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俺の妹が《レズビアン》な件  作者: 嶺上開花
第2シーズン
18/19

忘却の要

~前回のあらすじ~

 何か天啓を得た様子のマサムネ。そして様子のおかしい青葉。

 みんな頑張れ!第2部の終わりも見えてきたぞ!

「え?…いや、何の冗談?俺だよ、白石 健二。由梨の兄貴の———」

「あのっ!私、急いでるんで!」

 そういうと小走りに人ごみの中に消える。夏の暑さのせいなのか知人の反応に起因するものなのか、背中を妙な汗が一つ伝う。その感触が嫌に体にこびりついた。


「———と、いうことがありました。…何か心当たりは?」

 ところ変わって白石家。今日の昼食は夏らしくそうめんで、ずるずると啜りながら由梨に報告する。対して由梨は訝しげな顔をしながらそうめんを咀嚼する。

「う~ん…。特にない、かなぁ。この間あった時は普通だったし」

 妙な違和感がぬぐえないが、何より由梨に心当たりがないのであればそうなのだろう。二人の関係性を考えるとなおさらだ。

「だったら、あれは何かの冗談だった?でもなぁ」

「大方、嫌われるよう何かをしたか…本当に冗談だった、とかじゃない?」

 しかしなぁ、と当時の状況を思い出す。明らかに怯えた表情と、声をかけた時の反応から見るに、演技ではないということは明らかだ。

 確かに森下 青葉は男性恐怖症とまではいかないものの、男性に対して少なからず恐怖心を抱いていることは確かだ。その点健二は由梨の兄と言うこともあり、それなりに接してきた結果急に声を掛けても大丈夫くらいには親密になっていた。

 それがここ数日という短期間で無に帰す行為など、健二には皆目見当もつかなかった。

「…もしかして、やっぱり何かあったんじゃ」

「ん~?大丈夫だとは思うけどなぁ。さっきも電話したけどおかしな雰囲気はなかったけどなぁ」

 思い過ごしだろうか、いやしかしと頭を抱えていると、由梨はご馳走様とだけ言い残して時間を気にしつつ出かける身支度をする。

「なんだ、今日は講義無いんじゃなかったのか?」

「それがね、今日青葉ちゃんとデートすることになってさ。それじゃ行ってくる」

 ぱたぱたと少し急いだ様子で由梨がいなくなる。窓の外から聞こえてくるうるさいほどのセミの声がむなしく反響していた。


 自宅を出た後、バスに乗って駅まで向かう。嫌気がさすほどの晴天のせいか、熱されたアスファルトからは陽炎が立ち上っている。

 待ち合わせの時間まではまだ少しあるので、軒先の影に入り太陽光から避難する。辺りを見れば開襟シャツを着てハンカチで汗を拭っているサラリーマンや夏服故にいろいろ透けてしまっている女子高生等、様々な人が行きかっている。特に女子高生に目をつけ、あぁ、やはり夏服はいいなぁ。眼福眼福と心の中で崇拝する。

 しばらくしてやはり気温の影響で喉が渇いたので付近のコンビニに入ってアイスコーヒーを購入する。対応してくれた店員が女性だったこともあり由梨のテンションはかなり高くなっていた。

 それからまたしばらくして。待ち合わせの時間を過ぎたが未だに青葉の姿はない。途中ナンパ目的の男数人に声を掛けられたがうまくあしらった。が、さすがに声を掛けられすぎて折角上がったテンションが来た時よりも低くなってしまっていた。

 はやる気持ちを抑えて待ちに徹する。待った時間が長ければ長いほど会えた際の喜びもひとしおだろうと考えてのことだ。べ、別に日寄ってるわけじゃないし?考えてのことだし!

