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宿場町にて

 朝、食事を簡単に済ませて荷物をまとめ、早朝のうちに出発した。

昨日から引き続きロベルトさんに御者を任せ、僕達は馬車の中で大人しくしていた。

エレオノー……エレンさんの呼び方でひと悶着はあったけど、概ね平和だった。


 馬車は順調に進んで行き、辺りは山岳地帯となった。夕方に差し掛かる頃には山のふもとにある宿場町へと辿り着いた。


今日はこの町に泊まるらしい。エレンさんとロベルトさんは、馬車を降りてすぐにどこかに行ってしまったので、宿をとるのは僕と姉さん、ニィエルさんの役目となった。


「オヤジ!五人だけど部屋空いてる?」

「あー、三人部屋2室でいいなら空いてますぜ」

「それでいいわ」


 ニィエルさんが2つの簡素な鍵を受け取る


「じゃあ、お部屋行こっか、ゆう君」

「うん……うん?」


 なぜか僕と一緒の部屋に入ろうとする姉さん。自然過ぎて一瞬ツッコミを忘れてしまった。


「いや、姉さんと僕の部屋は別だから。着いてきちゃだめだよ」

「えーいいじゃーん。一緒の部屋にお泊りしよー?」

「何言ってんのバカアサヒ。部屋割りは男女別々に決まってるでしょ!姉弟(きょうだい)でも許さないわよ!」

「いいのかなエルっちー。そんな固定観念に囚われちゃってー」


 不敵な笑みを浮かべる姉さんにニィエルさんが怯む。


「どういうことよ?」

「三人部屋ってことは、あたし達が三人で一緒の部屋に入っちゃえばいいじゃん」

「ア、アタシも!?でもロベルトとエレオノーラが……」

「大丈夫、今のうちに部屋割りしちゃえばいいんだ。今二人はいないから、これは仕方ないことなんだよー」

「そういことなら……いやでも……」


 姉さんはニィエルさんの周りを回りながら、大丈夫大丈夫仕方ない仕方ないと囁く。すると最初は抵抗していたニィエルさんも次第に力が抜けていった。


「ユウヒー、アンタもおなじへやでいいわねー」

「ダメに決まってるでしょう、目を覚ましてくださいニィエルさん!そんな勝手なことしたらエレンさんに酷い目にあわされますよ」

「エレン……エレオノーラ……はっ!」


 ニィエルさんは正気に戻った!


「え、エレオノーラ……やめて……お願いお仕置きだけは……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 全然正気に戻ってなかった。トラウマを刺激してしまったらしい。ガタガタと震えている。

仕方ないので動かなくなってしまったニィエルさんに肩を貸して部屋に入る。そして備え付けのベッドにそっと寝かせた。


「姉さん、ニィエルさんの様子を見ててよ」


 そう言って僕は部屋を出ていこうとする。


「ゆう君もこの部屋で寝るんじゃないの?」

「ニィエルさんの状態を見て、よくそんなこと言えるね。本当にエレンさんに何かされちゃうよ」

「あたしは平気だよー」

「ニィエルさんが無理でしょ」


 ちぇー、と口を尖らせる姉さんを尻目に部屋を出て、隣の部屋に入る。こちらを男部屋にしよう。

さっそく荷物を下ろし身軽になると手持ち無沙汰になる。


 せっかくなので町に繰り出してみようかな。

明日には、この町も出る予定なので今のうちに見て回るのもいいかもれない。


 そうと決まればさっそく出掛けよう。僕は再度隣の部屋に行き、姉さんに一言いっておくことにした。


「姉さん、ちょっと町を見てくるよ」

「えっ、一人で?あたしも行くー?」

「大丈夫だよ、僕だって子供じゃないんだ。それよりニィエルさんのこと頼んだよ」

「うー、分かったよー。町には危ない人だって居るんだから、知らない人を簡単に信用しちゃダメだよー」


 よくよく心配してくれているが、姉同伴でないと町も歩けないなんて恰好つかないし、一人で行きたい。

姉さんは僕とニィエルさんを交互に見ていたが、渋々ながら送り出してくれた。


◇ ◇ ◇


 目に入る光景はどこも初めて見るものばかりで、眺めているだけで好奇心をくすぐられる。

もう夕方なので人通りは少なくなってきているが、昼間は活気のある通りなのだろう。


「よぉニイチャン、見ていかねぇか」

「へっ?」


 突然話しかけられて、辺りを見渡すが近くには誰も居なかった。


「こっちだよこっち」

 

