邪魔者乱入
王都の評判はすっかり回復し、むしろ以前よりも
良くなった。
物価の値段も元に戻り、良いことづくめだ。
今日はファルは用事で来れないようだし、
ルリは依頼に行っているし、ヘレンさんは
受付嬢の仕事をする日だ。
つまり、皆用事があって、俺だけ暇というわけだ。
「...俺も何か依頼でも受けようかな...」
よっこらせ、と立ち上がると、玄関が
バンバンバンと荒くノックされる音が聞こえた。
「兄貴兄貴!! 大変ッス!
やばいんスよ!!」
声と口調的にリークスだろう。
アンティスブルグの王であるネディルスが
魔族であるアデルを利用することにより
起きた事件の解決に大きく関わった人物であり、
今も郵便屋を続けている。
なお、アデルは情状酌量の余地がある
ということで、軽い刑で許されたらしく、
すでに出所して彼女さんと楽しく幸せに
暮らしているらしい。
あと、この兄貴という呼び方だが、
何故かこの前の事件で尊敬されたらしく、
兄貴と呼ばれるようになってしまった。
さて、そういえば大変だと言っていたな、
何かあったのか?
俺は玄関を開けると
「そんなに騒がんでも聞こえてるって、
何があったんだよ?」
「あ! 兄貴!」
俺の顔が見えて一度パァッと顔を輝かせるが、
すぐに表情を真剣なものに戻すと、二通の
手紙を渡してきた。
「まず、これがいつもの兄貴の母様からの
手紙ッス...」
そう言って神妙な顔で俺に母さんからの
手紙を渡した。
「そして、もう一通は...」
リークスの持っている手紙は、真っ赤なものだった。
よく見てみれば血のようだ。
「正直、兄貴の父様からの手紙はいつも
ちょっぴり血が付着してて、きっと
いつも戦場のようなところに身を置いて、
生死を分けるやり取りをしていたと思ってたんスよ」
確かに生死を分けるやり取りは(一方的にやられる側だけど)してるかもな。
「でも...こんなに血塗れの手紙になるって
ことは相当な事があったと思うんスよ!」
だろうな。 大方、母さんがキレたか
何かしちゃったんだろうな。
おお、恐ろしい。
「つまり...これは遺言のような意味も
あるかもしれないッス...だから、覚悟して
読んで欲しいッス...」
「そうか」
じゃあいつものことだな。
そう思って俺が手紙を涼しい顔で受けとると、
リークスは表情を輝かせた。
「すげぇッス...! こんなことがあっても
一切動じずに冷静に手紙を受け取れるなんて...!!
さすが兄貴ッスね!!」
ごめん意味がわからない。
「俺、兄貴のこともっと尊敬したッス!!
貴方が俺の兄貴で良かったッス!!」
別にお前の兄貴になった覚えはないんだが。
「じゃあ名残惜しいッスけどまだ仕事が
あるんで自分はもう行くッスね!!
それでは!!」
ほぼ一方的にマシンガントークしたあと、
リークスは走り去っていった。
「...ほんと、何でこうなったんだろうな...」
とりあえずこの二通の手紙はあとで読むことに
しよう。
俺は居間に手紙を置くと、とりあえず
依頼を受けようと家を出た。
活気溢れる商店街を抜け、冒険家ギルドが
見えてきたそのとき
上空から人型の物体が、冒険家ギルドに
突っ込んだ。
ベキベキベキィッ! と木材が壊れていく
音が聞こえ、続いて中で何か起こって
いるのか、暴れているような音が聞こえた。
一体何が――!
そう思ってダッシュで冒険家ギルドに
向かい、扉を開けると――
ヘレンさんが魔族の男を壁に吹き飛ばしていた。
「はぁ...、屋根と壁が壊れちゃったみたい...。
...あっ! アル君!」
ヘレンさんは俺に気付くと、嬉しそうに
駆け寄ってきた。
俺は吹っ飛んだ魔族を指差し
「ヘレンさん...今のは――」
「ああ、あれ?」
ヘレンさんはその方向を一瞥すると、
俺の方を向き
「突然降ってきて襲ってきたから
気絶させておいたの!!」
ウィンクを決めながら同時にビシッと
サムズアップを決めるヘレンさんに
年上の女性の面影は無かった。
これただの子供だわ。
というか魔族を瞬殺(殺してない)するとか
ヘレンさん強くなりすぎじゃないか?
俺が凄いなぁと思いながらヘレンさんを
見ていると、その視線の意味に気がついたのか
「えへへ...私、強くなったんだからね...?」
と言いながら嬉しそうに、そして恥ずかしそうに
少し赤く染まった頬をかきながら視線を反らした。
ふ...不覚にも少しドキッとしてしまった...。
「え...えと、頑張りました...ね」
こんな言葉で良いのだろうか? と思ったが
満面の笑みになったヘレンさんを見て、
とりあえず正解だったのかと安心した。
「そういえばアル君、多分今日は依頼を
受けに来たのよね?」
「あ、はい。 そうですけど...」
そう言うと、ヘレンさんは表情を暗くさせた。
「残念だけど、この状況じゃまともに
依頼を受けさせられないから、悪いんだけど
今日は我慢してもらえる?」
ヘレンさんがそう言ったので、周囲を見ると、
ギルド役員は、屋根や壁の崩壊したときに
生じた瓦礫の片付けに負われていた。
それに、未だに魔族の男は気絶したまま
放置されていた。
「...まあそうでしょうね。この有り様じゃ...。
わかりました。 それでは」
「ごめんね、今度何かお詫びするから。
またね」
手を振ってくれるヘレンさんを背に、俺は
冒険家ギルドを出た。
実は最初、リークスが男の娘の予定だったって
いうのは今となっては秘密。




