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来たる危機

 4人の男が飛びかかってくる間も、ルリは少し震えてその場から動かずにいた。


「ルリ! 来てるぞ!」


 俺の言葉にルリはハッとした顔をすると、俺と同時にその場から退いた。


 それに一瞬遅れて、男たちは先程まで俺たちがいた地を、自らの得物で容赦なく抉った。


「ルリ、何があったのかは知らないけどさ、居ない方が良い存在なんて向こうが勝手に思ってるだけであって、その考えを無理矢理押し付けられてるだけだぞ。耳を貸す必要はない」


「……うん、そうだよね。ごめん、わかってたことだったけど少し動揺しちゃった。もう大丈夫!」


 ルリの表情は元に戻り、繋がれた手からはルリの体の震えが止まっていることがわかった。


 これなら大丈夫だろう。


「はぁ……、この程度の事を一人で対処出来ずにそんなポッと出の農民らしき男なんかに助けられるなんて……、元々落ちぶれていたのにさらに落ちぶれたのね?ますます恥さらしだわ」


「そんなことないよ、誰だって一人だけじゃ何も出来ないんだから。それが例え勇者だったとしても」


「へぇ……、言うようになったのね……ところで……」


 女性はスッと俺達に指を差すと、


「手、いつまで握ってるつもりなのかしら?見せつけられるこちらの身にもなってほしいわ?」


「ッ!?」


 女性の言葉を聞いた直後、ルリはカァッと顔を真っ赤にすると、バッと手を離した。


「まったく、とことん平和ボケでもしていたようね……、ただでさえ勇者の家系の面汚しだって言うのに……、そろそろ終わりにしましょう。貴女の顔なんてもう見たくもないわ、やっちゃいなさい」


 女性の言葉に4人の男は頷き、先程のように同時に襲いかかってきた。


「そこの弱々しい男を守りながら4人を同時に相手出来るかしら? まあ、その男が居ようが居まいが……ここで貴女は終わりよ」


 俺、なんか凄い馬鹿にされてないか?


 ちょっと怒りが込み上げてきたそのとき、ルリが俺の肩をポンと叩いた。


「僕達の力を見せて、ぎゃふんと言わせてあげよっか。大丈夫、前に戦ったロキなんかよりは全然弱いからね」


「……そうだな」


 ルリが剣を抜き、俺が構えを取り、4人の男を向かい打つ体制を作ったそのときだった。


「お待ちください!」


 シルクハットを被り、黒い礼服のような物を着こんで、白い手袋を付けた40代くらいの男が、突如上から降りてきて、俺達の間に割り込んだ。


「!?」


 俺とルリはすぐに動きを止めたが、4人の男は、目の前の男性ごと俺達を切り捨てるつもりなのか、そのまま向かってきていた……が。


「お待ちくださいと言いましたでしょうが!!」


 瞬間、男の腕がブレた。そう思ったときにはすでに4人の男たちは地に伏していた。


「な!?」


 その光景に、男達を引き連れてきた女性は思わず声を上げた。 


「まったく、同族討ちとは悲しいものです。そもそも同じ種族なのにどうして仲良く出来ないのでしょうか? 私は不思議で不思議でたまりません」


 まるで周りの様子を気にすることなく語ったあと、男は女性の方を向いた。


「ご婦人、つかぬことをお聞きしますが勇者のご子孫様はこちらにいらっしゃるでしょうか?」


「え、ええ……貴方が今無力化した4人が勇者よ……、それが何か?」


「おやおや? おかしいですね、私はてっきりそちらのレディが勇者なのかと思っていたのですが……、彼女から放たれる勇者のオーラは彼等全員のモノを合わせても届くものではないように感じましたので」 


 ルリの方に視線を移してそう言うと、女性は急に声を荒げた。


「そんなことがあるわけないでしょう!? そんな一家の面汚しで! 弱々しくて! 醜い存在が私の息子達を越えるわけがないわ!!」


「あんた……、流石に言い過ぎじゃ……!」


 俺が一歩前に出て失礼に反論しようとすると、ルリが俺の手を掴んだ。


「アル! 僕は大丈夫だから……!」


「……そうか」


 俺が渋々反論をやめる姿勢を見せると、ルリは俺から手を離した。


「そうですかそうですか、それは誠に失礼致しました……ならばその言葉、信じさせていただくとして……」


 男は、袖からジャラジャラと音を鳴らしながら鎖のようなものを出した。


「そこの4人、降ろす依代として回収させて頂くとしましょうか」


「え?」


 女性が声を漏らしたのも束の間、男が鎖を投げた瞬間、4人はその鎖によって拘束された。


 気絶しているらしい彼等は、自分が拘束されていることにすら気がついていなかった。


「ふふ……、一気に四人も部下が降ろせます……、これには邪神様もお喜びになられることでしょう」


「貴方……私の息子に何を……!?」


「おや……? 息子、ということはまさか……」


 男は女性の質問には答えずに、じぃっと女性を見つめたかと思うと、


「……おお!! これは素晴らしい!! 現代の勇者に依代の素質があるかと思えばその母上様にまで素質があるとは! これは素晴らしい!!」


「何を……?」


 男は袖から新たに鎖を出すと、女性の方にそれを投げつけた。


「っ!? ぐうっ!!」


 目にも止まらぬ速さで投擲されたその鎖は、女性を容赦なく拘束した。


 だが、女性も拘束されたとは言えまだもがいて抵抗していた。


「ふむ……これでは鎖を引き寄せずらいですな……、仕方がありません″ナンシー・リスナー″、『今すぐに抵抗をやめるべき』です」


「何故私の名前を……、かはっ!?」


 ナンシーと呼ばれた彼女は、先程までの抵抗が嘘のように止まってしまった。


「まずい!! アル! 行こう!」


「ああ!!」


 俺とルリが男の方へ向かう、が。


「"アル・ウェイン″、それに″ルリ″、『貴方たちも同じように抵抗をやめるべき』です」


「ぐっ!?」


 突如、金縛りにあったかのように、俺の体は動かなくなってしまった。


「何っ!? これっ……」


 ルリも体の自由が効かなくなったようで、その場に立ち尽くしていた。


「残念ですが、すでに貴方達の名前は把握しております。私に名前を知られた時点で貴方達には成す術はありません。それでは」


 女性を引き寄せ終わった男は、踵を返し、5人を引きずりながら森の奥へと向かっていく。


「ぐぅっ……、ねぇ、貴方は何者なの……?」


 ルリがそう聞くと、男は驚いたような顔をして振り向いた。

 

「おや!? その状態で話すことが出来るのですか!! ならばその力に敬意を示して教えてあげましょう」


 男は手にしていた鎖を離すと、まるで執事のようにうやうやしく頭を下げ


「私、邪神様の配下として誠心誠意働かせていただいております″ネメシス・ダンタリオン″と申します。以後お見知りを……それでは、次回は貴方を回収しに来ますので首を長くしてお待ちしていてください」


 ネメシス・ダンタリオンと名乗った男は、再び鎖を手に持つと、5人を引きずりながら森の奥へと消えていった。

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