悪化を続ける現状
ファルが王都を出てから三週間ほどが経った。
魔物の群れは二週間前ほどから来なくなり、
忙しい日々は終わりを告げたのだが...。
「相変わらず食べ物高いな...」
食べ物の値段が元に戻らないのである。
そればかりか、どんどんと値上がりをしている。
ルーデンス国が打撃を受けたからと言っても
そろそろ多少は下がってきても良いかと
思うんだが...。
というか、何でどんどん値段が高騰して
いくのかがまったくわからない。
郵便屋の彼は忙しくなったのか、
3~4日に一度ほどしか届けに来なくなった。
やっぱり、最近の王都は何か変な気がする。
何かに巻き込まれてるかのような――。
「号外だー! 号外ー!!」
ん?
突然配られ始めた記事を一部貰って中身を
読むと...どうやらアンティスブルグという
国と、その国の功績が書いてあった。
またか...。
最近、このアンティスブルグという国は、
メキメキと名を上げている。
何故かと言うと、なんでも魔物の群れを
聖なる光を放つ剣を掲げることで、戦いもせずに
退けるという偉業を成しているからだ。
それも一度や二度ではない。
様々な国が魔物に襲われるたびに、
アンティスブルグはそこに駆けつけ、
ただ一言の叫びで魔物の群れを退けているらしい。
この功績が称えられ、アンティスブルグは
いっきに国としての地位を上げた。
それならウチも助けて欲しかったが、
アンティスブルグとここは、地理的に
それなりに遠い場所にあり、助けたくても
間に合わないのだろう。
馬車でも一週間以上ははかかるらしい。
そう思っていると、俺は裏面にも記事があることに
気がついた。
いつもは表面だけの記事だったので、
どんなものかと思って見てみると――
「ファルが...結婚?」
それも、アンティスブルグの王子と結婚
するらしい。
確かにアンティスブルグは最近国としての
地位を上げているし、中々良いところと
婚姻を結べたようで何よりだ。
周囲を見ると、同じことを考えている人が
大勢居たようで、とても喜んでいた。
これならファルは幸せになれるだろうな。
でも、だとしたらあのときのファルの
元気の無さは――
「アンティスブルグか...最近、豊かに
なってきたそうだよな...あそこ」
ふと、商人たちの話し声が耳に届いた。
「ああ、羨ましいぜ...。 こことは逆に
向こうの評判は鰻登りなんだろ?」
「まさか魔物の群れが来まくってるからって
この風評被害は酷いもんだぜ...」
風評被害?
「突然すみません、風評被害って
どういうことですか?」
突然話しかけた俺に、商人の二人は少し
驚いた様子だったが、すぐに話を聞かせてくれた。
「前まで、ここにはよく魔物の群れが
来てただろ? んで、続いて俺達の
一番の貿易相手のルーデンスが狙われた。
これだけだったら良かったんだがな...」
顔を手で押さえた商人に変わって、
隣の商人が話し始めた。
「そのあともどんどんと他の国も
魔物の群れに狙われてな。
それが運の尽きだった。
何度も魔物の群れに狙われてるお前らの国に
関わったら俺達の国が狙われるかもしれない
なんて身も蓋もないことを言われて
俺達との貿易をしてくれなくなったんだ。
アンティスブルグが貿易相手になって
くれてなかったらこの国は終わってたかもしれない。
あそこは群れが来てもすぐに退けられるから
貿易しても大丈夫だと言われたときは
神様か何かに見えたくらいだ。
物価が上がっているとはいえ感謝しなきゃな...」
しみじみとした様子で商人は語ってくれた。
アンティスブルグ。
聞けば聞くほど良い国だな。
ファルとアンティスブルグの王子が結婚すれば
風評被害はある程度収まり、
魔物の群れはアンティスブルグの騎士を
駐屯させておけばすぐに払える。
良いことづくめだな...。
それをわかっててファルは婚姻を結んだのだろう。
国の為に、自分を犠牲にしたんだ。
自分の気持ちに嘘をついてまで結婚するのは
出来るのなら止めてあげたい気持ちもあるが、
だからといってこの現状を俺にはどうする
ことも出来ない。
ただ、アンティスブルグの王子が
ファルを幸せにしてくれることを祈るばかりだ。
「あっ! 丁度良いところに居たッス!」
「ん?」
振り向くと、郵便屋の彼がこちらに
走ってきていた。
「いやぁ~、今から丁度これを届けに
家に向かうところだったんスよ」
そう言って手紙を俺に渡してくれた。
その表面にはこんなことが書かれていた。
『母さんからの秘密のお手紙(はぁと)
誰も居ないところで読んでね。
じゃないとアルの私への愛が暴発して大変な
ことになっちゃうわ』
「...破りたい」
俺が手紙に手をかけると、郵便屋が
慌てて止めに入った。
「ちょー! 折角届けたのに郵便屋である
自分の目の前でそれはやめてくださいッス!
