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勘違いは上手く噛み合う

数時間経つ頃には魔物の群れを退ける

ことに成功し、人々は王都へと戻り始めた。


俺は門を通ると、こっそりとローブを脱ぎ、

野次馬の商人や農民達に扮した。


すると、おだてるかのような声が聞こえた。


「相変わらず素晴らしい腕前です!!

是非ともその力、我が騎士団で国のために

振るわれませんか!?」


賞賛と共に勧誘している声が聞こえたので

振り向くと、赤い髪の16歳くらいの若い

男の騎士が、ヘレンさんを勧誘していた。


「何度も言ってるけど、私は国の為じゃなくて

人の為にこの力を使いたいの」


遠回しにヘレンさんは断りを入れるが、

相手の騎士はそれでは引くつもりはないのか、

さらに押しに出た


「国に尽くすということは民のために

なると言えます! つまり、それは人の為に

力を使うということなんですよ!


ですから――」


「ごめんなさい、貴方の言っている言葉と

私が言っている言葉は同じでも、その意味が

まったく違うの、だからもう諦めて...ね?」


ヘレンさんからしたら、ワガママな子供に

言い聞かせるかのように言ったつもりなの

だろうが、騎士からしたら年上の美人の

お姉さんに悩殺されたようなものだったらしく

顔を真っ赤にしてカチコチになっていた。


「は...はひ...頑張ります!」


頑張っちゃうのかよ。

諦めるつもりねぇじゃねぇか。


ヘレンさんはその後、当たり障りのない

別れ文句を言って、騎士から離れた。


その騎士は去っていくヘレンさんの背中を

熱い視線で見ていた。


あれヘレンさんに惚れてるな。 うん。


「アル君、お疲れ様」


騎士を見て考えている内にヘレンさんが

近付いてきていたようで、俺に話しかけてきた。


「あ、ヘレンさん、お疲れ様です」


ヘレンさんは、はぁ...と溜め息を吐いた。


まあ、群れを退ける度に勧誘されたら

疲れるだろうし...。


「ああ...ウォンさんのお菓子食べたかった...」


「そっちかよ!? ...あ」


思わず鋭くツッコんでしまったせいか、

ヘレンさんが目を見開いて俺を見ていた。


「あ、すみません。 今のはつい――」


ヘレンさんは両手を自分の顔の前で

握り合わせると


「わあぁぁぁ! ついにアル君が敬語を

無くしてくれた!」


キラキラとした目をこちらに向けて、

満面の笑みでそう言った。


「...え?」


どういうこと?


「私、結構アル君とは仲が深まったと

思ってたんだけど、アル君はずっと私に

敬語を使ってたじゃない?


敬語って何か少し相手との壁を感じるじゃない?


だから今遠慮なくタメ口でツッコんでくれた

ことが嬉しくて!」


そう言いながら子供のようにはしゃぐヘレンさん。


「いや、でも今のは言葉の綾というもので...」


「...タメ口じゃ駄目なの?」


「駄目っていうか年上に敬語を使うのは

クセみたいなものなので...すみません」


「そっか...残念」


そう言ってわかりやすくヘコむヘレンさんは

やはり子供っぽかった。


何かこの人俺の前だとたまに子供っぽく

なってないか...?


そんな事を考えていると、ブルッと寒気がした。


何やら鋭い視線で見られているような――



その視線の主を辿ると、先程の騎士が

俺を親の仇かの如く、憎々しげに睨んでいた。


あれ殺意混じってないか?

背後に赤いオーラが見える気がする。


「...どうしたの?」


急に視線を反らした俺が気になったのか、

ヘレンさんが質問してきた。


「ちょっと視線を感じましてね...。

もしかしたら(命を)狙われてるかもしれません」


「ええ!? (また新しい女の子に)狙われてるの!?」


ヘレンさんが口を手で押さえて驚いていた。


「はい、それもかなりヤバそうで...

あれは油断したら夜道とか襲われるかも

しれませんね(物理的な意味で)...」


「お、おお...お、襲われる!?」


何故か顔を赤くするヘレンさん。


「可能性があるってだけですよ。

そんなことはありませんよ...多分。


まあこれから先あの人は俺の事を日々

(憎々しく)思いながら過ごすんだろうな...。


なんか...何もしてないのに罪悪感が...」


「想いながら!? そんな!? 鈍感な

アル君からそんな言葉が!? 

というか何その自信!? 罪悪感って何!?」


「いや、あの人は多分報われないだろうなぁ...と」


「多分じゃなくて絶対!そんな危なさそうな

人を選んじゃ駄目なんだから!!」


「そ...そこまで言わなくても...」


そんなに否定したら騎士が可哀想に思えてくる。


「いい? 今アル君が言ったような人はね?

一度睨んだ人は逃がさないの」


その言葉を聞いて、俺は未だにこちらを睨み

続ける騎士を見た。


「まあ、確かにそんな気がしますね。


これは本当に夜道は気を付けた方が――」


突然ヘレンさんが俺の両肩に手を置いた。


「...ヘレンさん?」


「...今日からしばらく私のところに来なさい」


「え?」


「私がアル君のこと守るから!」


「それ火に油注ぐだけですよ!?」


「確かに私とアル君が一緒にいたら

危険な可能性が高い...。


でもね、鈍感なアル君ですらその想いに

気付くということは相当危ない人(女)

ってことだと思うの。


もしかしたら...いや、もうすでにその人は

アル君のストーカーなのかもしれないから」


「え? ああ、まあ確かにストーカーに

なってもおかしくありませんね...あれは」


ヘレンさんが俺の両肩に手を置いた辺りから

騎士の目から光が失われてるし。


あ、血の涙出た。


これは現時点で俺を付け狙う可能性が無いとは

言えないだろう。

  

まあ騎士なんだし可能性は限りなく低いとは

思うけど。


「ね? だからしばらく私のところに

住めば安心だと思うの。


女のことは同じ女である私の方が

わかるから」


「...女? どういうことですか?」


「へ?」


「え?」


お互いの認識の齟齬が修正出来たのは

それから数分後のことだった。

勘違いシーンの()が無いところはご自身で

ご想像ください。


わかりにくそうなところには()が

入れてあります。

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