作戦の内容
前半一人称。
中盤から三人称とわけがわからない
文体になっております。
ご注意ください。
時はギルドの個室で郵便屋が真実を語るところ
まで遡る
「本当ッスか!? それなら話すッスよ...」
そう言うと、郵便屋はどこか力を抜いたような
気がした。
すると、彼の額からは角が生え、背中からは
翼が生えた。
「まず最初に、自分はリークス・ボーウェンという
名前の魔族だということを前提に聞いて欲しいっす」
「「え?」」
ヘレンさんとルリが同時に声を上げる。
そりゃあいきなり目の前の男が魔族だって
言われたら驚くだろう。
俺もちょっと驚いている。
「自分みたいに変装して人間に溶け込んでる
魔族ってのも少なくないんスよ。
心配しなくても、自分みたいな奴等は人間が
好きなんで危害を加えることは無いから
安心して欲しいッス」
「へぇ...、でもでも、変装なんかしなくても
こっちに来れば良くないかな?」
「自分もそうしたいのは山々なんスけど、
和平を結んでからも魔族側はちょくちょく
人間側に手を出してるじゃないスか?
それこそ前に王都を魔物の群れと襲撃したみたいに」
「つまり、その姿だとあまり良い印象を
持たれないから隠しているってことね」
リークスは、ヘレンさんの回答に
『その通りッス』と言ってさらに続けた。
「ちょっと話が変わるんすけど、
自分には仲の良い友人が居るんスよ。
名前はアデルっていうッス。
そいつも自分と同じく人間が好きで、
一緒にこっちに出てきたッス。
それで、お互いまた会おうって別れたんスよ。
その後、自分は郵便屋になって、アデルは
アンディスブルグで冒険家になったらしいっス」
魔族が冒険家って...なんか違和感あるな...。
「しばらくして会ったとき、アデルには
人間の彼女が出来てたッス。 彼女には
魔族であることは付き合う前に話してあった
らしくて、全てを受け入れて貰えたって
とっても喜んでたッス。 ...けど」
「けど...?」
話の雲行きが怪しくなってきたことに
ルリは心配しながらも続きを催促する。
「つい最近、郵便屋の仕事中にまた
会ったんスけど...そのときのアイツの顔は
とても憔悴しきった表情をしてたッス。
だから何があったのか聞いてみたんスよ...」
『どうしたんスか? 何かあったんスか?』
アデルは生気を失ったような目でこちらを見た。
『...彼女が出来たって話...したろ?』
『聞いたッスね...、まさか彼女に何か
あったんスか?』
アデルは唇を噛み締め、苦虫を噛み潰したような顔をしながら
『...アンディスブルグの王子に監禁された』
『...は?』
『俺が魔族だから利用価値があるって理由で、
俺に言うことを聞かせるために監禁しやがったんだ...』
そう言いながら拳を握るアデルの手からは、
握る力が強すぎるのか血が流れていた。
『メイギスのファル王女と結婚したいから
それが成功したら解放してやるって言われたんだ...。
だから、俺は今からそいつの命令でメイギスの
王都に魔物の群れを向かわせてるんだよ...。
何度も...何度も...何度もな!!』
人間が好きなアデルからしたら、それは
想像できないほど辛いことであったことだろう。
『もしかして...またそれをしに行くんスか?』
『今回は違う国らしいけどな...、
やりたくないけどやらなきゃ...アイツが...!』
『落ち着いて欲しいッス! そんなことしたら――』
『じゃあお前は俺の彼女がどうなっても
良いってか!? 俺だってこんなこと好きで
やってるわけじゃない!! 理想論語っても
仕方ねぇんだよ!!
それとも何かなんとかする方法でもあんのかよ...?』
そう言ったアデルは、もはや別人のように
なっていた。
『それは...』
『無いんだろ? なら下らないことは
言わないでくれ...、...邪魔だけはするなよ?』
その言葉を最後に、アデルはリークスの
前から去っていった。
「止められなかったッス...あんなの...どうしようもなかったッス...」
一人リークスが俯いている中、他の三人は
話をしていたようで、
「...なあ郵便屋、お前も同じことが出来るか?」
魔物の群れを呼ぶ行為の事だろうかと
リークスは結論付け
「出来るッスよ、まあアデルよりは
少々心もとない出来にはなるッスけど。
それがどうかしたんスか?」
「それなら話は簡単だな...」
アデルはその言葉に驚いた。
他の二人も同様なようで、同じような表情を
していた。
「ア...アル君?」
「い、今...」
「簡単って言ったッスよね?」
三人の質問に、アルはさらりとこう言った。
「三人で役割分担すれば簡単だぞ?」
そして、彼は話し始めた。
「まず、奴等は魔物の群れを意図的に
メイギス、そしてメイギスと関係の深いところに狙わせて、その後に噂を流すことで評判を下げた。
そして、聖なる剣がなんちゃらってやつは
多分その友人がその聖なる剣ってやつの
光を見た瞬間に魔物の群れを退却させるように
指示を出せばまるで魔物の群れを追い払った
ように見えるってわけだろうな」
「...なんで一瞬で思い付くんスか?」
「魔族が一枚噛んでるってわかれば
これくらいは推測出来るだろ?」
その無駄に高い推測力がどうして
農民である身で身に付いたのかということは
誰もツッコまなかった。
「つーわけで、リークス。
お前が魔物の群れをアンディスブルグに
出してくれ」
突然の物騒な作戦に、リークスは両手を
前に出してブンブン振った。
「ええ!? いやいやいや!!