流石に傷付くッス!!」
「大丈夫、これ読まずに破いたり捨てたり
燃やしたりしたらむしろ増えるだけだから」
「それまったく大丈夫じゃないっスよ!!
自分そんな恐ろしいものを届けたんスか!?」
ブルっと震える郵便屋だったが、
一度周囲を見渡したかと思うと。
「そういえば...やっぱりどこもこんな
感じなんスね。 物価が上がって皆が
困ってるみたいッス」
「そうだな、原因は風評被害のせいらしいけど」
「風評被害...? あっ、そういう事ッスか」
どうやらすぐに察したらしい。
推察力がそれなり高いようだ。
「まあ確かにそうッスよね。
自分はこういう仕事の都合上、色んなとこ
行って色んな人の話を聞いたり、記事の
配達をしたりして情報が入るからわかるんスけど。
狙われたのって運の悪いことに自分の国の
代表的な貿易相手国だけッスからね。
これじゃ自分の国に風評被害が立っても
仕方がないッスね
ちょっと不謹慎ッスけど一回でも自分らと
関係の無い国が襲われてくれれば話はまた
別なんスけど...まあ、そんなことは
絶対に無いッスね。
この世界でっていうよりはこの国の周辺で
魔物の群れが活発になってるみたいッスから
それは望み薄ッス。
やっぱりファル王女様がご結婚なされて
風評被害が収まるのを待つことしか
出来ないッスよ...」
郵便屋はこちらが何も言わずともどんどん
情報を教えてくれた。
しかし...何でうちと関係のある国ばかりが
狙われるんだ...?
どこか意図的な物を感じるような...。
またもしかしてまた魔族だろうか?
いや、それは考えにくい、魔族が群れを
率いているならアンティスブルグ聖剣だが
なんだか知らんが、それで負けを認めて
逃げるとは考えづらい。
もしそうだったら魔族は聖剣を見た瞬間に
逃げる、もしくはひれ伏していたはずだ。
勇者と魔族の戦いの伝記がある以上、
それは考えづらい。
となると――
「んー...、ま、今回は偶然の線が一番...だろうな」
「......そうッスよねぇ...はぁ...」
自分の国が心配なのか、顔色を悪くして
溜め息を吐く郵便屋の彼は、どこか
悲しそうな顔をしていた。
二人してそう結論付けた後と、郵便屋は
まだ仕事があると言って去って行った。
仕事と言えば...俺にも仕事が出来たな...。
俺は手に持った手紙を見た。
「...開かねぇ...!」
人気のあるところだと開かないように
出来ているのか、開けようとしても
まったく開かない。
一応ステータス的にはゴリ押し出来ると
思うんだが...。
まあ、あの母さんだ。
愛でどうにかなってしまうのだろう。
俺は母さんの手紙を読むべく家に戻った。
ありきたりな結婚モノです。
黒也様、生け贄ではなく結婚ですが
如何でしょう(白目)




