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汚れ者への制裁

 モモガロスが増えているという場所は、周辺住民に″モモガロスの森″と、呼ばれるくらい普段からモモガロスが見かけられるらしい。


 ちなみに、この森の正式名称はバロルガというそうだ。


「ところでモモガロスってのは毛むくじゃらな他にどんな特徴があるんだ?」


「んー、そうだねぇ……」


 ルリは顎に人差し指を当てて考える素振りを見せながらモモガロスについて語り始めた。


「おっきな目玉があって……」


 なるほど、大きな目玉だな。


「あと熊みたいな図体をしてて……」


 熊か……なるほど。


「それと繁殖期に入ると……人間の男を狙うこともあるよ」


「なんでだよ!?」


 普通は女の人を狙うんじゃないのか!?


「モモガロスは基本雌しか居ないからね。でも100頭に1匹くらい、性別を変えることが出来る個体が居るんだよ。繁殖期にそれが居なきゃ――」


 ルリは言葉の途中で突然黙ってしまった。かと思いきや、剣の柄に手を伸ばして、


「――こんな風に襲ってくるんだよ!!」


 ルリは後ろに振り向きながら抜刀し、そのまま斜め上の方向に斬撃を飛ばすと、『ギュルッ!?』という悲鳴と共に、毛むくじゃらな何かがドサッと木から落下してきた。


「アル、あれがモモガロスだよ」


「……」


 俺は一言も喋らずに下を向いていた。


 何故なら先程のルリの発言から、今、モモガロスは――いや、まだそうと決まったわけじゃない。落ち着け、質問して俺の中の誤解を解こう。


「なあルリ、モモガロスの雌は繁殖期に襲ってくる事が多いんだよな?」


「そうだよ?」


「一応聞いておきたいんだが……、モモガロスの繁殖期っていつなんだ?」


「えっと……、丁度今くらいの時期だよ!」


 嫌な予感的中。つまり俺は格好の獲物だ。


「よし帰ろう今すぐ帰ろうさあ帰ろう」


「ちょ!? どうしたの!? なんでそんなに顔が真っ青になってるの!?」


「もう魔物に犯されそうになるのは嫌なんだよ!!」


「どんだけ襲われてるの!?」


「3回」


「男でその回数は最早凄いと思うよ!?」


 そんな凄さは別にいらないから来るなら普通の魔物にしてくれ……。


 俺が項垂れていると、ルリが俺の手を掴んだ。


「ほら、まだ倒さなくちゃいけないんだから頑張ろ? 辛いのはわかるけどさ、何かあっても僕が守ってあげるから、……ね?」


 そう言ってルリはニコリと笑いかけてくれたが、俺はモモガロスへの恐怖が頭から離れなかった。


「お、……おう」


「じゃ、行こっか」


 ルリに掴まれた手を引っ張られるがままに、俺は前へと進んでいった。なお、出会ったモモガロスは全てルリが撃破していったのだが……。


「……?」


 森のある程度奥の方まで来たとき、ルリが立ち止まって首をかしげていたので、その視線の前を追うと、そこにはいくつものモモガロスの亡骸があった。


「……これ、明らかに人が殺したあとだね。それに、まだ新しい……。この依頼って他の人達と合同でやるものじゃなかったはずだし……」


「そうだな……、となると一体誰が――」


「ようやく見つけたわ」


 前方から聞こえた声に、俺達は視線を前に戻すと、そこには俺と同じくらいの年代と思われる4人の男と、先頭には年齢が30~40代ほどに見える女性がいた。


「っ……!」


 掴まれている手から、ルリが震えているのがわかった。


 こいつら、なんなんだ?


「おいルリ、この人達は――」


 誰なんだ、と聞こうとしたとき、女性はクスクスと笑った。


「教えてあげるわ。私たちは伝統ある勇者の子孫、そして――そこにいる罪の子に用があって来たの」


「罪の……子?」


「ええ、勇者の家系には強い者――つまり男しか生まれないように善神から祝福されているというのに……その子は不躾なことに女の身で生まれてきたのよ」


「強い者が男だけとは限らないだろ」


「いいえ、限るわ。現にその子はとても弱いじゃない」


「いや、何言ってんだ? ルリは――」


「いいよアル、その人達は相手しても無駄だもん。行こ」


 ルリは掴んだままの俺の手を引っ張って踵を返した。平然を保っているように見えるが、掴まれている手から、ルリが震えているのがよくわかる。


「あら? 先程貴女に用があるって言わなかったかしら? 正確には、貴女の両親について」


 その言葉に、ルリはピタリと歩を止めた。が、それを気にせずに女性は続けた。


「つい先日、あなたの両親が亡くなったわ。病でね」


「……そっか」


「ええ、つまり、もう貴女を必要だと思うのは親族の間には誰も居ないの。むしろ貴女が勇者の名を汚す、居ない方が良い存在だと思っているわ。だから――ここで死んでくれないかしら?」


 女性の言葉が終わると共に、4人の男が同時にこちらに飛びかかってきた。

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