裏に隠れた能力、そして開花
いつもよりちょっぴり長めかも?
「善神の...力?」
そう言ったルリの表情は驚愕に染まっていた。
「ええ、勇者には善神の力が、魔王には
邪神様の力が与えられているのですよ。
まあ、この長い歴史があったというのに、
両方とも一度たりとも力の片鱗すら解放
出来ていませんでしたがね」
そう言いながらロキはくっくっと笑った。
まるで嘲笑うかのように。
「まあ、ですから正直、貴女はあまり
脅威ではないのですが...
あの善神の力を持っているというだけでも
私は貴女を始末する理由が十分にあります...!」
ロキはまるで親の仇を見るかのような目でルリを
睨んでいた。
「さて、もういいでしょう。
どちらから死にたいですか?
返事がないようでしたらまずは貴女から――」
「待、て...」
俺は立ち上がると、ロキを見据えた。
「ほう? まだやるつもりですか?」
「そもそも負けるつもりは微塵もねぇよ...」
血が足りないのか少し足元がフラフラとするが、戦えないわけではない。
「...所詮はステータスに振り回されている
分際で...よくもそんな舐めたことを言えますね!」
「来たか...!」
こちらに飛びかかってくるロキを動きを
よく見て、回避に専念する。
隙を見て、コイツに一発決めてやれば...。
「ちょこまかとしぶといですねぇ!」
さらに殴打の速度を上げてくるロキに、
俺は防戦一方で、ロクに隙を見つけることが
出来ずにいた。
このままじゃ体力が切れて終わる...その前に
どうにか――
「無駄ですよ?」
気付いたときには、目の前にロキの拳があった。
鈍い音と共に俺の顔面に直撃した拳の
威力は重く、深く、強く、意識が飛びそうになった。
だが俺は歯を食いしばり、その拳の
威力で吹き飛ばされないよう、地を踏みしめる足に力を入れていた。
「なっ!?」
流石にこれには驚いたのか、微動だにしない
俺を見てロキは驚愕の声をあげた。
今しかない...!
俺は拳を握る。
頼む、俺にコイツを倒せるほどの力を!!
――その瞬間、不思議と拳に力が纏った気がした。
恐らく、何かしらのスキルを取得したのだろう。
上等、これだったら――!!
「うおぉぉぉぉおおぉお!!」
普段の数倍以上の威力を持った拳は
ロキの顔面に突き刺さり――
まるで泥水を殴ったかのような感触と
共にロキの顔面を貫通した。
「えっ...?」
流石に威力が高すぎる...
いや、これは――
そのとき、俺の胸元に、顔を貫いたはずの
ロキの手がそっと添えられた。
「――本当に...詰めが甘いですね!」
ドッ!! という音と共に発せられた
衝撃波は、俺を吹き飛ばすのに十分な威力だった。
「か、っは...!?」
今度は木では無く地面に叩きつけられる
形になった俺は、その勢いで地をゴロゴロと
転がった。
「あ...がっ...」
何が...起こった...?
「アル君!!」
ルリがこちらに駆け寄ってきて、俺に
声をかける。
「大丈夫!?」
「ちょっと...マズイっぽい...かも...」
「ッ...!!」
ルリは悔しそうに唇を噛み締めた。
「僕にも...力があれば...!!」
「...ルリが気に病む必要は...ない...!」
そう言いながら俺はゆっくりと顔をあげた。
そして見た。
ロキの顔がスライムのような液体状に
なっているところを。
その液体は黒く、液体は徐々にロキの
本来の顔を構成していった。
「いやぁ、今のは当たってたら危なかった
ですね。 私、このように体の一部を
液体に変えることが可能でして。
いやはや、これを使うことになるとは
思わなかったですね」
「くっ、そ...。 せめて、ステータスさえ...
見れてりゃ...少しは...」
俺の言葉を聞いたロキは、笑いながら
近付いてきた。
歩きながら、ロキは語る。
「ああ、無駄ですよ?
そもそもあれを知っていても対策など
出来ないでしょう?
それに――」
ロキは俺達の2~3m前で止まり
「例えステータスを見れたとしても...
――この能力はステータスには表示されませんから」
...は?
