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遭難

 気が付くと鬱蒼とした森の中で大の字になって倒れていた。

葉っぱの隙間から漏れる日差しが赤みがかっていることから、夕方の時間帯のようだ。

ワイバーンの襲撃はたしか昼過ぎくらいだったはずだから、数時間倒れていたことになる。


 目が覚めても足の骨が砕けているから歩くこともままならない、と考えた時に体の痛みが少ないことに気付いた。

試しにワイバーンに噛みつかれた方の腕を見てみると何やら発光していた。

何だこれ。


「痛たた」


 体を起こしてみると足も発光している。得体の知れない光に恐怖する。

僕の体はどうなってしまったのだろうか。


「ん……これって……」


 よく見ると、傷が修復されていっているようだ。ボロボロだった腕が動かせる程度には回復していた。足の方も何とか歩けそうだ。


 立ち上がり木の幹にもたれかかる。歩けるからといってどの方向に向かえばいいのか分からない。

せめて『空船』の進行方向が分かればいいのだが、あの船とて一直線に目的地に向かっているのではなく、その時々で方向転換をしている。

どの方向に行ったのかすら分からないため、追いかけるのは無理そうだ。

一応目的地の方角だけは知っている。


「そうなると自分で山越えをする必要があるな」


 とりあえず方針は決まった。今日のところは日も落ちそうなので寝床を探そう。

この調子なら一晩休めば怪我も完治するだろう。


 周囲を探索するとちょうど良い大きさの木の洞を見つけた。

中に葉っぱを敷き詰めベッドにし、葉付きの枝を入口に並べて蓋をする。

出来上がった寝床を外から眺める。秘密基地感があって少し楽しい。子供の頃よく姉さんと作ったなぁ。


 姉さん達はどうしているだろう。心配をかけているであろうことに申し訳なく思う。姉さんがどんな行動に出るか分からないので、暴走に巻き込まれる周囲の人達にも迷惑をかけるかもしれない。

出来れば捜索に来てもらえるとありがたいのだが、正確な位置も分からないだろうし希望は薄いだろう。


 今日はもう休もう。僕は木の洞に潜り込む。

お腹も空いたから食料もどうにかしないと。

しかし怪我の光が眩しい。一生このままなんてことはないだろうな。


◇ ◇ ◇


「船を戻さないってどういうことよ!」


 ニィエルは副船長のコリンに食ってかかった。胸倉を掴み睨みつける。

瞳の奥には怒りの炎が燃え滾っており、強硬手段も辞さない構えだった。


「船体に穴が空いているんです!航行計画から考えても進むほうが早く着陸できます!」

「だから戻らないっての?ユウヒがどうなってもいいっていうの!?」

「一人のために乗員全員の命をかけることは出来ません。まして、この船には一般のお客様もいらっしゃいます」


 ニィエルの手の力が弱まる。


「それにこの高さから落ちたのでは……」

「黙れ!」


 強い口調で叫ぶが、ニィエルはその場でへたり込んでしまう。

床に水滴が落ち、嗚咽が聞こえると流石にコリンもやるせない表情になった。


「大丈夫」


 そんなニィエルに声をかけたのは朝陽だった。


「アンタ……ユウヒが死んじゃったかもしれないのに平気そうね……」

「ゆう君は死んでないよ。あたしの弟レーダーがそう言ってる」

「何よそれ……ただの勘じゃない」

「≪勇者≫の勘って考えたら当たってそうでしょ?」


 朝陽は笑いながら言い切った。


「それにゆう君はあたしの弟だよ?」


◇ ◇ ◇


 朝、目が覚めると怪我が完治しており、体調は万全になっていた。お腹は空いていたが。

例の光も収まっており、今のところ普通の手足に戻っていた。

結局何の光なんだろうと考えていたところ、1つ思い当たる節があった。


 勇者が使える『光の力』である。


 名前の通り光っていたし間違いないだろう。他に心当たりもない。

攻撃にも転用できるはずなのだが、自分の意思で出した訳ではないので扱い方はいまいち分からなかった。


 とりあえず光のことは置いておくとして、今日はどうするか。


 山越えをすると言っても現状の装備で出来るものなのだろうか。

改めて自分の状態を確認する。

ボロボロのジャージ。靴は無事だ。

腰にはショートソード。ワイバーンに襲われた時は抜くことを忘れていた。

お腹が空いている。

以上。


「流石に無茶か……?」


 やるだけやってみるしかない。じっとしていても何も始まらないのだ。

太陽からおおよその方角を定めて、僕は無理やり足を動かし始めた。


 迷わないようにショートソードで木の幹に傷をつけながら歩く。

まさか、初めて実用的に使うのがこんな使い方になるとは思わなかった。

歩くペースは普通の人と比べるとかなり早めだと思う。


 ただひたすら歩く。食料や飲料水のことも考えないとけないので、川でもあるとベストなのだが。

見上げると木々の隙間から太陽が覗いていた。

いつの間にかお昼になっていたらしい。お腹が空いた。

もういっそ、先ほどから目に付いていた謎の木の実を食べてしまおうか。

いやいや、ヤケになってはいけない。毒かもしれないのに安易に食べるのは危険だ。


 僕が足を止めて、木の実を見ていると奥の方で誰かの声がした。

ラッキー!人が居るんだ!


