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ニィエルの気持ち

 夜にはロベルトさんとエレンさんも合流したので、5人で酒場に行くことになった。

食事も出してくれるらしいので楽しみである。


 賑やかな場内に入ると、人でごった返しており、体の大きなロベルトさんが移動しづらそうにしていた。丸テーブルについた僕らは早速注文し始めた。

僕はまだ文字がちゃんと読めないのでニィエルさんに教えてもらいながら注文する。

なお、ニィエルさんは僕が宿に戻ったころには復帰しており、今は通常状態である。


「ところでロベルトさんとエレンさんは、どこに行っていたんですか」


 気になっていたので尋ねてみると、ロベルトさんとエレンさんは顔を見合わせて、含むように笑った。


「”船”の乗船手続きをしてたんだよ」

「”船”……ですか?山越えですよね。なぜに”船”ですか」


 あれ、もしかしてこの世界では山と海を逆に言うのだろうか。いや、すでに目前に山脈が見えるので今更そんな勘違いはないだろう。


「明日のお楽しみです。期待していてください」


 エレンさんは、そう言ってほほ笑むとそれ以上は何も言わなかった。


「ちょい前から同じようなこと言われてるんですけど、まぁ期待しておきます」

「あれはすごいよー」


 気の抜けた姉さんの口調からは、あまり凄さは感じない。期待しすぎない程度がいいだろう。


「ユウヒは今日一人で町を回ったんだろ?なんか面白いことあったか?」

「時間も時間だったんで、ほとんど見ていただけですよ。まぁ見ているだけでも面白かったですけど」

「そうか、つまんねぇな」


 面白かったって言ってるんだけどな。そりゃロベルトさんからすればつまらないだろうが。

しばらく黙々と食事を摂る。照り焼きのお肉を葉野菜に巻いて食べるとたまらなく美味しい。


 ちらりと隣を見るとモソモソとサラダを食べているニィエルさんが目に入る。

うーむ、店主は焦るなと言っていたが、別に今渡しても問題ない気がする。

大した物でもないし、時間が経つと渡しづらくなる気がする。


「あの、実は今日、買い物をしまして」


 言いながらポーチから首飾りを机の上に出す。


「キレーな首飾りー」


 姉さんが手に取って、無造作に目線の高さまでもっていく。


「ちょっと壊さないでよ」

「どこで買ったのー?」

「町の露天商でね。いい買い物したよホント」


 姉さんから首飾りを返してもらうとニィエルさんに差し出す。


「はいニィエルさん、プレゼントです」

「えっ」


 信じられないものを見るように受け取るニィエルさん。


「アタシに?アサヒでもエレオノーラでもなく?」

「はい。いつもお世話になってますから。今日も悪いことしちゃいましたし受け取ってください」

「……」

「ニィエルさん?」


 黙りこくってしまったニィエルさんの様子をうかがっていると、


「びええぇえええええええん!!!」

「ちょ」


 弾けるように泣き始めた。


「あーあー泣ーかしたー」

「いや、そんなこと言ってないで泣き止ませてよ」

「お姉ちゃん知らなーい」

「わあああぁああん!!!」


 そっぽ向く姉さんは当てにならないのでエレンさんに助けを求める。


「エレンさん!どうにかしてください!」

「お姉ちゃん知りませーん」

「あんた姉じゃないでしょ!」

「ひいいいいぃいいいぃいいん!!!」


 仕方ないこうなったら!