 声を辿り探してみると路地裏に怪しい風体の人が座り込んでいた。

前の方には敷物が引かれており、その上に何やらアクセサリーらしきものが並べられていた。


「あの、僕のこと呼びました?」

「おうそうだよ、ニイチャンのことを呼んだのはオレさ」


 目深に帽子をかぶっており顔を伺うことはできない。低い声から男であることは分かった。

かなり胡散臭いが、現代っ子を舐めないでもらいたい。簡単に騙されたりはしない。


「何か用ですか」

「いやね、オレは見ての通り物売りなんだが、どうだ買っていかないかい?」

「そう言われましても……」


 売られている商品を眺めるが、いわゆるシルバーアクセサリーというもので、こういう類には手を出したことが無いので買うのは憚られる。


「魔具を見るのは初めてかい?」

「魔具?普通のアクセサリーじゃないんですか」

「そんじょそこらの(ブツ)と一緒にしてもらっちゃ困るぜ。こいつらは俺が丹精込めて作った我が子のようなもんさ」

「へぇ、手が掛かってるんですね。魔具ってどんなものなんですか?」

「そりゃ色々だよ。基本的には魔法使いがやるようなことが、こいつに魔力を流すだけで出来るようになるのさ。火を出したり水を出したり、な」

「僕、自分に魔力があるか分かんないですけど」


 そういえば、せっかくのファンタジー世界なのに魔法を使ったことは無かった。憧れが強すぎて自分のような素人が使えるとは思っていなかったのだ。


「大なり小なり魔力は万物に宿っている。ニイチャン、照光具を使ったことはないかい?触ったら光るやつだ」

「あ、あります」

「あれは触れた者から微量の魔力を吸い取ることで起動するんだぜ。魔具の一種だな」

「ということは僕にも魔力があるってことなんですね」

「ま、そういうことだな」


 それにしても色々教えてくれて親切な人である。こうなると1つくらい買ってあげたくなるな。


「ちょいと実践してみるか、よっと」


 そう言うと店主は並べてある魔具から指輪を手に取り、指に嵌めた。

それから手のひらを上向きにして少し精神を集中させると、小さい炎が舞い上がった。

空気を伝わる熱気から本物の炎であることが分かる。


「おお~」

「ざっとこんなもんさ」


 思わず声を上げて感心してしまう。俄然欲しくなってきた。


「幾らするんですか?」

「大体、金貨1枚からだな。効果によっては、もっと高い物もある」

「金貨……」


 旅に出た当初にニィエルさんからお小遣いを貰っていたので財布を覗いてみる。

中には銀貨が5枚入っている。これまで使う機会が無かったので丸々残っていた。

しかし金貨にはほど遠い。金貨は通貨の中でも最上級のもので、そうそう個人が持てるものではないのだ。


「全然足りないです……」

「ちなみに幾ら持ってるんだ?」

「銀貨5枚ですね」

「それじゃあ足りねぇな」


 ですよね、と肩を落とす。欲しかったけどお金が無いんじゃ仕方がない。


「だがよ、こいつならどうだい?」


 そろそろ帰ろうかと思っていたが、話はまだ続いた。

店主が差し出してきたのは、夜空を模したデザインが施された円形のパーツと、その周りを囲むように三日月のパーツが一緒になり、鎖で繋がれた綺麗な首飾りだった。


「綺麗ですね……これは幾らなんですか?」

「銀貨10枚だ」

「やっぱり足りないですよ」

「慌てるんじゃない。こいつは装着者の魔力を高めるモンでな。派手な効果がない代わりに他のよりは安い。だけど正直買い手がつかなくてな。魔力を高めるって言っても微々たるもんだから魔法使いは買わないし、普通のアクセサリーにしては値段が高めだから他の客にも売れねぇ」

「つまり?」

「銀貨5枚にまけてやる」

「買ったぁ!」


 財布から5枚の銀貨を手のひらに乗せ、そのまま差し出す。


「へへっ、まいどあり!」


 店主は銀貨を受け取り、首飾りを渡してくる。手に取って眺めると一層綺麗に見えるなぁ。

僕は腰につけていたポーチに大事にしまった。


「ニイチャン、それ自分でつけるのかい」

「いえ、友達に魔法使いの子が居るのでプレゼントしようと思ってます」

「……そりゃあいい!友達も喜ぶだろうよ。友達もこの町に居るのかい?」

「はい、一緒に旅をしているので」

「そうかそうか、旅をね……つーことは朝イチだな」

「は?何がですか?」

「何でもない何でもない。今日は売れたし店じまいだな」

「今日はどうもありがとうございました」

「ああ、こちらこそ。そうだ最後に助言だが、プレゼントする時はちゃんと機会を待ったほうがいいぞ。宿に戻って、焦って渡してもプレゼントの効果は薄いだろうよ」


 店主は荷物をさっさとまとめると路地の奥へと引っ込んでいった。

アフターケアまでしてくれるとは異世界の物販サービスも侮れないものがある。


 そんなことを考えながら僕は帰路についた。


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