克服
父さんの住むルルグスへと向かう途中、
俺はとある森に辿り着いた。
俺はこの森につく前にある決心をしていた。
その決心とは、アイツとの決着をつけるというものだ。
今度こそ俺はアイツを倒して克服しなければならない。
すでに準備は出来ている。 さあ、来い。
俺が気を引き締めていると、パキパキと枝を
踏みながら進んでくる足音が聞こえた。
俺は音のした方を振り向いて、足音をたてた
主を確認する。
「やっぱり来やがったな...オーク!!」
オーク。
豚の頭をした人型のその魔物に、俺は
雄と雌にそれぞれ一回ずつ、計二回襲われている。
二回とも、オークは近づいてきた瞬間に
犯そうとしてきたが、一回目はおっさん、
二回目はルリに助けられているのだ。
つまり、自分だけで対処出来たことは
一度も無く、このままではオークに
対して恐怖だけが残ってしまうことに
なりかねない。
だからこそ、ここで決着をつけようと
思ったのだ。
また襲われるのではないかと、足がガクガクと
震えている。
だが、今の俺にはあの黄金のツタがある。
近付いて拳で殴る必要が無くなったのだ。
遠くから片付けられるというのならば、
恐れることはない。
「いくぞオーク!!」
俺はあのときのことを思い出し黄金のツタを――
「...あり?」
出ない。 どういうことだ?
俺はとっさにステータスカードを確認したが、
そこには黄金のツタに関係していそうな項目は無かった。
ふむふむ、なるほどなるほど...。
俺はまた格好の獲物になったというわけか。
「ん?」
ふと顔をあげると、そこには発情した
雌のオークの顔が――
「ネェ? ヤラナ「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
驚きと恐怖のあまり、俺は目の前のオークの
顔めがけて拳をぶちこんだ。
すると、パァンッ! という音と共に、オークの
顔だけが消滅した。
おそらく顔だけがもげてどこかに
飛んでいったのだろう。
「...」
目の前に首なしオークの剥製が完成した。
「...」
俺は無言で振り返ると、そのままルルグスに
向かって歩き出した
世の中、気にしたら負けなのだ。
ちなみにこの後の道中で、あと数回ほど
オークとの出会いがあったのだが、このときの
俺には知るよしもないことだった。
「うげぇ...もうやだ帰りたい...」
結局、俺はルルグスに付くまで合計4~5回ほど
オークと出くわしたが、まともに倒すことが
出来ず、克服することは出来なかった。
というかあまりにもオークに出会いすぎて
嫌になった俺は全力ダッシュをしたので、
かなり時間を短縮してここまで来てしまった。
まあ、母さんとイルビアのことは父さんに
早めに伝えないといけないだろうし、
別にいいんだけどさ...。
さて、そんなことより早く父さんのところに
行かないとな。
母さんはすでにイルビアが成り代わるのを
やめてるだろうから居なくなってるはずだ。
特に警戒する必要もないだろう。
俺は家の前に着くと、玄関をノックした。
「父さん、来たぞー!」
呼び掛けてみるが、返事は無い。
ドアノブに手をかけたが、扉は開かない。
どうやら鍵が閉まっているようだ。
「もしかして仕事か...?」
まだ夕方だ。 その可能性は高い。
仕方がない、少し待つか。
俺が扉の近くでしばらく待っていると、
通りかかった20代くらいの青年が、
俺に話しかけてきた。
「なあ兄ちゃん、そこんちの人に
用なのか?」
「え? そうですが...」
「そこんちの人、引きこもってるのか留守
なのかわからんけど全然姿を見ないんよ。
待ってても来ないと思うんやけど」
...どういうことだ?
夜逃げでもしたのか? いや、それは
無い、父さんは借金なんかする人じゃないから
夜逃げする理由はない。
じゃあ自殺か? いや、それもないだろう。
だとしたら俺を呼ぶなんてことはないはずだ。
となると一体父さんは何を――
「ごっ!?」
突如、背中に凄まじい衝撃が与えられ、
俺はそのまま玄関を突き破りながら
吹き飛ばされた。
「かはっ...!」
何が起こった...? 俺が背中の痛みに
耐えながら衝撃が襲ってきた方を向くと、
先ほどの青年がじっくりと舐め回すように
俺のことを見ていた。
「へぇ、やっぱ、アル・ウェインってのは
あんたで間違い無さそうやね。
普通はワイの蹴りを無防備にもろうたら
そんなもんじゃ済まないはずやぞ?」
余裕そうにおちゃらけて話す青年からは、
どこか嫌悪感が感じられた。
「...あんた、一体...」
「ん? ああ、こっちだけが相手の正体を
知ってるのもフェアじゃないしな。
ワイは死体遊戯のオシリス=アドーニスや。
一応邪神の部下やっとる。 ま、よろしゅう頼むわ」
そう言って、彼はペロリと舌舐めずりをしたのだった。




