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「おはよう」

そんな声がした気がして、僕は目を覚ます。

いつも通りの天井と、いつも通り冷たい部屋と、あったかい布団。

熱源は、僕と彼女だ。

天井から視線を右にそらすと、同じ布団で横たえている彼女と目が合う。

「気分はどう?」

「まぁまぁかな。でも、そんなに悪くはないよ。」

「まぁまぁかぁ。なんか悔しいけど、落ち着いたみたいで何よりです。」

「こちらこそ感謝しています。」

取り乱した記憶は確かにある。

暖炉の火の中から溢れ出くるエネルギーに、確かに僕は侵されて、正気を失った。

半分は人間じゃなくなった。

多分一人だったら、自分に絶望して、人間に絶望して、生きていくことはできなくなってしまうだろう。

でも僕は一人じゃない。

僕には彼女がいる。

「ねぇ、昨日の私の蘇生、何点だった?」

蘇生とは、僕が取り乱した時に僕を正気に戻すための声かけや、それに付随する行為のことを指す。

「100点じゃない?」

「よし。昨日は上手くいったと思ったんだよねぇ。」

そう言いながら彼女は布団から出て伸びをしている。

蘇生だって大変だ。

正気じゃない人間と向き合うのには、相当な精神力と体力が要る。

彼女だって疲れているはずだ。

「ねぇねぇ100点ついでにさぁ、朝ごはん作ってくれない?」

彼女にも少しは休んでもらいたいとも、思わずにはいられない。

「いいよ、何が食べたい?」

「やった!そうだなぁ、ホテルの朝食バイキングに出てきそうなやつ全部!」

「パンとスクランブルエッグとサラダでいい?」

「……なんか少ないけど、いいよ。」

「僕をホテルのシェフにするのは楽しいかい?」

「だんだん料理の腕が上がってきてるから、そろそろいけるんじゃないかなって思ったんだけどなぁ。」

基本的には、料理は彼女の担当だ。

だけど彼女が疲れていたり、彼女になんとなく負い目があるとき、あとは単純に僕が料理をしたくなったときは僕が厨房に立つ。

「昔は下手物ばっか食べさせられてたのに。普通に料理できるようになっちゃってさ。」

「そりゃ僕だってだんだん上達するってもんですよ。」

今は簡単なものなら何不自由なく作れるようになった。

彼女の助けになってあげられるなら。

それが僕の行動理念の根幹を成している。その行動の一つに料理があると言うわけだ。


「今日取材の人が来るんでしょ?」

パンを口にくわえながら喋る彼女は、行儀が悪い。

「ちゃんと飲み込んでから喋りなさい。」

「いいじゃん、君しかいないんだしさ。」

「……じゃあ、いっか。」

「そう、いいの。」

ここには、二人しかいない。

本当に二人しかいない。

自分でも、客観性が損なわれていく感覚は自覚している。

比較対象がいないのだ。

僕にとっての社会は、僕と彼女の二人でしかない。

そんな場所にも、たまには来客くらいある。

「瓦さんが来るの?」

「そうみたい。あの人東京の記者でしょ?わざわざこんな遠いところまで来ることないのに。」

「それだけ僕たちの取材のしがいがあるんじゃない?」

「まじ?一面飾っちゃう?」

「それはないと思うけど……っていうか、新聞には僕らの情報は載せられないんじゃないかなぁ。」

「外の人間は、私たちに会いづらいはずだよね。」

「そう。瓦さんが特殊なだけだと思う。」

外の人間は、僕らに押し付けているんだ。

人間が本来持っているけれど認めたくなかったソレを、僕らに押し付けているんだ。

会えるはずがない。

僕たちだって、簡単には会いたくない。


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