 しかし青葉は現れない。もう待ち合わせの時間はとうの昔と言ったところだ。さすがに心配になってきたのでメッセージアプリを起動し連絡を取ってみる。

『あおばちゃん?もしかして何か用事でも入った?』

 テキストを入力して送信し返事を待つ。しかし、一向に既読が付かない。不安は募るばかりだ。

 頭を振って不安を拭い去り今度は電話を掛けてみる。しばらくコール音が続いた後、ようやく青葉が電話口に出た。

『も、もしもし…』

「あぁ、青葉ちゃん、大丈夫?待ち合わせの時間過ぎちゃってるけど」

『え、あ。うん、ごめんなさい…?』

「…青葉ちゃん?何かあった?」

『ごめん…。なんでもないんだけどさ、ちょっと…』

「ちょっと?」

『待ち合わせの約束なんて…してたっけ?』


*****


「疑ってごめん。やっぱり何か変だわ」

「デートにしてはやけに早いなとは思ってたけど、帰ってきて開口一番にそれか」

 午後3時、ようやくこれから気温も下がろうといった時間。部屋の掃除をしていたところだった。

「いやだって、午前中に『デートに行こうね』って約束したのに、そんなことあったっけって。やっぱり普通じゃないっていうか、兎に角気になる」

 いつにも増して真剣な表情で彼女の身を案じる。由梨の中ではすでに彼女はそれほどの存在になっているのだろうと関心すらする。

「わかった。ちょうど今度研究の検診があるから、その時に色々調べてみるわ」

「ん、そのことなんだけどさ。私も一緒に行っちゃだめ?」

 由梨の言うことは理解できる。恐らくと言うか十中八九、おかしくなったのはナノマシンを入れてからだ。そのことで色々検査してみるというのであれば、その結果をいち早く知りたいし、人伝ではなく直接知りたいというのは当然の心理だろう。

「…わかった。ちょっとマサムネに連絡してみる」


「———と、いうことでOKだってさ」

 通話を終了しながら由梨に承諾を得たことを伝える。

「そっか…。ありがと、それと急にごめんね」

「いや別にいいよ。青葉ちゃんの事、心配なのは俺も一緒だし」

 ばつが悪そうにしている由梨の頭をくしゃりと雑に撫でる。

 嫌と言うほどでは無いのだろうが、流石に恥ずかしいのかすぐに払いのけられたのは流石にショックと言わざるを得なかった。


*****


 数日後、研究所にはマサムネや健二はもちろん、被験者たちと青葉の付き添いの由梨、そして青葉の両親の姿もあった。なんでも少しおかしなところが散見されるというので不安になってついてきたらしい。

 先にほかの被験者たちに軽い問診と、念のための検査を行っていく。詳しいことは時間を掛けなければわからないが、現在の時点では特に問題点は見受けられないらしい。

 そして、ついに青葉の順番となった。

「どうも、森下さん。お気分などはいかがですか?」

 不安にさせまいと貼り付けたような笑顔で問いかける。しかし、青葉の表情はマサムネの心中を写すかのように怯えていた。

「え…っと、ここ、どこなんでしょう?病院、じゃないですよね?私、何か悪い事でもしたんでしょうか…」

 この時点でおかしいことに気付くだろう。この場所を知らない。加えて言えば、ここに来る理由も見当がつかないといった様子だ。

「…いえ、ご心配はいりませんよ。そうですね、現在あなたには病気の疑いがある。なので本日ここで検査をしよう、と言う流れになったのです」

 含みを持たせていってみたものの、やはり疑いというだけでも不安にはなるものだ。

「では、一度CTを撮りますね。そちらの台に横になってください」

 スキャナを起動させ、青葉の体内。具体的に言えば頭部を調べる。実のところ、マサムネには一つ心当たりというか疑念というか…兎角そういったものが胸中に居座っていた。


 検査が終わり、ほかの被験者たちを返す。一応彼らには特に異常は見受けられなかった。なので、この場には異常の見られた青葉とその家族、そして由梨だけが取り残されていた。

 青葉を一人別室に移し、マサムネは神妙な面持ちでスキャン画像を提示する。

「まずはこちらをご覧ください。こちらが青葉さんの脳のスキャン画像、そしてこちらが異常のない人のスキャン画像です」

 不安で押しつぶされそうになる中、その場にいる全員が画像に注目する。

「ここ、“海馬”という記憶能力を司る部分なんですが、青葉さんはそれが委縮してしまっているんです。そしてその原因なのですが…一つ、心当たりがあります」

 マサムネの一言一言に全員が固唾をのむ中、マサムネの言葉に健二は驚愕した。


「原因はおそらく、我々の開発したナノマシンにあります」


-to be continue-

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