自分は人間を襲いたく無いんスけど!?」
「別に襲わなくていいんだよ。
聖なる剣が魔物の群れに効果が無いってことを
証明すればそれでいいんだ」
「あ、そういう事ッスか...。 いや、でも
そんなことしても...」
「まあ確かに適当な日に実践すれば
効果は無いだろうな。
でも、各国の首脳陣が集まる結婚式の日に
やったらどうなる?」
リークスはそれを聞いてハッとした。
それなら聖なる剣の効果が全くのデタラメだ
ということを知らしめることが出来る。
「聖なる剣が一本だけなら調子が悪いってことで
言い逃れ出来るかもしれないけど、運が良い
ことに複数あるらしいな。 その全部が偶然にも
同じ日に調子が悪くなるなんてこと有り得るか?」
とても悪い笑みでそう言ったアルを見た
他の三人は...
「...うわ...確実に信用を無くしに行くつもりだね...」
ルリがアルから身を一歩引いた。
「随分と酷いことを思い付くのね...」
ヘレンもアルから身を一歩引いた。
「ちょっと待って、何で俺がドン引きされるんだ?
アンディスブルグの王子の外道なやり方より
マシだと思うんだが...。
リークス、同じ男だし、お前ならわかってくれるよな?」
「...悪魔ッスね...」
リークスも身を一歩引いた。
「...何か泣きたくなってきた...。
とか言ってる場合じゃないな。
よし、じゃあ続けるぞ」
アルがそう言うと、三人は一歩引いた身を
全員ほぼ同時に元の位置に戻した。
「なんだそのシンクロ感!?
まあいいや、んで、リークスには魔物の群れを
頼むとして、俺とルリはアンディスブルグの
式場に乗り込む」
「え? そんなことして大丈夫なの?」
ルリの疑問も最もだと言わんばかりにアルは頷き
「まずは魔族と繋がってるってことを
暴かなきゃいけない。
恐らくアンディスブルグの王子はその魔族を
式場に忍ばせとくはずだ。
普通の人間よりも強い魔族を隠して忍ばせ
とけば、自国の見張りの騎士の数を減らせて
見栄えも良くなるだろうしな。
ルリには魔族の潜んでいる場所を特定して
その姿を出席者の前に引き摺り出して欲しい。
あと、バレないようにローブ着て、
本名じゃなくて別の名称で呼ぶように
すれば大丈夫だろ」
「アル君は何をするの?」
ヘレンのその発言に、アルは拳を握り、
その拳を顔の前まで持ってくると
「とりあえず王子をぶん殴るかな」
その言葉に、三人はまたサッと身を引いた。
「何で!?」
「あ、でもそう言えば聖なる剣の原点は
王子が持ってるみたいッスよ?」
リークスは気にせずにさらっと話題を変えた。
「なんか今日扱いが酷くないか?
ってか原点ってなんだ?」
「なんでも、聖なる剣は最近掘り起こされた
ものらしいんスよ。
それを模倣して作り上げた複数の聖なる剣が
今、隊長クラスの人に渡されてるらしいッス」
「...ってことは...」
「式中にやってきた魔物の群れに対して
全てのレプリカが効き目なしってわかったら
騎士が王子を呼びに式に乗り込んでくるかもしれないッスね」
「いや、普通は聖なる剣無くても戦えるだろ」
「アンディスブルグは宗教を重んじる国ッスから
戦争はいけないって考えてるらしいんス。
しかも比較的魔物も出にくいみたいなんで
無事に魔物の群れを倒せるだけの力があそこの
騎士団にあるかわからないッスよ?
隊長クラスの人だってただの飾りみたいなモン
らしいって聞いてるッス。
それに、何を血迷ったのかあの王子は
原点は自分にしか使えない
なんて言ってるみたいッスよ?」
「...つまり魔物の群れを前に、戦場の前線に
王子が出て来ざるを得なくなると?」
「そう言うことッスね。 ざまあみろッス」
そう言って不敵に笑うアルとリークスから、
ルリとヘレンはもう三歩ほど身を引いたのだった。




