縛りし鎖
2日後、そろそろ王都に帰ろうということで
俺は準備を終えて家から...出られずにいた。
その原因はもちろん母さんである。
「アルー! 行かないでー!」
子供のように泣きじゃくる母さんを、
俺はどうにか放そうとするが、
母さんはまったく力を緩める様子は無かった。
「離...し、て...くれ...!!」
母さんは今俺の足に掴まっている。
俺は母さんに足を掴まれたまま前に進むが、
母さんはズルズルと引きずられるだけで、
やはり離す様子は無い。
それを見ていた父さんは見かねたのか、
こちらに歩いてきた。
父さん...あんただけが最後の希望だ...!!
「こら、ルシカ。 そこら辺にしないか。
アルだって困ってるじゃないか」
「黙れ」
「ごめんなさい」
早いよ。
もう少し耐えてくれよ父さん。
なんで母さんの一言で土下座まで
持っていかれるんだよ。
「アル...父さんにはどうすることも出来ない...!」
くっ...、この母親をどうにかしないと
家から出れないのに...。
仕方がない...。
俺はそっとしゃがんで、母さんの顔を見た。
「アル...やっぱりここに残――」
「こんなことされたら、俺、母さんの
こと嫌いになっちゃうかも――」
「ごめんなさい」
俺は母さんの凄まじくスタイリッシュな
ジャンピング土下座を見た。
何故俺は父親と母親の土下座を同時に
見なければならないのか。
「はあ...わかってくれれば良いよ。
じゃあ、俺はそろそろ行くよ。
また来るからさ、元気でな」
そう言って玄関の扉に手をかけると、
母さんが駆け寄ってきた。
何だ? まだ何かあるのか?
「ねぇ? もしかして...まだ″農民″を続ける
つもりでいるの?」
「......ああ、そうだよ。 今のところは」
「そう...」
母さんはそれを聞いて俯いた。
「アル...母さんね、気にする必要はないと思うの。
もし、あの事が原因で義務感とか、
使命感とかに縛られてるんだったら――」
母さんの言葉を、俺は手で制した。
「いや、大丈夫だよ母さん。
俺が王都に居るのはさ、やりたいことを
見つけるためなんだ。
それに、農民の道を選んだとしても、
それは俺がやりたい事...なんだよ...。
だから俺はもう縛られてなんか、ない...」
思うように言葉が繋がらなかった。
すると、抱き締められる感覚があった。
力任せに拘束するようなものではなく、
フワッとした、優しい抱擁だった。
抱き締めてきた人物である母さんは、
俺の頭を優しく撫でながら
「本当に優しい子なのね、アルは...。
でもね、貴方はその優しさに潰されそうになってるの。
たまには、ワガママになってもいいと思うの。
後悔の無い道を選びなさい。
もし、自分の気持ちを押し殺してまで
やりたいことをやらなかったらそのときは――」
母さんは抱き締める力を強めると、
俺の耳元に口を近づけて、こう囁いた。
「監禁するわよ」
「絶対に後悔しない道選ぶ! うん! 決めた!
俺頑張るよ!」
人生最大級の寒気を感じた俺は、
逆らってはいけないことを理解し、
すぐさま肯定の意を示した。
「ふふっ...それならいいのよ。
でも別に、農民が駄目ってわけじゃないのよ?
...本当にそれがやりたい道なのなら...ね」
...こういうところがあるから母さんは
嫌いになれない。
むしろ、大好きだ。
絶対に本人には言わないけど。
母さんは俺から離れると、少し寂しげな
顔をしながら
「そろそろ行くんでしょう?
アル、これからも頑張って。 色々と...ね」
「ああ、ありがとう。 母さん」
俺は手を振る母さんに手を振り返して、家を出た。
歩きながら、俺は今、二つのことを考え始めた。
ひとつは、先程の母の話に関連すること。
そして、もうひとつは――
――何故父さんは最後まで土下座を続けて
いたのかということだ。
「あっ、やっと来た! 遅いよー!」
集合場所に着くと、すでにルリが待っており、
頬を少し膨らませていた。
「悪い、家でちょっと...色々あってな...」
主に拘束とか土下座とか。
俺の決まりの悪い顔を見たルリは、何かを
察したようで
「まあ、なんというか...お疲れ様」
心なしか哀れみの視線を向けられた気がするが、
気にしないでおこう。
「そんなことはさておき、んじゃ、
そろそろ行くか!」
「おおー!!」
相変わらず元気だな...。
「あ、そういやさ、あの力、あんまし
人前で使わない方がいいぞ。 誰かに
利用されるかもしれないし」
「あ、それのことなんだけど...」
「?」
ルリはばつの悪そうな顔をして
「...都市を出たら説明するよ」
「お、おう...」
何かあったのだろうか...?
ルルグスから出て、少し離れたぐらいの
ところで、ルリが止まった。
「さて、ここら辺でいいかな。
それで、さっきの力のことなんだけど...
ちょっと見てて」
ルリは胸に手を当て力を込め
「はぁっ!!」
掛け声と同時に、白い光がルリの体を纏った。
しかし、数秒と持たずに、その光はほとんど
消えてしまった。
今ルリの体を纏っているのは、薄い光だけだった。
「...と、このように、まだまだ満足には
使えない状態なんだよね...」
残念そうな顔をしてルリはそう言った。
「あのときは特別だった...ってことか?」
「うーん、まあ火事場の馬鹿力ってやつじゃないかな?
意味はちょっと違うと思うけどね。
これから訓練を重ねて、使えるように
していくつもりなんだ」
「そっか...頑張れよ」
「うん!!」
俺も、ステータスの高さに傲らずに、少しは
鍛練しないとな。
「...あれ?」
「どうしたの? アル」
「いや、なんか...」
何か忘れているような――
王都に戻った日、ファルに見つかった俺は
心配したと言われ少し怒られた。
解せない...。
3章終わりっと...。
4章はサクッと無双して終わる予定...のはず。
先に言っておきます。
恐らくかなりありきたりな話になります。
遂にファルさんに日の光を浴びさせる予定です。