後日談、そして決意。
「おー、よく育ってきたなぁ。
そろそろ収穫時だな」
魔物の群れの侵攻から一週間が経過し、
王都には再び元の平和な生活が戻り、
俺は相変わらず畑仕事をしていた。
あのあと、俺が王族達から逃げ出したのと
ほぼ同時に西側の魔物の群れも逃げ出したらしい。
統率者が居なくなれば指揮が狂うのはわかるが
いきなり逃げ出すというはおかしいので、
俺はあの場に居たもう一人の魔族の仕業では
ないかと考えている。
結局あの魔族は何がしたかったんだろうか。
とはいえ、もう終わったことだし、今後俺が
関わることもないだろう。
そして、ファルはどうやら俺のことを本当に教えて
いないようで、俺のところに王宮から使者が
来るなんてこともなく、平和な農民生活を
送っている。
「さてと...じゃあそろそろ...
...何で居んの?」
畑仕事を終え、立ち上がって後ろを振り向くと、
そこにはニコニコしたファルが居た。
「えへへ、来ちゃった」
「『来ちゃった』じゃねぇよ!?
一応お前王女様だろ!? 王都からここは
結構離れてるけど来て大丈夫なのかよ!?」
「平気だよ。 ちゃんとお父さんに許可は
取ってあるから」
ああ、ならまあいいか...。
ん?
「待て、いまなんつった?」
「えへへ、来ちゃった」
それじゃねぇ。仕草まで再現すんな。
「もうちょい後のやつ」
「平気だよ。 お父さんにはちゃんと許可は
取ってあるから ってところ?」
「それそれ......
え? お父さんに許可取ったって...。
なんて説明したんだ?」
「アル君のところに行ってくるーって
言ったら普通に許可出たよ?」
「いやいやいやいやいや! なんでそれで
通じてんの!? お前まさか俺の正体を...!!」
「ううん、私は何もバラしてないよ?」
「え? じゃあ何で俺のことを...」
「あのローブだよ」
ローブ? ああ、村長から借りたやつか。
「それがどうかしたのか?」
「ここの村長さんってね、元宮廷魔術士
だったんだって!」
「嘘だろ!? あの温厚な爺さんが!?」
ファルのその言葉に思わず俺も驚いた。
村長はとてもではないが戦闘できるようには
見えなかったからだ。
だが言われてみれば地味に筋肉がついていた
ような気がしなくもない。
「うん、それでね、アル君が着てたローブ。
あれね、村長さんが現役時代に着てたもの
なんだって。 だから、私のお父さんはすぐに
村長さんに連絡して、君の正体を聞いたんだって」
「............村長絶対わかっててやりやがったな...」
俺が大きく溜め息を吐くと、ファルは俺の方に
手を置いて
「まあ、そのおかげでアル君が住んでる場所が
わかって私が会いに来れたし...。よかったね!」
「そうですか、お帰りはあちらの道になります」
「まだ帰らないよ!?」
ちぇっ。 そのまま乗ってくれれば
楽だったんだが。
「んで? 何で俺のところに?
まさかまた誘いに来たわけないよな?」
「え? そのとおりだけど?」
きょとんとした顔でそんなことを言うファル。
俺は一度目を閉じ、そのあと満面の笑みを浮かべ
「お断りします」
「ですよねー、でも少しくらい考えて
くれても...! それに、王宮につとめるんじゃなくても
せめて王都に滞在するくらいなら...」
「それだと農民生活が出来ない。
却下」
「ううー、アル君、難攻不落すぎない?」
「ふはははは、俺を説得したくば
広大な畑と透明度の高い海を用意するんだな」
「凄まじい農民根性だ!!」
俺とファルが言い争っていると、
村長がこちらに歩いてきた。
「おお、やっぱりここに居たんじゃな」
「村長...あんたのせいで俺正体バレてんだけど。
それに、俺は何があっても王宮につとめる気
なんてないぞ?」
「アル」
急に村長が真剣な雰囲気になった。
「な、なんだ?」
「王都に行ってきなさい」
「はぁ!? え? ちょ! 何でだよ!?
俺に農民生活は諦めろと!?」
「そういうことを言っているわけではないのじゃが...。
お前はしばらく農民生活とは離れた生活をしてみたほうが
いいと思うのじゃ」
「何でだよ?」
「お前は知らないことが多すぎる。
また、経験も足りない。 それなのに将来を決めるには
早いのではないかと思うのじゃ。
だから、一度王都に行って、いろんなことを
経験してくるのじゃ。 そして、数年ほど
やってみて、それでも農民生活以外にしたいことが
無ければまた戻ってきて畑仕事でも漁でも
なんでもしたらええわい。
案外、農民生活よりも楽しいものが見つかるやもしれんぞ?」
「...」
そんな風には考えたことがなかった。
村長の言葉には俺を王宮につかえさせたい
という意志が多少は感じるものの、
大部分が俺を思って言ってくれていること
だというのが理解できた。
確かに、俺はずっと農民として暮らしてきた。
小さい頃は冒険家なんかに憧れた時期もあったっけ。
だったら、色々経験してみるのもいいんじゃないか?
まんまと狙いに乗せられているようで
多少は癪だけど...
「そういうことなら、行く」
「本当!?」
ファルが俺の右手を両手で取って喜んだ。
「あ、でも王宮はないわ。 それだけは
絶対」
「それはいいの、別に」
え? いいの?
「アル君が王都に来てくれるってだけで
とっても嬉しいんだ。 だから、″今はまだ″
これでいいの」
勧誘する気は満々なのな...。
「アルならそう言うじゃろうて、
既に王都に家を手配してあるのじゃ。
場所は後で紙に書いて渡すから
ちゃんとそこで暮らすのじゃぞ?」
「わかったよ村長」
とりあえず、まずは冒険家でもやってみよう。
他にも色々、そう、色々だ。
俺は無意識に口元に笑みを浮かべていた。
それに気がついたファルは、何も言わずに
ただ嬉しそうに笑っていたのだった。
第1章 完。
みたいな感じですねw
あんまし農民っぽい描写もありませんでしたし、
漁に至っては農民か!?って思う部分が
あったかと思いますが、それでも、見てくださった
皆様、ありがとうございました。
次回からは第2章です。
お楽しみに