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提案

「美味しい...!」


「あら、それは良かったわ」


母さんが屋台で適当に見繕ってきたものを

イルビアは美味しそうに食べており、

母さんと父さんはニコニコしながらそれを

見ていた。


「...」


だが、イルビアを見て俺は思った。


今はこんなにも幸せそうに食べているが、

このあと俺達が去ったあと、彼女は

果たして生きて行けるのだろうか。


あそこまでフラフラになったまでさまよって

いたということは、彼女の親はもう

死んでしまっているのだろうか。


いや、生きているのなら尚更、彼女は

不幸な人生に戻るだけだろう。


俺は、今彼女が浮かべている笑顔を守りたかった。


だから


「...母さん、ちょっとこっちに来てくれないかな?」


「あら? 何かしら?」


俺はイルビアから少し離れたところに

母さんを連れて行った。


そして、要件を伝え始めた。


「イルビアのことなんだけど...、もし

イルビアが望めばの話だけど...うちで

引き取れないかな?」


ぶっちゃけると、家のことの決定権は

ほぼ母さんにあって、父さんには

ほとんど無い。


つまり、何とか母さんさえ説得できれば――


「ええ、良いわよ」


「うん、そう簡単に言っていい事じゃない

とは思っ――え?」


母さんは俺を見てキョトンとすると


「どうしたの?」


「え? いや、てっきり最初は断られる

かと思って...」


「はぁ....」


母さんはやれやれと言った感じで溜め息を吐くと


「私、これでも結構感動しているのよ?

貴方が優しい子に育ったってことがわかった

から。 それが実感出来たお願い事を

断るわけないじゃない」


「母さん...!!」


「というか、そもそも私がアルのお願いを

聞かないとでも?」


「母さん...」


あ、ハイ。 そうでしたね。

そういえば貴女は親バカでしたね。


「じゃあ後で聞いてみましょうか」


「うん」


話が纏まったのでイルビアと父さんの

ところに戻ると、イルビアはまだ食べ続けていた。


「イルビア、ちょっといい?」


「んぐ?」


口に食べ物を含みながら返事をしたイルビアに

俺は告げる。


「もしよかったらなんだけどさ...、うちに

来ない?」


俺がそう言うとイルビアの食べる手が止まった。


「...え? いや、でも...」


イルビアは困惑して俺の顔と俺の両親の顔を

交互に見た。


「大丈夫だよ、母さんから許可を貰ったから」


「...いいの?」


おずおずと俺を見るイルビアの頭に

手を乗せると


「当たり前だよ。 イルビアが望むなら

だけど――」


俺が最後まで言い終える前に、イルビアが

ガバッと抱きついてきた。


「え...?」


「ううっ...私...お母さんも、お父さんも、

村の人達も、皆...食べ物に困って死んじゃって...!

私もそうなるんだって...思ってて...!」


泣きながら嗚咽混じりにそう語るイルビアの

声から、どれほど辛かったかが伝わってくる。


「だから...、だから...!」


「イルビア、もういいんだよ」


俺もイルビアを抱き締めると


「なろうよ、家族に」


「うん...! うん!!」


イルビアの抱き締める力が強くなった。


「...」


母さんはそれを無言で見つめていた。


何故、俺が冷たい視線を向けられているのか、

当時の俺にはわからなかった。


ただ...


「...私も抱き締められたいのに...」


寒気が走ったのだけは覚えている。


何はともあれ、俺とイルビアはこの日から

家族になったのだった。

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