「何...を? 一体、どういう...」
「邪龍を討ったのは貴方ですよね?
ならば当然ステータスを確認したはず。
ですが、そのとき″憑依″というスキルが
ありましたか?
推察するに、龍の力を引き継いだ女に
一度憑依したと思っているのですが...
そのことを不思議に思いませんでしたか?
何故憑依のスキルを持っていない...
いえ、持っていないように見える
邪龍が憑依を使えたのか...」
「...まさか」
「おや? お気づきになられましたか?
我々は、邪神様から、ステータスを見ることが
出来る存在に対抗するために、一つだけ
ステータスに表示されない能力を頂いたのです!
一般人にはその効果はありませんが、善神の
加護を受け、相手のステータスを覗くことが
出来るような存在には特に効果覿面です!
とはいえ、貴方は私のステータスを見ること
すら出来ませんでしたがねぇ...?
まあ、私は邪神様の配下の中でも
それなりに強い部類に入るので、私以外に
ならステータスの開示は効くと思いますよ?
気に病む必要はありません。
それでは――」
「ヒー、ル...」
もう回復魔法を使ったとしても血があまりにも
足りない。
が、立ち上がることは出来る。
俺はヨロヨロと立つと、またルリの前に
立ち塞がる。
「まだ立てるのですか!? これは素晴らしい!!」
「うっせぇ...」
愉快そうに笑う姿が目障りだった。
「もう...いいから! アル君...!」
ルリが俺の服の袖を引っ張りながら
そう言う。
「ルリ...」
「もう、無理だよ...。 僕を置いて逃げて...。
君の足なら...きっと...ルルグスまで逃げ切れる...。
この人、多分、人気のあるところ
だったら何もしてこないよ。 それは
さっきの話からわかった。
だから――」
「知るか...んなもん...」
俺はロキを睨み付け、口から血を吐きながら。
「コイツを...ぶっ倒して、お前、も...助けて!
ヘレンさんも...助ける! それ以外、望んでねぇ!」
「どうして...そこまで...?」
そこまで言って、ルリは はっとした。
そしてルリは自分の心を恥じた。
自分は勇者の子孫だから、心配が要らないと
言うのに、彼は駆けつけてくれた。
勇者の子孫としてではなく、一人の人として
見てくれた。
どんなに辛い状況でも、諦めずに
自分の目の前に立ってくれた。
それなのに、この状況を作り出した原因
だというのに自分は何を諦めているんだろう?
親から『世界を平和にして、人々が笑顔に
暮らせる世を作れるように尽くす』のが僕らの
仕事だと言われてきたのを忘れたか。
農民である彼が、ここまで死に物狂いで
諦めずに頑張っているのに。
そんな僕が、ここで諦めていいのか?
否、そんなわけがない。
もしもそんなことがあればとっくの昔に、
人類は魔王に侵略されている。
先祖様とて、魔王と対峙したときは
一度や二度はピンチになったと聞く。
だが、倒れても倒れても立ち上がり、
そして、見事魔王を倒した。
勝てない程度の事で...諦める理由は
――ない。
「ごめん、僕が間違ってた...。
あはは、こんな簡単なことを気がつかないとはね」
「ル、リ...?」
「もう、大丈夫、ありがとう。 アル」
ルリが俺の前に出る。
「おや? 諦めて殺されに来てくれたのですか?
なら、その意思を尊重して...、先に逝きなさい!」
闇に染まった腕がルリに迫る。
ルリはそれを気にせずに、胸に手を当てた。
「これが...そうなんだね...?」
そしてルリの顔の目の前に拳が――
「――僕は、諦めない!!」
瞬間、白い光がルリの体から溢れた。
「なあっ!?」
そして、驚いたロキの伸ばされた腕を
目にも止まらぬ剣技で切り裂き、切断された
腕が宙を舞った。
「ちぃっ...!!」
ロキは危険と判断したのか、一度こちらから
離れた。
「...覚悟しろ、ロキ・ダエーワ」
ルリは剣先をロキに向ける。
「君の野望は...ここで僕が打ち砕く!!」
シリアスがぁぁぁぁぁぁ!
親子編が懐かしい...。