 こんな場所で人に会えるとは思わなかった僕は一も二もなく駆け出す。

木の間をすり抜け、うねる根の下を滑り、岩を飛び越える。


 やがて広げた場所に出る。なんと忌々しきワイバーンが居た。

姉さん達の攻撃を辛うじて逃れたのか傷だらけである。しかし、弱ってはいるが闘争心は十分で、その闘争心を向けられている相手がワイバーンの目の前に居た。


 男と女が並んで立っており、二人とも剣を構えている。


「何でこんなところにワイバーンなんて居やがるんだ!」

「知らないわよ!直接聞きなさい!」

「何でここに居るんですかー!?」

「煽るな!」


 漫才師かな?ワイバーンも含めてコントかもしれない。


 ワイバーンが顔から突っ込むと二人は左右に分かれた。そして伸びた首に鋏のように同時に切りつける。

しかし、浅かったようでワイバーンが体を回転させて振り払う。

二人はワイバーンを挟み込むように位置取り剣を振るう。

基本的にワイバーンに見られていないほうが攻撃を加え、互いをフォローし合っていた。


「すごっ……」


 流れるような連携に思わず見惚れる。入ったら邪魔しそうで加勢するのも躊躇う。

茂みに隠れて見ているとワイバーンが少し移動し、その体で見えなかった向こう側の茂みが露になった。


 そこには、修道女のような女の子が居た。どうやら僕と同じように隠れているようだ。

まだ小さい子だ。観察しているとその女の子と目が合った。

 

 女の子が目を見開いて驚いている。僕だってこんな状況でどうしていいか分からないので、僕達は数舜見つめ合っていた。

戦闘は続いている。


 何となく会釈をすると向こうも会釈を返してくれた。

ワイバーンに目を戻すとすでに勝負がつきそうだった。

血だらけのワイバーンに比べて二人は全くの無傷だ。


 女剣士の方がワイバーンの片足を切りつける。傷が深かったのか横倒しになった。

すかさず男剣士が晒されたワイバーンの胸に剣を突き立てる。

恐らく心臓を狙った一撃だったのだろう。ワイバーンは小さく呻くとそのまま動かなくなってしまった。


「ふぃ~、手傷を負ってたのが幸いしたな」

「そうね……ソフィー、もう大丈夫よ」


 茂みから女の子が出てきた。三人は仲間のようだ。

女の子はトテトテと歩いていき合流した。

三人はボソボソと話しており内容は聞こえない。


 そろそろ僕も出て行って挨拶しようかしら、と考えていたら、女の子がおもむろに弓矢を構えた。

他の魔物でも出たのだろうか。辺りには何も居ないが……。それにこちらに向かって構えられている気がする。

あ、まずいやつだ。


「ちょ、待っ――」


 両手を上げて立ち上がるが、時すでに遅し。矢が放たれビュンッと音が鳴る。

僕は刺さる直前に矢を掴み取った。初めてやったが上手くいって良かった。


「――危ないでしょう!何するんですか!」

「うるせえ!危ないのは手前(てめ)ぇの存在だ!」

「ソフィーの言った通り本当に居たわね……」


 どうやら女の子が僕のことを話したらしいが、どんな説明をしたのか敵意満々になっている。


「僕は敵じゃありません!」

他人(ヒト)の戦闘を覗き見て性的興奮を覚えるような変態は敵よ!」

「はぁ!?誰がそんなことを――ハッ!」


 女の子を見つめる。


「覗いてやがったです、はい」


 こいつが犯人か!


「覗いてたんじゃなくて邪魔すると悪いと思って隠れていたんだ」

「でも笑ってました」

「君に笑いかけただけだろう!」

「ではロリコン野郎です、はい」


 ああ言えばこう言う。話が通じなさそうなので、他の二人に訴えよう。


「とにかく話を聞いてもらえませんか?ただの遭難者なんです!」

「矢を掴み取るってのもヤバくねぇか?」

「ええ……戦闘力の高い変態ね」


 話を聞いてくれないばかりか警戒度が高まっている。

じりじりと三人が後退る。この人達に逃げられると、次がある可能性は低いだろう。

ここで確保しなければ……!


 僕はゆっくりと距離を詰めていった。


「ヒィッ!腰を落として前進し始めたわ!」

「いよいよ本気ってわけかよ……!」

「ピンチです、はい」


 否応なく高まる緊張に一触即発の状態となる。

風が森を駆ける音だけが聞こえる。


 睨み合いを続けていると、グゥゥと腹の虫が鳴く音が聞こえた。

場の空気が緩まる。


「ソフィーお腹減ったの?」

「ソフィア、腹減ってんのか?」

「変態から聞こえました、はい」


「お願いします食べ物を恵んでください」


 僕はその場で土下座した。


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