同行
しばらくしてようやく解放された俺は、
改めて黒ローブ達を見渡した。
先程までは怪しく感じられていたのに、
目の前で満足げに俺についての感想を
和気藹々と話しているところをみると、
ただの子供のようにしか見えない。
というかアンタら俺より年上だろうが。
なんで俺より子供っぽいんだよ。
さて、そんなことよりも...
「それで、母さんの事、だったか?」
俺がその言葉を発した瞬間、先程までは
話していた黒ローブ達は一斉に静かになった。
え、なにこれ怖い。
「そうだ。 もしかして、少しは信じてくれたのかい?
それならルシカ様のことを教えてくれると
助かるんだけど」
どうせ包み隠してもバレるのだろう。
それにこれだけ母さんが好きってんなら、その息子の俺に対して酷いことはしないだろうと思い、包み隠さずにすべてを白状した。
「――なるほど、ルシカ様が実は死んでいた妹さんに成り変わられていた、それをしたのが...オシリス...死体遊戯、そして、それには邪神が関与している...ね。
聞いたこともないような単語ばっかりで混乱しそうだ...」
手で頭を抑えながらそう言った黒ローブは、
これは参ったなぁと言いながら頭を掻いていた。
それはそうだ。
母に繋がる頼みの綱である俺に辿り着いたというのに、いざ話を聞いてみればこんな突拍子もない話を聞かされたのだ。
こんなの、信じられるわけ――
「ほんと困っちゃうなぁ...知らないことは
徹底的に調べないと皆が煩いんだよなぁ...」
...え?
周囲を見渡すと、今話したことについて、黒ローブ達はすでに議論を始めていた。
「邪神だって、どう? 何か知ってる?」
「悪い神様だろ?」
「いや、そうじゃなくて 」
「神様が相手かぁ...ルシカ様なら倒せるかな?」
「あの人に勝てるやつはいないだろ」
「こんな話...信じて...くれるのか?」
「何を言ってるんだ、″あの″ルシカ様の
息子が真剣に語ってくれた″御話″だぞ? 信じないわけがないじゃないか」
...母さん、ほんとに慕われてたんだな...。
「さて、じゃあレヴェナーラに行くとしよう」
「えっ!? いや、でもあんたらは母さんを探してたんじゃ...!?」
「だからこそ、だよ。 多分、我々の勘が
正しければルシカ様もそこにいる」
「母さんも...?」
いや、でも母さんはもうすでに亡くなってるんじゃないのか?
だって、イルビアが母さんに成り代わるときに――
俺の心情を察してか、黒ローブは俺の肩に手を置いた。
「ひとつ聞くが、君の妹さんは『お母さんを殺した』と一言でも言っていたのかい?」
「それは...多分、言ってなかった...と思う」
俺がそう答えると、彼は『やはりそうか...』と言って一人頷いた。
「なら、そこに居る可能性が高い。
というか居る。 居ないわけがない。
ほら、そうと分かれば早く行こうじゃないか!!」
両肩を掴んでぐわんぐわんと揺さぶりながら
そう言われると混乱しそうになる。
「お...おう」
なんだこの自信と強情さ...。
やっぱりちょっと母さんに似たところあるぞ...。 まあ、孤児だったみたいだし、親がわりが俺の母さんだったんだ。 似るのも仕方ないか。
「ところでレヴェナーラのヒューズ墓地ってどんなところなんだ?
まったく聞いたことがないんだが...」
「あそこは偉人であるオスカー・アレクシア
ただ一人が埋葬されている神聖な墓地なんだ」
「オスカー・アレクシア?」
「才能に溢れ、数々の功績を残したらしい。
一時は神の子なんて言われてたみたいだ。
もっとも、若いながらも命を落としてしまったんだけどね...。 恐らく嫉妬した誰かに殺されてしまったんだろうね。 残念な事だ...」
「なんでそんな人が埋葬されている場所に
アイツは俺たちを招く必要があるんだ?」
「簡単な話だよ、邪魔が入らないからだね」
「邪魔が...入らない?」
「先程も言ったように、ヒューズ墓地は神聖な墓地。 故に普通は誰も立ち入ることはない。 それに魔物だって現れないんだ。 秘密裏に事を進めるには絶好の場所だとは思わないかい?」
「なるほど...」
俺が納得すると、彼は俺の背中をポンと叩いた。
「じゃあ早速行こうじゃないか。
道案内は我々に任せてくれ」
「ああ、頼む」
影の傀儡と共に、俺はレヴェナーラへと足を進め始めた。