快適な元の生活
一日で話の展開が固まりました(白目)
「何故貴女がのうのうと生きているの?」
人気のない森の奥、そこには一人の女性と小さな少女が居た。
少女……と言っても、年頃の子のような可愛らしい髪型はしておらず、髪が短かったので、むしろ男の子のようであったかもしれない。
その少女に向けて、30代ほどの女性が容赦のない言葉を浴びせていた。
「代々、この家系に生まれるのは男の子しか居なかった……。それは私たちの先祖様が善神様に強い子が生まれるように願ったから、だからこそ男の子しか生まれてこなかったの、それだと言うのに……」
女性は忌々しげに少女の全身を見つめながら、
「そんな弱々しい女の体に生まれて……、善神様の加護を外れた罪の子の貴女に生きている価値なんてないのよ?」
まだ相手は子供だというのに、女性はそんなことも気にせずに次々と心無い言葉を少女に投げかけ続け、
「まあ、貴女が生きてようが別に私の視界に入らないのであれば気にしないわ、ただ――」
もはや泣きそうになっている少女に向けて、女性は最後の言葉を言い放った。
「貴女に勇者の名字を名乗る資格なんてないわ、よく覚えておきなさい」
そう言うと、女性は踵を返して森の出口へと向かっていった。
その場に残された少女は、一人うずくまって泣いていたのだった。
―――――――――――――――――
「さてと、そろそろ行くか」
オシリスとの騒動が片付いて数週間が経ち、俺は王都へと戻ってきていた。
俺としては早めに戻りたかったのだが、しばらくの間、母さんに監禁……いや束縛……まあ想像に任せるが、とにかく俺が王都に戻ることを渋った母さんのせいで、俺はしばらくの間ルルグスにある実家で寝泊まりしていた。
そのため、こちらに帰ってきた瞬間はとてつもない自由感と爽快感を身体中で感じることが出来た。
空気って……こんなに美味しかったんだな。と訳の分からない事を考えてしまった。
当然長く王都を開けすぎた為、留守を伝えていたとはいえど、とても心配されていたようで、三人からちょっとした説教を食らってしまった。
まあこれは母による二次災害と言ったところだろうか。
例えあの人から逃れたとしても未だにしばらくは影響が出るのだ。
だが、段々と影響は薄れてきたようで、ようやく俺は普通の生活へと戻ってきた。
今日はルリと一緒に依頼を受ける約束をしているので、俺は早速待ち合わせ場所の冒険者ギルドに――
「兄貴! 郵便ッスよー!!」
俺が家を出ようとしたそのとき、郵便屋として働いているリークスが俺に手紙を届けに来た。
「久しぶりだな、最近見なかったけど元気だったか?」
「そりゃあもう! 元気どころか超元気ッス! それよりも、はい、これが手紙ッス!」
リークスは俺に手紙を渡すと、別れ惜しそうな表情をしながら
「本当は久しぶりにゆっくり話したいんスけど、まだ今日は仕事があるッスからまた今度ゆっくり話そうッス!!」
と言いながら走り去っていった。
「……さて」
俺の手元には手紙がある。言うまでもないと思うが、母さんからのものだ。
「まだ待ち合わせまで時間あるし……読んどくか」
俺が手紙を開封すると、そこにはただ一言
『アル成分が足りない、帰ってきて(切実)』
「知るか」
そんなことだけを伝える為だけに手紙を出すなよ。配達するリークスの身にもなってあげてくれ(切実)。
俺は手紙を家の中に置くと、家の鍵を閉め、冒険者ギルドへと向かった。
ギルドに着くと、すでにルリは到着していたようで、椅子に座ってヘレンと談笑していた。
「おはよう。悪い、遅くなった」
俺が声をかけると、ルリとヘレンさんがこちらを向いた。
「おはよう、別に気にしなくて大丈夫だよ。僕が早く来すぎただけだし」
「そっか、ならいいんだが……。あ、ヘレンさんもおはようございます」
「おはよう。私、蚊帳の外みたいになってたから忘れられてるのかと思ったのよ?」
「ごめんなさい」
俺がすぐに謝ると、ヘレンさんはクスクスと笑いながら依頼書を俺達の前に出した。
「気にしないで。じゃあ今日受けて貰いたいのはこの依頼なんだけど……」
「『モモガロスの討伐』……?モモガロスってなんだ?」
「少しおっきくて毛むくじゃらな魔物だよ、僕も何度か遭遇してるけど苦戦はしなかったよ」
モモガロスって毛むくじゃらなのか。
「最近、このモモガロスって魔物が異常に増えているみたいだから、少し数を減らして欲しいらしいの。頼める?」
「俺は大丈夫です。ルリは?」
「僕も問題無いよ」
「じゃあ決定、よろしくお願いね?」
俺とルリは手続きを済ませると、モモガロスが異常に増えたという場所へと向かった。