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真なる姿は絶望を呼ぶ

一歩、また一歩と、母さんはゆっくりと

俺の元へ向かってくる。


だが、俺はそこから一歩も動けなかった。


目の前の光景が信じられない。 


いや、信じたくなかった。


きっと、また何かの冗談で――


「もしかして、まだ冗談じゃないかなんて

思ってるの?」


「――ッ!」


言い当てられ思わず動揺する俺を見て、

母さんはニヤニヤと笑う。


今までに見たこともないような恐ろしい笑みで


「あら? 図星なの?

やっぱりわかりやすいわね...」


母さんは俺の目の前で止まると、

その手を俺の頬に伸ばしながら言う


「本当に...馬鹿な子――」


俺が固まって動けずにいると、

グイッと後ろに引かれ、俺は母さんの手から

逃れた。


「お兄ちゃん! よく考えて!

さっきの発言を聞く限り、この人は

お兄ちゃんのお母さんに成り代わってるだけ

だよ!! 本物のお母さんじゃない!!」


「...え?」


母さんはじぃっと彼女を見つめると


「あら、わかるのね。 幼いのに賢い子だこと...」


そう言いながらもその恐ろしい笑みは消さない。


でも、少しだけ気持ちが楽になった。


本物で無いということは戦うときも

遠慮せずにやれるということだ。


そんな俺を見て、偽物はクスクスと笑い


「本物じゃないと知って安心している

ようだけど、私は成り代わっていた(・・・・・・・・・・)のよ?



つまり、貴方が母親だと接していたのは偽物

である私。


じゃあ、本物はどこに行ったのかしらね?」


笑みを浮かべながらそう言う偽物の顔は、

まるで俺に絶望を与えるかのように

歪んでいた


「...殺した...ってのか...?」


俺の答えに偽物は


「さぁ? どうかしらね?


でも、一つだけ言うとしたら、貴方の母親は

最後まで愚かな姿で抵抗して――」


「っざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


その先なんて、聞く必要が無かった。


ただ湧き上がる怒りのまま偽物に

殴りかか――


「...あ...れ...?」


急に重心を置いていた足から力が抜けた。

足だけではない、身体中から力が抜けていくのを

感じた。


「な、ん...で...?」


そのまま俺は倒れこんでしまった。


「お兄ちゃん!?」


心配したユリアがしゃがみこんで俺の

背中に手を置いた。


はぁ...と、偽物は溜め息を吐き


「【自然を愛する者】...そんなスキル、

本当にあると思ったの?」


俺を見下ろしながらも、そう告げる。


「何を...?」


「私はね、変装、幻覚の類いが大の得意なの。

この意味がわかるかしら?」


まるでなぞなぞを出すかのように

軽々しくそんなことを口にするが、

俺にとってそれは最悪な予想が出来てしまう

一言だった。


「......初めから...そんなスキルなんて存在

しない...と?」


偽物はその言葉にパチパチと拍手をして


「そう、正解。 そんなもの、初めから

存在しなかったのよ。 最初っから、

私が貴方に幻覚をかけていただけなの」


最初から...?


土弄りのレベルをMAXにしたあのときから...

コイツは俺に幻覚を付けてたってことか...?


「それなら今までの力はなんだったんだよ...?

幻覚だけだったらあんな力が手に入るわけ

ないだろ? まさか、俺が今まで見てきた

のが全部幻覚なんてことはないだろ?」


「流石にそこまでの力は私には無いわよ?

その力は、本来貴方が手に入れるはずだった

スキルを押し退けさせて邪神様が貴方に

付与したものなんだから」


...は?


「私はそれを幻覚で他の力に見えるように隠蔽

しただけ」


何を言ってるんだ?


「邪神が...俺に...力を...?」


「ええ、今はちょっと抵抗されないためにも

取り除いていただいているけど...ね」


「どうして...邪神が...俺に?」


「神の力はね、馴染みやすい人と

馴染みにくい人がいるの。

大多数の人間は馴染みにくい側だけど、

数百年に一人、馴染みやすい側の人間が

産まれることがあるの...その中でも、貴方は

いままでに無いくらいに才能があるわ」


「俺が...?」


つまり、邪神は俺を配下にしたいって

ことなのか...?


「私たちはその力を受け入れることで

ようやく強くなれるのに、貴方は受け入れて

すらいないのにその強さ...。


一度力を受け入れれば最高の逸材になるでしょうね。

邪龍とロキには悪いけど...その糧になってもらったわ。

おかげでレベルがとても上がったでしょう?」


「...お前...そんなことのために仲間を...?」


偽物はニッコリと笑うと


「全て貴方のためのお膳立てよ?」


悪気の無い笑顔で、むしろ良いことをしたと

言わんばかりの口調で話す偽物が、俺には

信じられなかった。


「...正気じゃねぇよ、お前ら...」


「大丈夫よ、いずれこれが普通になるわ。

私も10年前までは普通の人間だったもの」


ここまで言って偽物はまた溜め息を吐き


「というか、そろそろ・・・・気づいてほしい(・・・・・・・)んだけど?」


「...まだ、何かあんのか...?」


偽物は胸に手を当てると


「あくまでこれは仮の姿よ?

私はまだ本当の姿を貴方に見せていないわ」


「...俺と一度会ってるってのか?」


「一度どころではないわ。 10年前、人間を

やめるまではずっと貴方と一緒に居たじゃない」


10年前...って...


「そもそも、疑問に思わなかったの?

数百年に一人、馴染みにくいやすい人が

産まれることがあるって、相当低い確率よ?

それなのに、同じ時代に二人も産まれる

なんて、何かしら私たちに関連性があるとは

思わなかったの?」


その言葉によって気がついてしまった。

目の前の彼女が誰なのかということに


「...お前...嘘だろ...? まさか...!」


ようやく気付いてくれたか、と言わんばかりの

笑顔になり、偽物は姿を変えた。


結論から言うと、俺の推測は当たっていた。

それも、最悪な形で。


目の前に立つのは、俺と同じ(・・・・)茶髪で、

髪をツインテールに纏めた女の子だった。


息が詰まり、呼吸が苦しくなった。

俺はこの現実を受け入れられなかった。


彼女は、まるでドッキリが成功したかの

ように喜びに満ちた顔を俺に向けながら


「改めて、久しぶりーー



ーーお兄ちゃん(・・・・・)


「なんでだよ...?  イルビア...!!」


イルビア・ウェイン。


10年前、村の誰もが死んだと思っていた俺の

妹の姿がそこにはあった。

シリアス「まだまだ居座るで」


そして私はメインを張るような登場人物を

殺すのは基本避けるスタイルです(唐突)。

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