まさに韋駄天の如く
とりあえず目的地は決まったわけだが...
「で、魔族領ってどこにあるんだ?」
「...わかんない」
...ですよね。
「うーん、誰か教えてくれそうな人
居なかったかな...」
リークスと出会うには時間がかかるし、運も絡む。
かといって他の人に聞くにしても俺には圧倒的に
人脈が無いし、それに魔族領の場所なんて
聞いてどうするんだと言われたときの言い訳が
面倒だ。
「...いや、誰かに聞く必要は無いか」
「えっ?」
ユリアが俺の方を向いて顔を上げた。
「調べればいいんだよ」
「おばさん、世界地図の本ありませんか?」
「あんた...また来たのかい」
俺が来たのは図書館だった。
ここで調べてしまえば、誰にも聞く必要は
ないだろう。
ユリアは入った瞬間に目を輝かせ、
絵本を探しにどこかへ駆けて行った。
「今度は何が知りたいんだい?
ただ地図が見たいってわけじゃないんだろう?」
おおぅ...見透かされてる。
...このおばさんなら大丈夫...かな?
「実は魔族領の場所が知りたいんです」
「...本当にあんたは普通の人が調べようとも
しないことを知りたがるねぇ...。
ちょっと待ってな」
そう言っておばさんは一度しゃがみこむと、
一冊の本を持って立ち上がった。
「はい、これだよ」
その本の表紙には、でかでかと世界地図の
4文字が記されていた。
「これの1ページ目の見開きに大雑把にだけど
場所が載ってるよ、さらに詳しい場所は......
確か114ページに載ってるからせいぜい
参考にでもするんだね」
なんで覚えてんだよおばさん。
と思いながらも俺は地図を見る。
この世界は2つの大陸から出来ており、
大きい方が人間の領土、そして、こちらの
3分の2程度の大きさの大陸が、魔族の領土で
あった。
...これ、海越えなきゃ行けないのか...
「...おばさん、人間の大陸から魔族の大陸に
向かう船とか――」
「聞いたこともないね、そもそもそんなもの
危険すぎてやろうと思う奴なんて居ないよ」
...仕方ない。
アレをやるしかないのか...。
「場所は大体わかりました。 ありがとうございます」
「何をするのかわからないけど...頑張んな」
「はい。 ユリアー! 行くぞー!」
「わかったー! 今行くねお兄ちゃーん!」
ユリアの声を聞いたおばさんは俺の方を向くと
「...あんた、そういう趣味なのかい?」
「やめてくださいそんなゴミを見るような目で
見ないでください死にたくなります
違うんです信じてください」
「...はぁ、まあ、別にあんたの趣味趣向は
どうでもいいさ、早くおいき」
「いや違うんです! マジで!!」
最後までおばさんは信じてくれなかった。
「いやああああああああああああああ!!!!!」
ユリアの悲鳴が響き渡る。
当たり前だろう。 俺が彼女を脇を抱えて
走っているのだから。
「これでも抑えてるんだから我慢してくれ」
「あぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
時間が無いから仕方がないのだ。
悪いが到着するまでは我慢してもらいたい。
だが彼女からしたら恐怖以外の何物でも
ないだろう。
王都を出て、少し離れた時、突然隣にいた農民に
抱えられたと思った瞬間、いきなり息を
するもの辛いくらい超高速で走り出されるという
摩訶不思議アドベンチャーを経験しているのだから。
しばらく走り続け、ようやく海岸に着くと
俺は止まった。
「...や、やっと終わった...?」
「いや、違う」
目の前には魔族の男が一人立っていた。
その顔はにこやかな笑みを浮かべていた。
ユリアはその姿を見ると笑顔になり
「バルベルだ! 久しぶ――」
そしてその男の笑みは、突然醜く歪んだのだった。
「やべっ!!」
俺はユリアを抱えて横に跳ねた。
その瞬間、さっきまで居た場所には
魔法が打ち込まれていた。
「ちぃっ!」
魔族の男は舌打ちをすると、俺の方へと
飛びかかってくる。
その瞳に、光は無かった。
「おらっ!」
俺は魔族の男が近づいてきたタイミングで
腹に向かって蹴りを繰り出した。
「ぬぐぅ!?」
その一撃の効果は凄まじく、魔族の男はたまらず
気絶したようだ。
「...やっぱり、おかしいよ...」
ユリアが呟く
「なんで? バルベルはいきなりこんなこと
するような人じゃないもん...どうしてなの?
私には――」
俺はユリアの口を手で塞いだ。
「むぐっ?」
「気になることはたくさんあるだろうけど、
向こうにいけば全部わかるはずだろ?
行こうぜ」
ユリアはこくんと頷いた。
「...じゃあ、また覚悟してくれ」
「...え?」
俺は後ろに下がり距離を取ると
「あの? お兄ちゃん? もう終わったんじゃ?」
「『いや、違う』って言っただろ?」
俺は先程よりも早く走りだし、
「ねぇ? これってまさか――」
「――そのまさかだ」
そして、海の上を走り出した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
待って待って待ってよおぉぉぉぉぉ!!」
「今止まったら沈んじゃうだろ!
着くまで我慢してくれ!」
「うにゃああああああああああああ!!!」
ちなみに、ルリとルルグスから帰っている
ときにこの技を思い付いた俺が、川で
この技を実践したときの、ルリの全てを
諦めたような顔は未だに忘れられない。




