そして未来へ
~前回のあらすじ~
青葉の異常はナノマシンによるものだった…?
そんなこんなで第2部最終回!
「ナノ…マシン?それは一体どういう———」
青葉の父親がどこか狼狽したような雰囲気で言葉を漏らす。それに対しマサムネは目線を伏せ気味に答える。
「我々が開発していたナノマシンは、人間の感情を司る部分である前頭前野と偏桃体にとりついて、そこから発信される電気信号を解析してその人がどのような感情を抱いているのかを専用の機械で観測するというものです。…わかりやすく言うなれば”相手の心を読めるようになる”というものです」
そして、と一息おいてから続ける。その場にいる全員が息をのみ、張り詰めたような空気が漂い始める。
「おそらく偏桃体に侵入する際に海馬を傷つけてしまったものと思われます。脳は言ってしまえば精密機械の塊のようなものです。早期発見できれば手の打ちようがあったかもしれませんが…」
説明を聞き、青葉の両親は意気消沈と言ったような雰囲気だった。
「そんな…では青葉は、娘はどうなってしまうんですか!」
「すでに海馬は委縮してしまっているので…。恐らく日常生活に支障はないとは思われますが———」
「私たちはそんなことを聞きたいんじゃありませんッ!」
青葉の母親が声を荒げるのを父親がたしなめる。それもしかたないだろう。たった一人の娘が得体のしれない物によって体を壊されてしまったのだ。無理もない。
「———もうしわけ、ございません。我々がもっと慎重になっていれば、このような…」
そんな彼らの様子に唇をかみ、震える声で頭を下げる。その姿に母親は崩れ落ちるようにへたり込む。
「…すこし、時間を頂けませんか。私たちも急にこのような話を聞かされて整理がつかないのです」
そう言われて、マサムネはただ頷くしかできなかった。
施設のロビー。由梨はそこでベンチにうなだれるように座っていた。正面に見える窓の外ではぽつぽつと雨が降り始めている。気が滅入るような状況だが、そんなことを言っていられるような状況でもない。
「由梨、ちょっといいか?」
そういうと由梨の隣に健二が腰かける。両手には缶コーヒーを一本ずつ持っており、その一方を由梨に差し出してくる。
「その…大丈夫か?」
普段であれば何をもって大丈夫なのか聞き返したくなるが、今はそうやって声をかけてくれること自体がありがたい。
「んー?まぁ大丈夫かっていえば大丈夫だけど、やっぱり不安だなぁ」
プルタブを起こしながら空元気気味に笑う。そんな様子を見て健二も不安半分、安堵半分といった様子だった。
「でもさ、ちょっと不思議っていうか…気になることがあるんだよね」
「気になること?」
うん、と相槌を打つと缶コーヒーを一息に飲む。空になった缶を手の中でころがしながら続ける。
「青葉ちゃん、私と話してるときは全然、記憶がないような素振りなかったんだよね。兄貴、何か知らない?」
「と言われてもなぁ、俺は記憶がない青葉ちゃんしか見てないからどうとも…」
「たぶんですけど…代償機能じゃないっスか?」
振り返るとそこにはその場にいる誰よりも落ち込んでいるマサムネの姿があった。
「代償機能…って?」
「人間の身体って奇妙なことがあって、脳だと一部の機能が失われてもほかの部分がその失われた部分の機能を補完したりするんスよ。そのことっス」
二人が全くの分野外のことに感心しつつもつまり、と続ける。
「由梨さんの存在が、その代償機能を引き起こすトリガーになってるんじゃないんスかね?」
説明しつつ、健二を挟んで由梨の反対側に腰かける。
「トリガー、トリガーねぇ。」
「それだけ愛されてるってことじゃないンすか?まぁ、その辺はよくわかんないんスけど」
「あぁ、やっぱり君がそうなんだね」
再び声を掛けられ振り返ると、今度は青葉の父親だった。
「ど、どうも」
少し戸惑いながらも立ち上がって頭を下げる。その姿に父親はくすりと笑う。
「なんだか、青葉から聞いた話とはちょっと印象が違うね」
「青葉ちゃんから…ですか?」
「うん、青葉からは色んな話を聞いたよ。まぁ、詳細についてははぐらかされてたけどね」
はははと笑う青葉の父に対し、由梨はどこか恥ずかしさを覚える。
にしても、由梨からするとそれだけ大切にされていたということが何よりうれしかった。
「…うん、君だったら大丈夫かな」
何かを納得すると、ポケットから小箱を取り出しそれを由梨に差し出す。
「これを、青葉から君に」
差し出された小箱を手に取り蓋を開けると、そこにはシンプルなデザインの指輪が入っていた。
「青葉ちゃんが…私に?」
「うん。誰に送るんだいって聞いたら、すごく大事な人にって言ってたから」
そこまで大事にされていたことに思わず涙を流す。
「でも、お父さんはいいんですか?その、青葉ちゃんが私と…その、そういう関係なのって」
おずおずと質問すると、少し考えるそぶりを見せる。しかししばらくすると満面の笑みになる。
「まぁ、話を聞いただけじゃどうだろうなって思ったけど、青葉のために真剣になってくれてるし、そういう人だったら僕は十分に任せられるかなって」
*****
あれから数年後、青葉は治療を続けているが未だ完治する兆しはない。しかし、継続した治療が功を奏しているのか悪化はしていない。
また、由梨の言っていた通り由梨と共にいるときはかつての青葉のままだ。せめて彼女の前では気丈であろうとする潜在意識のなせる業かもしれないと、マサムネは語っていたが。
かくして、彼女らの物語は続いていくのである。
-The END-
「と言うことで、クランクアップです~。お疲れさまでした~」
「「「お疲れさまでした~」」」
“俺の妹が《レズビアン》な件”の撮影スタジオ。そこでは今日最終回の撮影が行われており、つい先ほど全工程が終了したところだ。
「それにしても、なんか終わり方がふわっとしているというか、打ち切り的な終わり方してませんでした?」
青葉の一言に、作者はぎくりと顔をゆがませる。そのしぐさに由梨と健二はじとりと作者を睨みつけた。
「や、違うんですよ。最近Twitterで「大事なことはいい物を作ることじゃなくて最後までやりきることだ」って言うのを見たんですよ。そこで最終回が近いこの作品もちゃっちゃと完結させてしまおうかと」
見苦し言い訳に呆れすら感じるが、まぁ完結しないまま終わるよりかはと納得する。
「と言うことは、この作品はこれで本当に完結なんスか?」
「そうですね。まー第1章の流れをもう一回やりながらボリュームまして新シリーズできればいいなーとかは思ってましたけども。まぁやっぱり続き物が苦手なのにやるもんじゃないですね!」
…それって小説家として致命的では?という空気が漂うが、それはさておき。
「じゃあ、次回作にご期待くださいって感じか」
「ですね!と言うわけで皆さま、ここまでご愛読ありがとうございました!またどこかでお会いいたしましょう!」




