第3話
「山田 翼。いつ見ても、つまらない名前ね。」
「なあ、お前は人を馬鹿にしないと生きていけないのか?」
「違うわよ。自分より弱い人を見ると、いじめたくなっちゃうの。美少女の特徴ってやつね。」
「そんなの美少女じゃねえよ。」
麗華が紙をめくる音がやけに大きく聞こえる。
「17歳。借金がある。ここら辺はどっちでもいいわね。交友関係。あなた、友達はできたの?」
「全人類みんな、俺の友達だから強いていうならできてねえな。」
「インキャの戯言は置いておいて、これはどうなのかしら?」
麗華とアリスが二人で楽しそうに身辺調査の紙を見て喋りだした。俺も彼女らの後ろに回って、それを一緒に見る。
しかし、そこに書かれていたのはどう見ても両親が俺を売ったとしか思えない、アウトな情報ばかりだった。
趣味:美少女フィギュア エロ同人誌鑑賞
部活:サッカー部(補欠)
学業:保健体育のみ優秀
生活習慣:非常に悪い(起床14:00、就寝7:00などというようなサイクル)
恋人:なし
友人:二人
「おいいいい!!」
慌てて、麗華から書類をひったくる。しかし、
「ツバサ君って、変態なんですね?」
「ち、近寄るな!変態!」
幼馴染達の反応をみると、少し遅かったようだ。
「いや、なんで?なんで、そんなん分かるの?調査とかいうレベルじゃないだろ?親か?あいつらが俺を売ったのか?」
「黙れ!変態!え、エロ同人誌とか。こ、高校生のくせに不純よ!」
でも、切り札がないこともない。
「いや、でも同人誌だったら、アリスも」
「ツバサ君!それ以上喋ったら殺しますよ?」
「なによ、それ?同人誌?アリスが?」
「麗華様には関係ないですから」
「なによ?私だけ仲間外れにしないでよ」
「単純な話だよ。アリスが男同士の・・・・」
「冗談抜きで、それ以上言ったら殺しますよ?」
アリスは青色の瞳を浮かべながらこちらに近づく。怒ったら怖い。それはどちらかといえば、麗華よりアリスだ。まじで何をするかが分からない爆弾みたいなものだ。で、あればここでやることは一つだろう。
「俺、用事思い出したから、先に部屋に戻っとくわ」
ドアを開けて、全力で走り去る。そうして、麗華は4枚目の報告書だけをとって、残りは封筒に入れてアリスに渡した。
「捨てておいて」
「わかりました。って、やっぱりツバサ君のが欲しかったんですか。」
「まあ、これから私の部下になるわけだし、上司として部下の把握は必然だから。」
「でも、クリアファイルまでしてそんな丁寧にしまいますか?」
「そ、それは、そ、その。」
「麗華様って、たまに可愛いですよね。ツバサ君にもそれを見せたらイチコロなのに。」
「そ、そんなことできるわけないでしょ!」
言い争う主従は姿形は違えど、その姿はまるで仲の良い姉妹のように見えた。