恐怖は突然に
さて、正解は如何に
「んん...?」
目が覚めると、俺はルリに膝枕されて
寝かされていた。
「...起きたかな?」
「おう...なんか悪いな...」
「あ、いや...別に、なんというか、えっと...
ごちそうさまでした?」
少し顔を赤くして慌てて喋るルリが
なんだかおかしくてつい笑ってしまった。
「ははっ、なんだそりゃ」
「ちょ!? 今笑ったよね!?」
「悪い悪い」
そう言って俺は起き上がった。
「...すっかり夜だな」
森の中は暗くなっていて、心なしか先程よりも
霧が濃くなっている気がした。
あれ? そういえば周りを見てもロキの
遺体がどこにも...
「さっきの人の遺体は埋めて弔って
おいたよ。 万が一アンデッド化なんて
されたら危ないからね」
「そうなのか」
やっぱ邪神の配下と言えどもアンデッド化
するんだろうか。
もしもアンデッド化したアイツと戦うことに
なっていたら...
考えるだけでも寒気がする。
まあ、もうその心配は無くなったわけだが。
「んで、俺はどんくらい寝てたんだ?」
「うーん...3~4時間くらい?」
うわ、めっちゃ寝てたんだな。
邪龍と戦ったあとに3日間眠り続けたときよりか
マシだけど。
「実はね? あの人を弔った後に
アルを背負って帰ろうとしたんだけど...」
ルリは面目なさそうに視線をそらして
「...道がわかりませんでした」
うん、それは仕方ない。
「じゃあ帰るか、さっきも行ったけど、俺は
道がわかるからさ」
「うん! じゃあ道案内よろしくね、アル!」
...そういえば俺、これまでルリに呼び捨てに
なんてされてたっけ?
...まあいいか。
俺は出口に向けて足を一歩踏み出して――
ガシッと、何かが俺の腕を掴んだ。
俺が掴まれた腕を見ると、ルリが顔を
青白くしながら俺の腕を掴んでいた。
それに、どうやら少し震えているようだ。
「...ルリ?」
「ねぇ...、今何か聞こえなかった?」
「何か...って?」
「わかんないけど...なんか恨めしそうな
声だった気が...」
「―ル~、――に――の~?」
「ひぃぃ!!」
聞こえた。 俺にもバッチリ聞こえた。
「...こういうの無理なのか?」
「アンデッド系みたいに僕の技で倒せるような
存在だったら大丈夫なんだけど...。
幽霊って言えばいいのかな?
実体を持たずにさ迷ってるものは苦手なの...。
何されるかわからないから...」
言いながらルリはブルブルと震えていた。
その間にも先程の声はどんどんと
大きくなっていく。
声の主が近付いてきている証拠だ。
別に、そんなに怖がる必要も――
「...ル~...、ど―に――の~?」
「ううっ!! ほらまた!!」
恨めしげな声にを聞いたルリの悲鳴が響き渡る。
おい待て、この声は――
「誰かしら...? 何故かアルをたぶらかす
ような気がする女の声がしたわ...」
鮮明に、声が聞こえた。
母の。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
俺は叫びたい衝動を必死で押し込んで、
体の横でルリを抱えると、そこから迅速に
逃げ出した。
早く逃げないと...ルリが殺られる...!!
「...ふう...どこに行ったのかしら...?
