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突然の来訪

あのあとルリと別れ、俺は家に到着した。


そろそろ落ち着きたいが、俺にはまだ

やることが残っている。


「...相変わらずの文字量だな...」


少ない面積の紙に文字がビッシリと

書き込まれており、途中で読むのをやめると

『まだ最後まで読んでないでしょ?』と

言わんばかりに手紙が俺の方に飛んでくる。


母さん何者だよマジで...。

最早嫌がらせの域だろこれ...。


だが、前回会ったときに最後にした会話に

ついてあまり思い詰めない方が良いという

ことが少し書いてあって、多分俺が悩んでいる

時間を少しでも減らして楽にしてあげよう

という意志が伝わってくる。


そのためのこの文章量だ。

やり方は酷いが、それでも感謝はしている。


「ほんっと...全部お見通しなんだよな...

母さんは...」


ついそんな一人言を呟きながら手紙の最後の

部分を――


『P.S

ところでこの手紙をアルが読む頃には

一度女の子を抱き締めて愛を叫んで

いるだろうと私の勘が囁いているんだけど、

その子との関係について母さん詳しく知りたいわ。


手紙に書いて送ってね』


お見通しにも程があるだろう。


でも、あれは芝居だから別に母さんに

教えても――駄目だ、『うちの息子をそんな

ことに利用するなんて...どんな地獄を見せて

あげようかしら』と言いながらその怒りを

まず父さんに向けるだろう。


...それならいいか。


とはいえルリにも危険が及ぶ可能性があるし、

黙秘しておくか。


そしたらイラついた母さんの標的が

父さんになる。


父さんがルリの犠牲になるというわけだ。


...それならいいか(二回目)。


頑張ってくれ...父さん。


「すんませーん! 郵便物でーす!」


聞き慣れた男の声が俺の耳に届いた。


「わかった、今行く」


俺は玄関に向かうと、いつもの郵便屋が

立っていた。


母さんが毎日のように手紙を送るもんだから

すっかり顔馴染みになってしまった。


でも、今日はすでに手紙を受け取ったはずだが


「また母さんからか? なんか何度も悪いな...」


「いや、自分はこれが仕事ッスから、

気にしないでくださいッス。


あ、それと、これは母様からではなく

父様からみたいッスよ」


「え?」


父さんから?


「じゃ、確かに届けたッスから。

またのご利用をお待ちしてるッスよ」


次の届け先があるのか、彼はすぐに

去って行った。


...それにしても、郵便屋のシステムは

どうなっているんだろうか。


随分と届くのが早い気がする...。


そんなことはさておき、俺は居間に戻ると

父さんからの手紙を開けた。


『この手紙が届くのはお前が誰かに一度

愛を叫んだ後だろう。


早くお前が愛を叫んだ女の子の詳細を

送ってくれ...!


アイツ...お前に彼女が出来たらかもしれない

って言ってずっと笑顔のままなんだ!


でもあれは笑顔なんかじゃない...!

もっと恐ろしいものだ!


その証拠に、昨日の夕飯は野菜スープだと

言っていたのに冷水に生の野菜をぶちこんだ

ものが出てきた!


ただでさえ今は野菜の物価が

少し上がっているというのに...!


生でも食える野菜を選んでいたようだから

よかったものの、これが続いたらいずれ

もっと恐ろしいことになる...!


アル...頼んだぞ!!』











...それならいいか(三回目)。


今はテスタと村長が俺の畑とかの世話してくれてるらしいから

収穫した野菜とか送ってくれるように頼んでおこう。


それなら野菜は手に入るから問題ないな。


さて、じゃあ手紙も読み終わったことだし、

そろそろ落ち着――


「すみません」


...今度は誰だろうか。


いや、声でわかる。 この声は...


「...やっぱりファルか」


「急にごめんね...。


でもちょっと話したくて...」


「?」


ファルにいつもの元気が無い。


「...とりあえず上がってくれ。

ここで話すのもなんだしさ」


「ありがと...」


俺はファルを居間に通して、適当なところに

座らせた。


「悪い、いつもみたいにお茶を出して

やりたいんだが...何だか知らんが、いつもより

茶葉の在庫が少なかったらしくて、

もう残ってなくて買えなかった」


「...っ、別にいいよ、気にしないで!」


「そうか...。 で、どうしたんだ? 何か話が

あるんだろ...?」


俺も座り、本題に入った。


ファルは言いづらそうに顔を少し背けていたが、

やがて決心したのか俺の方を向き


「えっと...私ね、ここから離れることになったの」


「...そうなのか、じゃあ最近ここに来なかったのは...」


「うん、その準備をしてたから。


明日にはここを出るから、アル君にも

伝えておこうと思って...」


でも、それに乗り気ではないのだろう。

元気が無いのがその証拠だ。


そんなに嫌なら行かなければいいのに。

と思う。


が、そんな簡単な問題ではないのだろう。


恐らく、これは自分で決めたことだ。

なら、俺がここでとやかく言って決心を

鈍らせてはいけない。


それなら俺がするべきことは――


「そっか...辛いだろうけど、元気でやれよ」


応援してやることだけだ。


「...本当に...アル君は優しいね...」


ファルは泣きそうな顔を無理矢理笑顔にして

そう言うのだった。

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[一言] 父ィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!?
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