周囲の近況
ここは王族の居住している場所の一室。
そこで、二人の人物が会話していた。
「ファル――正気なのか?」
自分の耳を疑うような有り得ない発言を
聞いた王都メイギスの王――ガランは、
娘のファルに向けて問いかけた。
「うん、正気。 正気だからこそ、
こんなこと言ったんだもん」
ファルの言葉を聞いて、ガランは
唇を噛み締める。
「...本当に...申し訳ない...せめて亡くなった
二人に代わって...お前だけでも幸せに
してやりたかった...」
まるで、泣くのを堪えるかのように
「気にしなくてもいいの。 だって、私は
国の役に立てるんでしょ?
国の役に立てるなら、どんなことだって嬉しいよ。
ね? だから、お父さんは気にしないで」
「くぅぅ...無能な父でごめんな...ごめんな...。
泣きたいのは...ファルの方のはずなのに...」
「泣かないで、お父さん。
きっと、これでよかったんだよ。
これで、また王都が元に戻るなら――」
ルルグスから帰ってきてもう3週間が経過した。
結局、ルリは俺と王都まで来たときに
しばらくここに住むことを決意したらしく、
王都に住み始めた。
彼女は日々成長を続け、あの力の
行使が徐々に上手くなっている。
数十秒だけだが、あの全力モードを維持
出来るようになったくらいだ。
続いてヘレンさん。
俺がルルグスに行っている間にもまた
強くなっていて、遂に口からだけではなく
手のひらの先からもブレスのようなものを
出せるようになったらしい。
ブレスじゃなくてビームとかレーザーとか
エネルギー砲などと言った方が良いのだろうか?
何はともあれ本人は、これでようやく人前で
使っても恥ずかしくないと喜んでいた。
ちなみに、今の彼女は龍化していなくても
普通の冒険家以上に戦える。
龍化していなくてもその力が溢れ出ているの
だろうかと推測しているが、何故そんなに
強いのかはわからない。
なお、ルリとヘレンさんは会ったときに
すぐ仲良くなったが、そのとき二人して
『絶対に渡さない』と言っていたが、一体
何を取り合っているのだろうか。
そして、ファル。
最後に会ったのは一週間前ほどだった。
そのときは元気だったのだが、最近は
めっきり会わなくなった。
病気にでもかかったのかと思ったが、
そんな噂は聞かないし、そもそもあの
元気さで病気にかかるところなど想像も
出来ない。
王女らしい仕事が忙しくなって王宮を
出られなくなったのだろうか。
最近の王都はとある理由でゴタゴタしている
ので、忙しくなったという理由は一応納得の
いくものではあるものの、やはり少し気になる。
だが、俺からはコンタクトを取れないので、
ただファルがそのうち会いに来るのを待つだけである。
さて、話は変わるが、今俺にはひとつ
困っていることがある。 それは――
『アルへ:愛する母より愛を込めて』
と封筒に書かれたこの手紙だ。
このような手紙が最近毎日のように送られてくる。
この手紙、書いてある内容は言わずもがな、
性能も恐ろしいものだった。
無駄だとは思うが、試しに実践してみようと思う。
俺は庭に出ると、念の為に自宅から持って
きておいた鍬で、地面を掘った。
ある程度掘ったら、そこへ手紙を入れ、
そして埋める。
そして居間に戻ればあら不思議
――手紙が二枚に増えて戻ってきたではありませんか。
増えた方の手紙を見ると『愛が足りないから
読む前に捨てちゃったのね...いいわ。
もっと愛を注いであげる!』と記述されている。
別に、手紙を送り返さなくても、読んだあとに
捨てても問題無いのだが、読まずに放置、
及び捨てたときは、このような超常現象が
発生する。
読まないと捨てられない...まさに呪いの手紙である。
母さんは呪術士でも目指していたのだろうか。
相変わらず母さんの正体が俺にはわからない。
さて、諦めて今日も手紙を読――
そのとき、カーン!! という鐘の音が
王都中に響いた。
「...またか...今週何回目だよ...」
最近、王都には高頻度で魔物の群れが攻めてくるようになっていた。
母さんからは逃げられない。




