暗躍の部隊
一先ず俺は王都に戻ることにした。
レヴェナーラなんて場所は聞いたことがないので、まずは調べなくてはならない。
これは図書館で調べれば事足りるだろう。
それにしても、死体遊戯...か。
イルビアがああなったのも、アイツが原因なんだよな...。
あいつを倒せばイルビアは元に戻るのだろうか。
「可能性はあるよな...」
もしかしたらオシリスを倒した瞬間に
イルビアはまた死んでしまうかもしれない。
だが、邪神の手先になって世界の敵になってしまった妹を見ているよりは充分マシだ。
「父さんもイルビアも...助けなきゃな...」
そのためにもオシリスは絶対に倒さなければならない。
だが、ひとつ問題がある。
恐らく父さんは人質になっている。
この問題を解決出来なければ、俺はまず
オシリスと戦うことすら出来ない。
どうすれば...。
「あの、そこの人」
「ん? ...うわっ!?」
いきなり誰かに話しかけられたので前を見ると、
俺は周囲を黒いローブに身を包んだ者達に
囲まれていることに気がついた。
考え事に没頭しすぎてまったく気づかなかった...。
というか、こいつらは一体...。
「安心して欲しい、我々は敵ではない」
青年のような声でそう俺に語りかけてくるが、はっきり言って全員黒いローブを着て身元を隠そうとしてる時点でかなり怪しい。
警戒心を抱きながらも、俺は質問した。
「敵ではないのなら...この状況はどういうことなのでしょうか?」
「申し訳ない、だが、周囲を取り囲んで
隠蔽の魔法を使えば確実に外からはわからないんだ」
「隠蔽?」
何? 俺は秘密裏に殺されるのか?
いや、でも敵じゃないって言ってたし...。
「君のお母さん...ルシカ様ならこの程度の
隠蔽結界を一人で作れたのだがな...」
「母さんのこと知ってるのか!?」
驚きのあまり、つい少し荒々しく
聞いてしまったが、相手は特にそれを
気にした様子もなく受け答えしてくれた。
「ああ、知っているよ。 実はルシカ様と
連絡が取れなくなって困ってるんだ。
君は何か知っているか?
――いや、知っているのだろう?」
「...あんたら、一体...」
「そうか、まだこちらからは何一つ
素性を晒していなかったね。
確かにそんな相手に情報を渡すわけにはいかまい。 随分とルシカ様から教育されているようだ。
...羨ましい」
おい、今ボソッと何か聞こえたぞ。
「ゴホン! 話が逸れたな。
そうだな、影の傀儡と言えば我々のことは
わかるだろう?」
影の傀儡...? ん? それって――
『これでも母さん元"影の傀儡"の隊長でもあったからね』
『知らないの!? 影の傀儡と言えば
この王都で国の為に暗躍してた諜報団だよ!? 呪術とか陰術とかを駆使してどんな情報も涼しい顔をして持ってくるっていう噂があって、他国にすら名が響くほど恐れられていたんだよ!?
でも、17年前に突然隊長が失踪して部下たちもそれに続くように消えていったからその諜報団はなくなったらしいけど...』
「...マジか...」
「どうやらわかっていただけたようだな。
影の傀儡という部隊はすでに無くなっているが、我々は今でもルシカ様の忠実な部下だ。
信頼してくれとは言わないが信用はしてほしい」
いや、本音を言えば母さん関連のことは
いつもロクなことがないからあんまり関わりたくないんだよなぁ...。
「もう駄目、我慢出来ない」
「え?」
俺が聞こえてきた声に振り向く前に、すでに
俺は後ろから抱擁されていた。
抱きついてきたのは体つきからして女性だろう。
「うわぁぁぁぁぁぁ! ルシカ様みたいな
匂いがするぅぅぅ! ああああああ!!
それに顔もそことなくルシカ様に似てるし
可愛いぃぃぃ!!」
なんだこの人怖いんだけど。
どこか母さんに似たようなものを感じたぞ。
「おい待て! 俺も我慢してたのにズルいぞ!」
「私だって!」
「抜け駆けは卑怯だぞこの野郎!!」
おい待てわらわらと集まってこないでくれ。
俺を囲って隠蔽の魔法使ってるんじゃなかったのか。
そんな俺の心の声を汲み取ったのか、
俺と話していたローブの男は
「大丈夫だ、そいつらは今現在もかかさず隠蔽の魔法を使っている、心配することはないさ」
と言ってくれた。
いや、でもこの揉みくちゃにされてる
この現状には辛いものがあるんだが...。
「ははっ、すまないな。 我々はルシカ様を最早信仰していると言っていいくらいに慕っていてな。 そのお方の子供を目の前にしてはしゃがずに居られるほどまだ大人ではない」
お前エスパーか。
なんで考えてることがわかるんだよ。
ってか、17年前に解散したって話なら
あんたらも充分いい大人だろ。
「まあそう思うのも無理はない」
だからなんでわかるんだお前。
「だが、影の傀儡はルシカ様が拾われた孤児を鍛え上げて完成した部隊だ。 故にまだ20代のやつが多い」
...孤児で諜報団作るとか母さんは何を考えてるんだ...。
「...最近はルシカ様に会えなくて皆は
ルシカ様成分を補給できなかったからな。
悪いが付き合ってやってくれ」
ルシカ様成分ってなんだよ。
あれか、前に母さんが言ってたアル成分ってやつか。
「勘弁してくれ...」
そのまま俺は数十分の間、元″影の傀儡″の
団員たちに揉みくちゃにされ続けた。




