第6話
一対一を制して、ディフェンスを左側から抜いた芹沢に、すぐさまセンターバックがヘルプに来て、ペナルティエリア内で潰そうとする。だけど芹沢は潰される前に、右サイドにキックをミスったのかと思ってしまうほど速いボールを送る。しかし、絶対にラインを割ってしまうと思ったそのボールは爆速で走ってきた右サイドバックが追いついた。そうして、そのままの勢いでクロスを上げる。しかし、それは乱れて後ろに流れたようになる。だけど、その落下点には既にシュート態勢に入っている俺がいた。右足を振り切る。それはディフェンスの足元を通り抜けて、ゴールの左に突き刺さった。
これまでにない完璧な攻撃が成功したことに、仲間が歓声を上げてみんなで集まって円陣を組んでワイワイと話す。それを見た監督が練習に戻れと怒鳴っているが、誰も言うことを聞いていない。サッカーは楽しい。非常に楽しい。俺も額に浮かんだ汗を仲間のTシャツで拭いたりしてふざける。
「ねえ、何をしてるの?早く練習しなさいよ。」
その綺麗な声が聞こえた瞬間、皆の顔色が変わり、さっきまで監督の指示を無視していた奴らが全員全力で監督の元にダッシュで向かう。皆のさっきまでの笑っていた顔が嘘のように、真剣なものに変わる。
誰が来たかだって?そんなことができる人は一人しかいない。麗華様だ。
一年前、サッカー部に入ろうとしていた俺にそいつは当然のようについてきて言った。
「私とアリス、サッカー部のマネージャーになるから。」
アリスが嫌そうな顔をしていたから、おおかた麗華に言われて仕方なく了承したんだろう。でも、俺は驚いたと言うより先に疑問が来た。
「お前、マネージャーって何をするか知ってんの?応援するのはチア部だから、あっちだよ。」
本当に親切心で言ったつもりだ。応援するのはチア部。マネージャーっていうのは部員の洗濯とかをする雑用係みたいなものだ。
しかし、麗華は
「あなた、私を馬鹿にしているの?当然よ。戦術を考えるんでしょ」
「ほら。だと思ったよ。ちげえよ。洗濯とかするんだよ」
「何を言っているの?さっき、サッカー部の監督に会ってきたわよ。戦術や戦法を考えるのも監督も私に譲るって言ってたわよ」
「は?何言ってんの?」
「お金で全てが解決できるのって知らない?」
「嘘だろ?」
「嘘なんて言っても何もならないわよ。」
「終わった」
崩れ落ちる俺を尻目に、唯一の親友である新海が話しかけた。
「ちなみに、近衛さんはどんな戦術を使うつもりなの?」
「何、言ってんだよ。こいつがサッカーわかる訳ないだろ。たまに、海外サッカー見てるぐらいだよな。」
「ハイプレスで、ロングボールを中心に組み立てるわ。このチームにはロングボールを蹴れる人がそこそこいるし、何よりボール回収が得意な芹沢君がいるわ。それに、あなたがいるでしょ。そ、その、まあ、攻撃面でだけはあなたが優秀なインサイドハーフなのは認めるわ。」
「いやいや、サッカーはそんな単純じゃねーよ。そんな思い通りに行く訳ないだろ。」
俺は麗華のことを全然認めていなかった。だから、麗華が持ちかけた取引にはすぐに乗った。
「1週間後に、都立白銀高校と練習試合を組んだわ。そこで、私の言うことを聞きなさい。負けたら私はサッカー部を辞めるわ」
「いいじゃねえか。やってみろよ。」
白銀高校は強い。確か、スポーツ推薦も取り入れていて都の中でもベスト8ぐらいだ。相手にはちょうど良いぐらいではなく、普通に負けるくらい。だから、油断していた。俺やサッカー部の先輩たちもそう思っていただろう。まさか、勝つことはないだろうと。そうして、1週間後に俺らは4対0で勝利した。
圧倒的に勝ったのにかかわらず、顔面蒼白な俺や元々いたサッカー部の先輩たちに向かって麗華は言った。私の言うことには絶対に従えと。俺らは黙って首を縦に振る他にはなかった。そうして、勝率9割近くを誇る17歳の女の子に50人ぐらいの男が何を言われても従うと言う、共産主義みたいな部活が完成した。
全然関係のない話ではあるのですが、私、実はヤンデレなヒロインというのが好きでして、最近すごくヤンデレなヒロインというのを書いてみたんです。というわけで、もしよろしければこちらの作品もお願いします。
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