力を得た勇き者
シリアスはよ退場しろ
「これは...まさか...解放したというのですか...!?
善神を力を...!!」
ロキの顔からは余裕が消えていた。
「くっ...! ですが、力に目覚めたくらいで...!!」
ロキが腕を伸ばすと、地に落ちていた
切断された腕が液体化して元の位置へと
集まっていった。
そして液体は腕を構成し終え
「――私に勝てるなどと思わないことです!」
ルリに向かって飛びかかってくるロキ
だったが
「今なら見えるよ...全部ね!!」
圧倒的な速度の剣技にロキは追い付かない。
伸ばされた右腕や蹴りだされた足などが
どんどんと剣の餌食になっていく。
「この...、小娘が!!」
切り刻まれるロキだったが、一度攻撃範囲から
離れ、まだ斬られていない左腕を液体状にし、
左腕だったところを鋭くとがった形状にした
「この液体化は硬さや形状までもを変えることが
出来るのです!
この状態なら切断されても痛みが無く、
貴女の体力が切れるまで待つのみです!」
一度切り離された部位も液体化させて集め、
そして液体化していなかった身体中も
次々と液体化させ、その形状を変化させていく。
さながら、自分自身を兵器に変化させる
かのように
「その色...気配...君は身体中を闇そのものに
変質させてるんだね...。
さっきの言葉は嘘じゃなかったってことなんだ...。
なら」
ルリは目を瞑り、剣を上に構えた。
それを見たロキが、嘲笑いながら地を蹴った。
「無駄です! 全身を闇の液体に変えた
この私にダメージが通るとでも――」
ルリは目を見開くと
「――聖断罪・闇喰!!」
ルリは縦に剣を振り下ろした。
その瞬間、大出力の光の刃がロキを襲う。
「そんなもの、避ける必要も――
があ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″!?!!!」
液体化の状態で痛みを受けるとは
思わなかったのだろう。
先ほどまでの紳士的で余裕だった彼は
どこへやら、壮絶な痛みに悶えてながら
光の刃に抉られた部位に手で触れていた。
「な...何故です!? 何故この体にダメージを!?
ぐぅ...一度液体化を解除...」
徐々に元の形に戻るロキだったが、解除しても、
怪我は治っていなかった。
先ほどまでは、再生すれば治っていたのにも
関わらずにだ。
「小娘...私に何をしたのですか!?」
「僕の使ったこの剣技は父さんから
教わった技でね、名の通り、闇を喰らう
聖の力を光の刃として放出する技なんだ。
君は液体化すると闇そのものになるんでしょ?
なら、この技の格好の獲物なんだよ」
「...そんな...ことが...」
ルリの言葉を聞き、ロキは声を震わせながら
「そんなことが...あって、たまるかぁぁあ!!」
憤怒に満ちた表情で無防備にルリに
飛びかかる彼に、もはや気品さはまったくなかった。
「そういえば君、さっきアルが頭を
殴ろうとしたときに攻撃を食らうまえに
液体化させてたよね?
――なら、頭を狙われるとマズイのかな?」
頭を狙って剣を突き刺すように出したルリ
だったが、ロキはわざと顔面を液体化させて
飛び散らせることでそれを回避した。
「面倒な能力だね!」
ルリはロキの体を蹴り飛ばすと、液体化した
顔面だったモノに向けて
「喰らえ! 聖の力よ!」
光を纏わせた剣で液体を切り裂いた。
「ぎぃぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!!」
口はまだ構成させていないはずなのに、
何故か悲鳴が響く。
堪らずロキは蹴り飛ばされた体に液体を
戻し、顔を構成する。
元に戻った顔に、左目は無かった。
「許しません...絶対に...貴女のことは...!!
この私が...最高に残酷で、無惨な方法で――」
ルリはそんなロキを見てニヤリと笑うと
「そんなことよりさ、君...誰か忘れてない?」
「は...?」
高速移動、そのスキルを使って一瞬の内に
ロキの背後に近付いた俺は拳を振りかぶる。
先程習得したであろうスキルの力を
拳に纏わせて。
液体化を解除して普通の状態になった
今なら――
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
――頭部を破壊さえしてしまえば、それで終わる。
ゴッ! と鈍い音が響くと共に、首の方から
べキャッ! と曲がるような音がした。
憎悪に満ちた表情のまま、ロキは倒れた。
倒れたロキは、ピクリとも動かない。
念のため、ステータスを確認したが、
HPは0になっていた。
「...勝った...んだよな?」
ルリが近付いてくる。
「うん、終わったよ。 ありがとう。
アルのお陰で、僕は――」
「そうか、よかっ...」
目の焦点が定まらない。
俺は足に力が入らなくなり、前のめりに
倒れそうになった。
が、ルリはすかさずそれに気が付いて
支えてくれた。
「悪い...」
俺がそう言うと、ルリは俺の頭に手を置き、
撫で始めた。
「ううん。
僕の為に頑張ってくれてありがとう。
君のおかげで僕は大切なことに気付けたみたい。
疲れてるんでしょ?
後は僕に任せて休みなよ。
ふふっ、でもこんなことってあるんだね。
僕は君に――――」
その先の言葉は、意識を失った俺の耳に
届くことはなかった。
「...寝ちゃったかぁ...ゆっくり休んでね」
はぁ、とルリは溜め息を吐いたが、アルを
見て優しげな笑みを浮かべた。
先程、アルには聞こえていなかっただろう
言葉が、アルの寝顔を見ていて、改めて自分の本心なんだ
ということが実感できた。
そして、聞こえないとはわかっていながらも、
「僕は君に――」
もう一度、ルリはアルに伝えるかのように
先程の言葉を発する。
「――惚れちゃったみたい。大好きだよ、アル」
さらばシリアス!!
そしてここで問題、地形把握の無い彼女は
どうやって帰るのか!?
1:自力で帰る。
2:アルが起きるのを待つ。
3:森を破壊して無理矢理出る。




