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王女の苦悩

ここはアンティスブルグにある城の一室。


ファルはそこで窓の前に立ち、夜空を見ていた。


「明日が...結婚式......。


はぁ...」


思わず溜め息が出てしまう。


だが、ここで自分が頑張らなければ

国が大変な事になってしまうのだ。


結婚するアンティスブルグの王子である

ネディルス・フィン・アンティスブルグには、

前々から婚姻を申し込まれていた。


その度にうまくそれをかわしていたのだが、

今回はそうはいかなかった。


遠回しにではあるが、『婚姻を結んでくれるの

であれば、国に付いた汚名を払拭してやる』と

言われたのだ。


確かに、国の評判を戻してくれるのは

ありがたい。


が、そのかわりに自分の身を差し出すという

ことには、王である父を含め、重臣達は

全員断固反対してくれた。


国が危ないというのに、本当に優しい人達だ。

その人達が守ってきてくれたおかげで私は

ここまで育ってこれたのだ。


だから、


「今度は私が...守らないと...!」


胸の前で両手の拳をグッ握ると、

扉をノックする音が聞こえた。


「失礼、ファル王女」


そう言って入ってきたのは、すらっとした

体型の、どこか胡散臭い雰囲気を漂わせる

若い男だった。


「...ネディルス王子...?」


「おや、まだ起きていらしたのですか?」


逆に寝ていると思ったのならナニをしに来たのだ

という話だ。


「ええ、今日は月が綺麗でしたので。

少し黄昏ておりました」


私はすぐに笑顔を作り対応する。


「それで、如何なる用でございますか?」


私がそう言うと、ネディルス王子はククッと

笑うと


「いえ、明日は私達の記念すべき婚姻の儀が

ありますので緊張なされているかと思いましてね、

その緊張を少しでも和らげられたら、と」


「お気遣いありがとうございます。

ですがご心配なさらず。 生憎緊張は

しない体質ですので」


やんわりと断りを入れるが、ネディルスは

さらに近付いてくる。


「そうですか...。


ですが、明日は他の国の方々に祝われる

のですから、今日くらいは二人だけでこの先の

未来を祈ってお祝いしませんか?」


そう言って彼はお酒を出してきたが、それが

かなり酔いやすいお酒だということにわたしは

すぐに気がついた。


「申し訳ありません、お酒は苦手でして...」


「ふむ、そうですか。 なら仕方がありませんね」


そう言ってネディルスは酒をしまった。


「それではお菓子は」


「今日はもうディナーを頂いたので」


「この安らかに朝まで寝れる睡眠薬は...」


「ご心配なさらず、何もせずとも一人で

寝れますので、それではもう夜も遅いことですし、おやすみなさい」


そう言って少し無理矢理ではあるが、

なんとかネディルスを部屋から追い出すことに

成功した。


というか最後の睡眠薬は何だ。


もはや私を眠らせてナニをしようとしたのか。


「...あんな人と...結婚しなきゃいけないの...?」


一度俯きそうになるが、ハッとして直ぐ様

前を向き


「...いけないいけない! 国のために

頑張るって決めたばかりなのに...それに...

アル君にも勇気を貰ったんだから」


彼との出会いは、私にとって新鮮な出会いだった。


貴族の息子達は下心満載で近付いてくるし、

娘達は少しでも縁を作ろうと近付いてくる。


それだというのに、彼は私を助けた報酬を

請求するなどせず、むしろ自分から離れて

行こうとしたのだ。


そこで興味が湧いた。


結局、いくらアプローチしても靡くことが

なかったというのに、魔物の群れと魔族から

襲われるというピンチの場面に颯爽と

現れて助けてくれたときには不覚にも

ときめいてしまった。


彼は優しいから全部わかっていたのだろう。

そして、私の決心が鈍らぬよう、背中を押して

くれた。


それに比べ、ネディルスはどうか。


私の国がピンチになったと知ったところに、

私の弱い部分につけこんだ婚姻。


先程も寝てると思い込んで部屋に入ってきた

挙げ句、睡眠薬まで出してきた。


もはや、やることが露骨すぎて下心がまったく

隠せていない。


政略結婚の際には、少しでも相手のことを

好きになっておかないとかなり辛い日々を

送ることになる。


だが、あんな人は好きにはなれない。


「...覚悟は...決めてたはずだったんだけどな...」


見れば見るほど悪い面が浮かび上がってくる

ネディルス。


そんな男と明日、結婚することとなる。


「もう一度...もう一度だけでいいから...


――アル君に会いたいな」


その呟きは、闇へと消えたのだった。




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