お母さん心配だわ...」
そんなに親バカな彼女の行く末が一番
心配であるのは言うまでもなかった。
俺はルルグスの近くまで走ってくると、
門の近くで止まって、ルリを降ろした。
「はぁ...はぁ...はぁ.......ここまで...来れば...」
膝に手をつき肩で息をする俺を見たルリは、
幽霊(母)を怖がっていた俺に親近感が
湧いたのか、はたまた幽霊(母)から
離れて安心したのか、笑顔で話しかけてくる。
「ね? やっぱり幽霊って怖いでしょ?」
「ああ、最高に怖かった。
生きた心地がしなかった...」
見つかったらもう...ね。
考えたくもない。
世の中には怪談という暑い時期に
肝を冷やすために話す怖い話があるようだが、
俺はどうやら夏になる度にこれを思い出せば
ヒヤッと出来そうな気がした。
今でもまだ心臓がバクバク言ってるし。
「あはは、アルもよっぽど怖かったんだね。
じゃあそろそろ入ろうか」
「...おう」
俺は門番と手続きしている間に母が戻って
来ないかヒヤヒヤしていたが、そんなことは
起こらずに、無事入ることが出来た。
「じゃあ、僕はこっちだからさ」
「いや、もう暗いから宿まで送る」
実際のところは家に戻ったときに
すでに母親が居そうで怖いから
遅くしたいだけだが。
昔、よくあったんだ。
村の人に内緒で遠くまでテスタと遊びに
行ったとき、母が探しに来て、見つかったら
怒られると思った俺達は隠れながらすぐに
家に戻ったのだが、何故か家の中ですでに母が
待機していたことが。
あの人は瞬間移動でも出来るんじゃないだろうか。
ほんと、何者なんだろうな。 俺の母親は。
... 考えるまでもなく、ただの親バカだったな。
「じゃあお願いしようかな...でも、
なんか遠い目してるけど大丈夫?」
「...気にしないでくれ、大丈夫だから」
「そ、そう? じゃあ宿まで頼める?」
「わかった」
「ふふっ、よろしくね」
そうして、笑顔で嬉しそうなルリと、
死んだ魚のような目をしている俺は
宿へと向かったのだが――
「...あれ?」
「ん? どうした?」
「確かここに宿があったはずなんだけど...」
「そーいや、俺がさっきここに来たときも
確かこの辺に宿が......無い?」
まるで宿だけを取り除いたかのように、
ポッカリと建物が無くなっていた。
「...どうなってるんだ?」
「わからない...荷物はこのバックに
入ってるから、無くしたものは別に無いし、
それは構わないんだけどさ...なんか、怪しいね」
「ああ...」
しばらくの間、俺たちはその場に立ち尽くしていた。
結局あのあと、ルリは別の宿を取った。
というわけで俺は家に向かったのだが...。
...ごくり。
俺は唾を飲み込んで覚悟を決めると、
扉を開き――
「...ただいm」
「アーーーーーールーーーーーーー!!」
見ては行けないものが向かってきたのが
見えたので、全力で扉を閉めた。
ドゴォッ! と扉に何かがぶつかる音が
したので、俺は慎重に扉を開くと、
そこに母さんの姿は無く――
後ろから声が聞こえた。
「恥ずかしがらなくてもいいのにー!
心配したのよー! アルー!」
おい待て何で背後に居るんだ母よ。
伸ばされてきた腕を間一髪避けると、
俺は迷わずに家の中に走り出した。
そして、丁度自室に入ろうとした父さんを
見つけたので、父さんが扉を閉める寸前に
俺は父さんの部屋に潜り込むと、ガチャンと
鍵を閉めた。
「ふふ...アル、私は昨日のことを
学習して父さんの部屋の鍵を――」
俺だって何も考えていなかったわけではない。
俺は今日の朝、部屋の内部の扉の左右に
とあるものを取り付けておいた。
そして、そこに木の板をはめると――
「なっ!? 開かない!? どうして!?」
まるで木の板が閂のような役割を果たし、
鍵を開けられたとしても扉を開けることは
出来ない。
「ミッションコンプリート」
そして俺はまた布団を敷いて寝た。
「待ってくれアル!? いつの間に
そんな仕掛けを付けたんだ!
そしてそんなことをされて被害に遭うのは
父さんなんだ! 頼むアル! 起きてくれ!
父さんには今この扉を開ける勇気は無い!
なあアル!? アルゥゥゥウゥゥゥゥゥ!!」
翌日、父さんは天日干しされた。
というわけで正解は4のママが来るでした。
え? 選択肢に無い?
選択肢に無いその回答が一番多かったん
ですがそれは...(白目)




