第一話
もう少し考えるべきだったとは思う。相性が悪くて、いつも喧嘩ばかりしている幼馴染がその日に限って妙に優しかったり、借金があって、身動きが取れないはずの両親がなぜかその日に限って、どこかに出かけるような準備をしているような段階で。
もう一回。もう一回、冷静になって考えれば俺はこんなことにならなかったのかもしれない。まあ、いくら嘆いてもそれは後の祭りなんだが。
うちの家の広さくらいあるその部屋は、何やら一般人では名前すらわからないような装飾品で飾られている。それらの装飾品を何も気にせずに地面に落とすと、装飾品など比べ物にならないほどの輝きを持った女が椅子を引き出して、俺の目の前に座った。そして、その部屋の主は満を持して口を開いた。
「あら?そこに居るのは私の幼馴染の山田くんじゃないの?」
「当たり前のことを聞くんじゃねえよ。」
「でも、あなたはまだ状況がわかっていないみたいだけど?飼い主になんて口を聞くのかしら。」
「分かったよ。すみませんでした。麗華様。」
「敬語はやめて。私は段階を踏んで心から屈服させるのが好きなの。最初から敬語とか違和感しかないわ。」
「だまれ。くそ女。」
「あら、いつものキレがないのだけれども。」
近衛 麗華。日本一の財閥グループ本家近衛家の長女で、間違いなくこの日本という国で、有数の権力を持った女である。彼女が15の時に設立した会社が、近衛グループの中で最も大きな会社となったことをうけて、彼女の父親が家督を彼女に譲ることに決めた。たった、16歳の女の子が日本を代表する財閥の長になると言うことで、当時は大きく取り上げられ、様々な批判や意見を受けた。
そうして、それから一年。彼女はグループ全体の年商を二倍にまで膨れあげることに成功し、反対派を黙らせた。日本を代表する人間。それが彼女、近衛 麗華であり俺の幼馴染だ。
そんなスーパー高校生の幼馴染の俺は少し家の事情が特殊な男の子だ。小さい頃から、小さな家の中では多くの困難があった。家に連日のように借金取りが押しかけてきたり、ガスや水道が止まってしまったりと。普通の一家では絶望するような状態でも、その一家にとっては別に困ったことではなかった。むしろ、話のネタになると笑っていられるような人たちだった。彼らは平気で借金を増やしながらも、ガス代を払いに行った。そうして、少年はそんな愉快な家で、15年ほど暮らした後に、突然、黒ずくめの服を着た男たちに誘拐された。
「で、売られたってどういうことだよ!」
「その通りよ。あなたの両親はあなたのことを8億円で売って行ったわ。ここに証明書もあるし、私も立ち会ったから、ドッキリでも夢でもないわよ。」
「だいたい、おかしいとは思ってたんだよ。借金が2億を超え始めて、本格的に夜逃げの準備とか進めてたのに急にある日から、いきなりニコニコ旅行の相談をし始めたんだからな!」
「ちなみに、伝言があるわよ。「拝啓、ツバサ君へ。そちらはもうすぐ、新学期が始まることでしょう。こちらは今から、夏が始まるみたいです。ツバサ君には驚かせるようなことになってしまって申し訳ありませんが、これは私たち両親からできる最大限のプレゼントでもあるのです。考えてみてください。よく、ツバサ君は漫画を読みながら、「ラブコメって基本、同棲してるよなあ。うらやましいよなあ。」と言っていましたね。私たちはそれを契約書を書きながら、思い出しました。そして、あなたの願いを叶えてあげようと。もしかしたら、困難もたくさんあるかもしれません。それでも、私たちは遠いハワイから、あなたの幸せを願っています。」
って書いてあるわ。」
「あの両親最低だな。平気で息子を売ったくせに、何にも悪いと感じてねーぞ。」
「ちなみに追伸もあるわよ。「それに、私たちが名付けたツバサという息子が私たちを借金から飛びただせてくれる翼になるとは誰が想像したでしょうか。」って書いてあるわ。」
「何、上手いこと言ったみたいな感じにしてんだよ。あんたら最低だよ。」
「面白いご両親よね。私にも、息子をよろしくお願いしますって。ちなみに、半年は連絡を取らないで欲しいそうよ。」
「雲隠れする気満々じゃねーか。何が息子をよろしくだよ。」
続きます。どうかお願いします。