偽りの仮面
鯖落ちェ...。
「何...これ?」
ユリアの呟きが部屋に響く。
部屋の状態は酷いものだった。
窓は割れており、部屋の飾り物や装飾品は
散乱していて、床や壁には飛び散った血が
こびりついていた。
そして、部屋には魔王の側近と思われる人物が
十数名居るが、全員床に倒れて死んでいた。
争いがここで起こったのだろうか、致命傷は
お互いの武器によるものであるようだ。
奥の玉座には魔王が座っていた。
が、その魔王の心臓部分には、何か長いものが
突き刺さっていた。
それは槍であった。
魔王は玉座ごと槍に貫かれていたいたのだ。
幻覚の類い...だとは思いたいが、
恐らくそんなものではない。
「お父さん? ねぇ、返事してよ...。
いつもみたいに私のことを幻覚で
騙して楽しんでるんだよね...?」
ユリアの言葉に返答は無い。
ただ割れた窓から鉄の臭いがする渇いた風が
入ってくる音が聞こえるだけであった。
「ユリア、現実を見ろ、確かに俺も最初は
幻覚かと思ったけど...、これはあまりにも――」
「――あまりにもリアルすぎる...でしょ?」
「ッ!?」
突然背後から聞こえた声に反応して
バッと振り向くと、腕が横凪ぎに振るわれて
いた。
別に見切れないほど速度が早いわけではなかった。
冷静に対処すれば、さばけるかもしれない。
だが、何故か当たれば死ぬと思ってしまうくらいの恐怖を感じた。
「まずっ...!!」
俺は己の反射神経を総動員させ、全力で
しゃがんだ。
避けるのが遅れたらしく相手の腕に俺の上が
触れてしまったらしく、触れた部分の髪スパッと
斬れた。
脳が警笛を鳴らす、相手が本能的にヤバいと
理解した。
だが、やられてばかりでは駄目だ。
俺は拳を握りしめ、反撃に移――
「まずっ...!!」
それは直感であった。
背筋がゾクッとするほどの寒気がした。
――何かが、来る...!
俺がそれを察知して後ろに体を引いた瞬間、
頬を何かが掠めた。
次いで、先程の腕の軌道をなぞるように
床が抉れていった。
「そんなの有りかよ...!?」
俺は反撃すらさせてもらえないらしい。
どう考えても戦って良い相手では無いし、
近くに居ては危険だ。
そう判断した俺は、ユリアの元まで下がった。
「...流石」
少し落ち着いた俺は、改めて敵の姿を見た。
「お前は...」
目の前に居たのは、ロミオが王都に魔物の群れを
引き連れていたときに、隣にいた魔族であった。
「あのときの...」
「...ねぇ? もしかして、これ、全部...」
魔族はユリアの言葉に頷くと
「そう...これは...全て私がやったこと...。
ここに来るまでに...片方は脱落するかと...
思ってたから...私は驚いている...。
アル・ウェイン。 やはり...貴方は...見ていて
面白い...」
こいつ、俺のことを知っているのか?
というか、見ていて面白い?
「どういうことだよ? お前は何がしたいんだ?」
魔族は、俺の言葉をまるで無視すると
「でも...仮にもロキを倒したんだから...。
もう少し...出来るものかと...思っていたけど...。
少し...期待外れだった...。
この程度簡単にこなしていただきませんと
割りに合いませんよ、お客様」
口調が変わったかと思ったその瞬間、
魔族の姿は変化していた。
その姿は、ロキを倒して戻ったときに消えていた
宿の、受付で働いていた娘のものだった。
意味がわからない。
「お前...何者なんだよ...」
俺の言葉に、娘はクスッと笑い
「私は変装して何度か貴方と会っているんですよ。
そこまで言ってもまだおわかりになりませんか?」
相手はまるでこの状況を楽しんでいるかのような振る舞いだ。
「わからねぇよ!! 本当に何がしたいんだ
お前は!!」
思わず感情的になってしまった俺だったが、
それを見た娘は、人差し指をピンと立てると
「それならば、もうひとつヒントを与えましょう」
そして再び、娘はその姿を変えた。
先程よりもゆっくりと、徐々にその形は
変わっていった。
おい、待てよ。 その姿は――
「...は、はは...」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
俺はユリアの質問に答えられなかった。
脚が震えていた。 まともに言葉が出せない。
口から出るのは渇いた笑いだけ。
うまく呼吸が出来ずに喉がカラカラになり、
妙な圧迫感があった。
「冗談だろ...? 趣味が悪すぎる...」
目の前の者は、ただ此方をじっと見るだけで
何も答えなかった。
「今までのずっと...芝居だったってのか?」
ようやく、向こうは口を開いた。
「芝居...そう、芝居。 流石に言動と記憶が
あやふやだったから魂をちょこっと
使わせて貰ってたけど」
もし、それが本当なら...
「じゃああの手紙とかも...ただの嘘で塗り
固められた文字列だったってことかよ!?」
その言葉に、目の前の人物はフッと笑うと
「嘘ではないわよ。 だって私は――
――息子を愛しているんだから」
俺の母親、ルシカ・ウェインがそこには居た。
その目は、今までのような優しい瞳ではなく、
黒く、濁ったような目をしていた。
「さあアル、楽しみましょ?」
welcome to serious world.




