の準備をする。焚火をするということだが、どうやって火を付けるのだろう。


「『ともし火よ』」


 ミアさんが何やら唱えると指先から小さな火が灯った。

組み合わせていた木の枝に近付けると火が燃え移りパチパチと燃え始める。


「ミアさん魔法使いだったんですか」

「使えるのはこれだけ。魔法使いなんて名乗るのもおこがましいわ」

「そうそう、この程度じゃ魔法使いとは言えねぇよ!」

「『この程度』も出来ないのが威張るな!」


 ミアさんはオリヴァさんの後頭部を叩く。

オリヴァさんは笑いながら「痛ぇよ」と言う。

ミアさんはそんなオリヴァさんを見て笑う。


 二人のやり取りは見ていて安心を与えてくれるもので、互いの信頼感がこちらにも伝わってくる。


「焼けたのです、はい」


 ソフィアはじゃれつく二人を尻目に肉を焼いていた。

この肉はワイバーンの肉である。昼間に倒した個体から持てる分を切り分けていたのだ。

オリヴァさん達は他にも金になるとかで鱗や飛膜を剥ぎ取っていた。


 配られたワイバーンの肉を食べる。かなり肉厚に切り分けており、肉の弾力もすごい。

顎に力を籠めて噛みきり、奥歯で噛み締めると肉汁が溢れ旨味が口中に広がる。


 日本人としては米が欲しくなる味だが、詮無いことだ。


「お前そのままいくのかよ……」


 呆れたようなオリヴァさんの声。

他の皆は肉を一口分の大きさに切ってから食べていた。


「獣じゃないんだから……」


 ミアさんがそう言って、ナイフとフォークを渡してくる。

どうやら渡される前にがっついてしまったらしい。


「ありがとうございます……」


 受け取りながら礼を言う。恥ずかしくて顔を見れない。


「変態はアゴが強いです、はい」


 もうやめてくれ……。


「なあユウヒ、俺達もう仲間だろ?もっと気軽に話してくれていいぜ。呼ぶときも呼び捨てでいいしな」


 突然オリヴァさんに言われて戸惑う。

これまで目上の人達ばかり近くに居たので敬語がデフォルトになっていた。

とはいえ、断る理由も無いのでお言葉に甘えておく。


「うん。分かったよオリヴァ」

「私も!いつまでも他人行儀は嫌だもの」

「改めてよろしく、ミア」


 元の世界では、子供の頃は姉さんとだけ遊んでいたし、姉さんが居なくなってからも友達は居なかったので初めての友達ということになるのだろうか。

 エレンさん達は何というか雲の上の人過ぎて何というか友達という感じではなかった。


「ワタクシには元から敬語じゃなかったです、はい」

「いや、別に侮ってたんじゃないんだ。ただ年上としての僅かなプライドというか……」

「年下に見えますか?」


 もしかして、ニィエルさんのように見た目から実年齢が分からない系の種族なのだろうか。


「僕は16歳なんだけどソフィアは何歳?」

「レディに年を聞くとは失礼ですが答えてあげます」


 一拍置く。とんでもない数字が飛び出してきそうで思わず喉を鳴らす。


「12歳です、はい」

「年下ぁ!」


 見た目通りだった。なぜ溜めたのだろうか。


「あ、でもタメ口が嫌だってなら改めますよ。ソフィアさん」

「変態が取り繕っても気持ち悪いです、はい」


 そのままでいいと言うことだろう。ソフィアはプイッとそっぽを向いた。


「さて、親睦も深まったところで寝るとしますか」

「そうね、見張りは交代でするわよ。ユウヒも協力してくれるわよね?」

「もちろん。仲間だからね」


 見張りを任せてもらえることが信頼されている証のようで嬉しかった。


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