第7話
麗華が指揮を取り始めてから、一年ほど経ってサッカー部は今や完全に麗華の物になった。元々監督だったハゲは麗華に敬語で喋り、あれだけ反抗的だった先輩たちは今や、麗華が座った椅子を舐める権利を奪い合っている。そうして、麗華に憧れた新一年生たちが大量に入ってきたり、アリスが麗華との握手券を発行して、それを発売して部費の足しにしたりと完全にチームが麗華を中心に機能している。
「なんでお前がいるの?アリスとかと一緒に遊びに行ったんじゃないの?」
「だって、あなたたちふざけるでしょ。それに、遊びに行ったりしたら、私がサッカー部に入った目的が達せられないじゃないの。」
「目的?ま、まさか、俺を虐めるためなのか?クソが。このサディストめ。」
「なんで、そうなるのよ。あなた、もしかしてわざとやっているの?だったとしたら、あなたの方がサディストよ!」
「喧嘩しないで下さい。それに、私のことをわざわざ引っ張ってきたんですから、ちゃんと練習やってくださいよ。」
不満げな顔をしたアリスがいたことから、多分アリスは麗華に言われてタピオカを諦めて戻ってきたんだと思う。小さい頃からいつもアリスと俺は麗華に振り回されている気がする。
監督はもう、指示を出す気なんて全くなくて、麗華が座る席の準備やお茶を入れたりしている。部員たちはあんなに私語をしていたのが、直立不動で黙って立って麗華のことを待っている。はたから見たら結構やばい光景だが、もう誰もおかしいとは思わない。
そうして、麗華は用意された椅子の前に立って、その隣にはアリスと監督が立つ。そうして、麗華が練習をする前に行うミーティング、部員から言われている別名、神の詔が始まった。
「あなたたちは自分で考えることのできない、私の言うことだけを聞く豚よ。」
「俺たちが麗華様の豚だと?」
「さ、最高じゃねえか。ハアハア。」
「俺は今日と言う日を忘れない。」
若干テンションがおかしいが、もう気にしていたら負けなので無視する。
「でも、私は豚でも使える豚にしか、興味がないわ。」
「そ、そんな。れ、麗華様にそ、そんな事を」
「いや、でもむしろそんな扱いも良い。」
「私は練習を全力でやる人が好きだわ。だから、頑張ってやりなさい。もし、今日の練習を全員が全力でやりきることができたら、私はあなたたちみたいな豚をもう一回、罵倒してあげるわ。」
地面が揺れて震える。部員たちの出した歓声や雄叫びで震えているのだ。この人たちはもう、こちらの世界には戻っては来れない向こうの世界の住人なのだ。
「100メートルダッシュを100本1時間で、その後にシュート練習、ドリブル練習、パス練習をおこなって紅白戦をするわ。」
普通に吐いてしまう様なメニューである。俺は正気かと言う風に周りを見回すが、皆の目の色は明らかにおかしくなっている。むしろ、喜々として練習をしようとしている様にすら見える。
「麗華様の笛の音でダッシュができるなんて。僕はなんて幸せなんだ。」
「俺はアリス様だ。ヒャッハー。」
「神よ。麗華様と僕を関わらせてくださって、ありがとうございます。」
「いや、違う。麗華様こそが神なんだよ。」
そうして、練習後には、グラウンドに立てなくて横たわっている部員たちに向かってアリスや麗華が声をかけて泣き出すと言う、謎の現象が起きることになった。