本当の狙い
「確かに地獄の侵攻劇と状況は
酷似してる、けどな、アル。
お前も知ってるだろうが地獄の侵攻劇の
首謀者は魔王マクベスだったはずだ。
だがその魔王は地獄の侵攻劇の後に
王都が儀式で召喚した勇者様が倒して、俺達
人間や獣人達が魔族と和平を結んで魔族との
いざこざは終結したはず。つまりこれは魔物の
本能によるものだって思うんだ。
って! そんなことよりも早く逃げねぇと!
王都から魔法具で連絡を聞いた村長によると、
王族もさっき東の方面に無事逃げたらしい!
俺達も早く!」
「......ああ」
俺の中で何かがつっかえていた。
魔物が群れを作るということ。
これ自体は珍しいことではあるものの、
絶対に無いわけではない。
だが、それはオークキング率いるオークの
群れだったり、ギガントボア率いる
ワイルドボアの群れだったりするように、
同じ種族の魔物だけの群れに限る。
稀に他種族同士の群れが協力するなんてことも
あるらしいが、最大4種族以上混合の魔物の
群れは今まで観測されたことが無いらしい。
だが、恐らくテスタの魔物の群れという
言葉から、群れに含まれる魔物の種族は
4種族を優に越えているだろう。
「だとしたら...」
群れが出来るケースは大きく分けて2つ。
1.魔物同士が集い、群れを作る。
2.人為的に魔物を集める。
「1の可能性は低いが...かと言って2を
行えるのは余程、力のある魔族くらいだが、
その線は有り得ないんだったよな...。
となると今回の群れが異常で、世界初の
魔物の4種族以上の群れだって考えるが
一番しっくりくる」
だが、だとしたらおかしい。
「何故シルス村を狙わない?」
群れを組んだ魔物達は基本大きな都市を目指して
侵攻することが多いが、例外を除き、侵攻経路の
村や町は壊滅させられるのがほとんどだ。
そして、その例外というのが、
人為的に群れが作られた場合だ。
人為的に群れが作られた場合、ほとんどが
『○○都市を滅ぼせ』というような、
特定の都市だけを壊滅させられるように
魔物に命令されるらしい。
何でも魔物の知能が低すぎてそれ以上は
命令できないからだとかなんとか。
つまり、その場合は他の村や町を滅ぼせとは
言われていないので、危害を加えない限りは
周辺の村や町を素通りする。
「だが、誰が、何故王都を狙うのかが...」
だがそもそも群れを人為的に作れたのは
今までの歴史で魔族だけ。
となるとまた魔族が群れを作る理由が無いという
矛盾に陥るわけで...
「待てよ...?」
そもそもその前提が間違っていたのでは?
和平を結んだから魔族が襲ってくるわけがない。
その考えがおかしかったと考えてみたら?
和平を結んだのは事実だろう。
だが、魔族の全員がその結果に納得していたの
だろうか?
魔王の仇を取りたい、そしてそれを実行に
うつしたいと思う奴は居なかったのか?
仮にそうだとしたら狙いは?
勇者、いや、すでに亡くなっている。
その子孫だって消息が不明と言われている。
だとしたらあとは王族くらいしかいない。
王族は勇者を召喚した張本人の子孫。
仇取りとしても十分な理由にはなる。
だが王族は騎士に護衛されながら群れの
来る反対側...つまり東の方面に逃がされたと
テスタは言った。
そもそも現在の王はかなり強いと聞くが、
群れも無しに強くてさらに護衛付きの王を
魔族が倒すのは困難を極めるだろう。
となるとこれも...
と、そこまで考えて、俺の脳内にひとつの最悪な
可能性が浮かび上がった。
「...おいおい...嘘だろ...?
これがマジだったら洒落になんねぇぞ...?」
「さっきから何ブツブツ言ってんだアル!
早く支度を...」
「テスタ、王族が危ないかもしれないんだが...」
「はぁ!? 王族は東方面に逃げたって
言ったろ!?」
「違うよ、王都の東方面には何があると思う?」
「何ってそりゃあ...確かヘレスト草原と
グリムの森だろ?特にグリムの森は危険な魔物が
多いっていうけど、王は強いんだろ?
グリムの森くらいなら大丈夫なはずだ」
「だからこそだよ、グリムの森は
危険な魔物がたくさん生息している。
そして――」
俺が考えた最悪な可能性、それは...
「ーーそのグリムの森の魔物を使って
″東側″に群れが″作られていたら″どうなる?」
俺の言葉に、テスタが息を飲んだ。
「...まさか、おい、待てよ...考えすぎだろ...。
だって、魔族は、もう...」
「和平に不満があるやつが魔族に居なかった
わけじゃない。
それに、あくまでこれは可能性だ。
別にそんな警戒することでも――」
「いや! 少しでもその可能性があるなら
村長に言って王都に連絡してもらおうぜ!
まともに聞いてもらえるかわからないけど
言わないよりマシだ!」
「そうだな」
俺達はすぐさま村長の家に向かい、
テスタが村長の家の扉を開けた。
「村長! 連絡用の魔法具貸してくれ!」
「テスタ! アル! まだおったのか!
はよう逃げろ!」
「そんな場合じゃねぇんだ! まともに聞いてもらえるか
わからないけどとにかく...」
テスタが村長を説得していると、
部屋に置いてあった連絡用の魔法具が
淡い光を発した。
『伝令! 伝令! 王都東側に
魔族率いる大規模な魔物の群れ出現!
ヘレスト草原及びグリムの森周辺の
村や町は力を貸してもらいたい!
繰り返す! 王都東側に...』
「遅かったか...」
俺は頭に手を当てて悩ましげに呟いた。