「ロベルトさん!」

「無理無理」

「ですよね!」

「ぎゃおおおおおおおおおおん!!!」


 覚悟を決めよう。元はと言えば僕のせいだ。意を決して怪獣ニィエルに話しかける。


「ニィエルさん、すいませんそこまで気を悪くさせるとは思わなかったんです。本当に悪気は無かったんです。許してください」

「ぢがう゛の゛お゛お゛お゛お゛!ア゛ダジ、う゛れ゛じぐで゛え゛え゛え゛!」

「嬉しい?エルフって嬉しいと泣くんですか?」

「いや、ゆう君、人間でも嬉しくて泣くことあるから」


 仕方ないなーと姉さんがニィエルさんの頭を撫でて、ヨシヨシと宥めると次第にニィエルさんも落ち着いてきた。


「余程、ユウヒからのプレゼントが嬉しかったのですね」

「ニィエルは激情家だからな」


 外野から冷静に解説する二人は完全に他人事である。


「あ、アタシ……ひぐっ、50年以上……生きてきて、ふぐぅ、こんなに嬉しいの初めて……」


 嗚咽を漏らしながら喋るニィエルさんから、さりげなく驚愕の事実が発覚するが、流石に追及するような空気ではないので自重する。まあ、エルフってそういうものか……。


◇ ◇ ◇


「迷惑かけたわね」


 しばらく経つとニィエルさんも完全に持ち直して、鼻は赤くなっているがもう口調はいつも通りだ。


「いえあんなに喜ばれると僕もプレゼントした甲斐があります」

「蒸し返さないでよ」


 顔を赤くして怒り顔でこちらを睨んでくるが、欠片も怖くなかった。


「デレデレしちゃってさー」

「してないわよ!」

「それにしても美しい首飾りですね」

「いいセンスしてんな」


 エレンさんとロベルトさんは、ニィエルさんの手の中で撫でられ続けている首飾りを見ながらそう言った。


「ただの首飾りじゃなくて魔力を高める魔具ですからね。魔法使いのニィエルさんにぴったりですよ」

「だから、魔法使いじゃなくて、”大”魔法使い……ん?魔具?」

「はい、すごく親切なオジサンがまけてくれて、買えたんですよ」

「……不躾な質問だけど、これ、幾らだった?」

「銀貨10枚ですけど、僕が5枚しかないって言ったらそれで売ってくれたんですよー!」


 僕は嬉しくなって店主のオジサンとの一部始終を話した。


「色々教えてくれて、最初に疑ってたのが恥ずかしいですよホント」

「……へぇ、それでソイツ他には何か言ってた……?」

「いえ、特には……ああ、そういえば朝イチがどうとか言っていたので、明日の朝から仕事でもあるのかもしれません」

「朝イチ……そう、分かったわ。首飾りありがとうユウヒ。大事にするわね」


 その後、僕達は酒場を後にして宿に戻った。

今思えば、あれだけ騒いだのに追い出さなかったお店の人は寛大である。

この世界は親切な人が多いんだなぁ。


◇ ◇ ◇


 部屋に戻った朝陽、エレオノーラ、ニィエルは首飾りを見ていた。

3人の目は真剣そのもので、視線で射殺さんばかりである。


「やっぱりそうね」

「ええ」

「そだねー」


 3人は同じ結論にたどり着いたようだ。互いに顔を見合わせ頷く。


「クロね」

「クロです」

「クロスケだよー」


 夕陽が買った首飾りには何ら魔法的効果は無く、どこからどう見ても普通の首飾りであった。

要するに夕陽は詐欺にあったのだ。


(ゆうくーん……)


 あれだけ注意し、自信満々に出て行った結果がこれである。

朝陽は姉として少し情けなく思っていた。


「まあまあ、そこがユウヒの良いところでもありますから」


 そんな親友の心情を読んだエレオノーラはフォローを入れる。


「ユウヒのことはいいわ。問題は騙した奴よ」

「どうするつもりですか」

「別に殺しはしないわ。でも悪い子にはお仕置きが必要でしょ?」

「さんせー」

「異論はありません。お任せします」

「そ、じゃあ行ってくるわ」


 ニィエルは、窓を開け放つと身を投げ出した。次の瞬間には姿は見えなくなり闇と同化するのだった。


「……なんで窓からいったんだろー?」

「さあ……?」


◇ ◇ ◇


 男は機嫌が良かった。真夜中に差し掛かる頃、鼻歌を歌いながら路地裏を歩く。

いつもなら朝まで飲んだくれるが、次の日は早朝から町を出る必要があるのであまり長く遊んでいられない。さっさと宿に戻らなければならない。


「金持ちの田舎モンを騙すのはやめらんねぇなあ」


 何しろ端金で仕入れたアクセサリーが銀貨5枚になったのだ。しばらく遊んで暮らせる額だ。笑いが止まらない。


 手口は単純なものだ。男は魔法使いなのである。客の前で魔具を使ってると見せかけて、自分の魔法を披露する。すると客は本物の魔具が売られている店であると思い込む。

その後、高額の魔具を吹っかけて、客が引こうとするところで、財布の中身に合わせた値段の魔具擬きのアクセサリーを提示してやるのだ。


 無論、買わない客も多いが、数をこなせば成功する回数も増えるのである。

男は度々この手法で稼いできた。今日もまた、バカな客が引っかかったのである。

 

 ただ今回は、どうやら売ったアクセサリーを魔法使いが使うことになるらしい。

念押しもしたので今日中にバレることは無いだろうが、念のため、明日の早朝に町を出ることにしたのだ。


「大胆でいて繊細な犯行。慎重な性格。我ながら隙が無さすぎるぜ」


 自画自賛をしながら歩みを進める。


「何言ってんの隙だらけよ」


 瞬間、男は猛烈な風に吹き飛ばされ壁に叩き付けられた。そして細い土の針に着ている服と壁が縫い付けられる。

げほっ、と男の肺から空気が漏れる。何も理解できない男の目の前に一つの影が立った。


「さて、どうしてくれようかしら」

「て、テメェ何モンだぁ……」

「金持ちの田舎者の仲間よ」


 男の目にはエルフの少女が、その首元には見覚えのある首飾りが映った。


「アタシの仲間が世話になったようだから、お礼をしに来たわ」


 男は目の前の少女が何者で、何が目的なのか理解した。


「お、お願いします!命だけは!」


 変わり身が早いのは男の確かな才能だった。彼我の戦力差を即座に測ったのだ。


「命まで取る気は無いわ。でも、もう詐欺は出来なくなる」


 少女が静かに男に近寄る。男は恐怖で目を開けていられなかった。


「――アンタから魔法を奪う」


◇ ◇ ◇


「ただいま」

「おかえりー」

「おかえりなさい」


 開いている窓からニィエルが部屋に入ってくる。


「首尾よく済んだようですね」

「当たり前。手加減するほうが難しいくらいよ」

「流石エルっちー」

「ふん!もう詐欺を働くことはできない体にしてやったわ」


 ニィエルは自分のベッドに勢いよく座る。


「ユウヒにこの事は言わないのですか?」

「アタシはね、ユウヒにこの世界を好きになって貰いたいの。アタシらが黙ってればユウヒにとっては今回のこともいい思い出よ」

「デレデレしちゃってさー」


「してないわよ!」


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